*赤ずきんを脱がして


文化祭2日目。執事喫茶の昼休憩を狙って荒北を引っ張り、ようやく到着したのを出迎えたのは新開だった。

「どうしたんだ?それ」

どうした、とは衣装のことだろう。
名前は手にバスケットを持って赤い頭巾を被っており、隣に立つ荒北は憮然としているのにその姿は狼の着ぐるみなのだから笑いがこみ上げてくる。

「うちのクラスも喫茶店なの。童話喫茶」
「なるほど。だから赤ずきんと狼か」

珍しい格好の2人に気付いて部員がどんどん寄ってくる。

「何だ荒北、似合うではないか!さすが箱学の狼だな」
「ッセ!」
「荒北さんが大人しく文化祭の出し物に参加するなんて珍しいですね」
「やらねーと勉強教えないって脅されたんだよ」

荒北が名前を見て小さく舌打ちする。さすが荒北の扱いはお手の物だ。

「でも苗字さん気をつけないとですねー赤ずきんは狼に食べられちゃいますから」

真波は「かわいいなー」と頭巾をつついている。
名前は「余計なことを」と呟き、今度こそ荒北の盛大な舌打ちが響いた。

「靖友」
「童話の中の話だろーがッ!真に受けんなボケナス!」

着ぐるみを脱がしにかかる新開と逃げる荒北を無視して、東堂が上から下まで名前をじっくりと眺めてくる。東堂が相手だといやらしい感じがしないのが不思議だ。

「似合わないとは言わんが、苗字の雰囲気と赤ずきんの衣装の可愛さがミスマッチだな。ある意味で倒錯的ということか」
「真剣にセクハラしないでよ」
「おまえと荒北なら『美女と野獣』でもよかったのではないか?隼人もそこまで面倒なことにならないしな」
「あーそれな」

新開の頭をホールドしながら荒北が答える。

「苗字が肩とか背中とか出る衣装NGだからァ」
「それはどういう……いや、愚問だったな」

事情を飲み込んだのだろう。頭を抱えている。新開は「いやあ」と悪びれない。

「後で遊びに行きますね」
「おいでー。荒北がもてなすから」
「勝手に決めんな。っつーか黒田は来んな」
「オレも行く!」
「すみません。新開さんは最後まで指名が埋まっています」

無慈悲な泉田の宣言と共に執事喫茶Glory Roadの午後の部は始まった。


***


2日目が終わり教室で片付けをしている時だった。ざわりとどよめきが起きたので何事かと思えば、入り口にまだ着替えていない執事姿の新開が見える。

「お、いたいた。赤ずきん」

ズンズンと笑顔の新開が近づいてくる。正直嫌な予感しかしない。隣の荒北も同じだったようで、本日何度目かの舌打ちが聞こえる。

「よっと」

新開が軽々と名前を持ち上げると、教室中から悲鳴があがる。

「オイ、そいつどーすんだよ」
「靖友が狼役ならオレは猟師役をするよ」

バキュンとおきまりのポーズを荒北に向ける。

「赤ずきんは猟師に助けられるんだろ?だから赤ずきんはオレがもらっていくな」

(オレを仕留めてどーすんだっつーか、その格好で猟師とかねーし。猟師は赤ずきん攫ってかねーよ)

言いたいことは山ほどある。
しかし1日接客をさせられた荒北には反論する気力は残っていない。

「あとコレは靖友に」

どこからともなく出てきたのはビニール袋に入った大量のベプシだ。
荒北がどうしたのかと問いかける前に新開が口を開く。

「石の代わりだよ。狼は石を詰められて動けなくなるんだろ」
「…見逃せってことか」

ニコリと微笑む。
荒北は一度だけ溜息をつくと、手で行けと合図してベプシを開ける。

「荒北を買収しないでよ」
「物語が終わったってことだよ。ここからはオレと名前のお話」

名前を抱えたまま新開が語りかける。
進むにつれて見かける生徒も減って行き、文化祭では使われない薄暗い通路に2人だけになる。

「どんな話がいいかな。恋愛、ファンタジー。ミステリーは遠慮したいな」
「コメディとしか思えないんだけど」
「それもいいな。でもオレとしては官能小説を希望したいな」

名前が降ろされたのは2人がサボる時に使う準備室で、新開の目はすでに艶を持っていた。
柔らかい唇に塞がれてしまい否定することも叶わない。
ブラウスの胸元もボタンをはずされ、新開の指が谷間をなぞる。

「赤ずきんちゃんなのにエロい体だな」

頭巾をはずされ、またキスの嵐に巻き込まれた。ずっと頭巾を被っていたので乱れた髪を手櫛で梳く。

「これで赤ずきんじゃなくなったな」

ブラをずらされ、見えた頂に新開が舌を這わせてくる。

「隼人ってコスプレ好きなの?」
「ん?まぁ嫌いじゃねーけど特別好きでもないかな。何でだ?」
「急にこんな…どうしたのかなって」

新開の手がスカートの中に入ってくる。太腿をひと撫ですると更に奥に手を伸ばしてきた。

「急じゃねーよ。自分の彼女がカワイイ衣装着てて、その下のエロい体を知ってんのはオレだけだと思うと興奮するだろ」

澄ました顔でスーツを纏って昼間からそんなことを考えていたのか。
チクリとした痛みとともに胸についた赤い花。
やはりドレスを着るような王子と姫の物語の主人公にはなれないようだ。

「王子って言ってもこんなエロ王子だし…」
「王子だってヤることヤるだろ」
「そういうところが王子じゃないの」

王子と姫でなくてもいいのだ。
大切なのは物語を紡いでいく相手が新開ということだ。
新開と自分ならどんな物語でもハッピーエンドに違いないのだから。




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