*鬼を喰らう


真新しい制服の新入生を迎えるのも2回目の春。それほど感動もないクラス替えと、新しい担任を確認して初日は終わる。春休みからほぼ毎日学校に来ているせいが、学期の境目が見えにくいのも毎度のことだ。
慣れた道を進んで部室へ向かう。今年はどんな新入部員が来るのだろう。名前にとってはクラス替えより楽しみだ。

「お疲れ…って隼人だけ?」

部室にはベンチに寝そべって本を読む新開が一人だけだった。新学期初日だから新しいクラスメイトと話が盛り上がっているメンバーも多いのだろう。

「逃げて来たな」
「名推理だな」

ムクリと起き上がった新開が肩をすくめる。
相変わらず人気の衰えない彼のことだから、クラスメイトに囲まれるのを見越してスルリと教室を抜けて来たのだろう。

「どうだ?新しいクラスは」
「3年だしね。何となく知ってる人が多いよ」
「靖友と同じクラスだろ。靖友は?」
「運悪く出席番号1番の荒北は先生に手伝いを指名されてる」

今年は荒北と同じクラスだった。
新開とは付き合っていることがこれだけ公になっているのだから同じクラスにはならないだろうと思っていた。だが3年間一度も同じクラスにならないのはある意味で運命すら感じる。
ポンポンと空いている隣の位置を叩くのでそれに従う。すると腰を引き寄せられ、顎を持ち上げられた。
新開は最近ますます男らしく色っぽくなって困る。
柔らかい唇の感覚の後に舌が割り込んでくる。いつの間にかがっしりと抱きしめられていて、2人の間には隙間がなくなった。
水音が誰もいない部室に響くのがとてつもなくいやらしい。

「これ以上してると勃っちまうな」

ようやく体を離された時には新開の胸にもたれかかるしかないほどに力が抜けている。大きな手が名前の髪を撫でてはすくう。

「シてぇなぁ」
「これから部活だからね」
「ちょっとだけ」
「ダメ」

クスクスと笑いながら否定する。

「同じクラスになりたかったな」
「無理でしょ」
「昨日尽八にも同じこと言われたよ。あと、オレは名前と同じクラスになったら名前ばっか見て授業をまともに受けなくなるから成績落ちるってさ」
「それを東堂に指摘されるのってどうなの…」

呆れる名前に反して新開は微笑んでいる。恥ずかしいという感情はどこに忘れてきたのか。
少しだけ力が戻ってきた体をそっと離す。

「名前、もっかいキスしたい」

ダメだ、と言うことはできなかった。青い瞳は名前から理性を奪う。
このまま流されてはダメなのだ。もうすぐ人が来る。
だが、名前はこの雄としか言いようがない瞳が好きで、本能で欲してしまう。
名前から新開の首に手を回して口付けると、ゆっくり押し倒されていく。
視覚、触覚、嗅覚の全てが新開に侵食される。気付けば腿のあたりに硬い感触がある。そっと手を伸ばせば、クスリと新開が笑ったのがわかる。

「どうしようか?」

挑発的に髪をかきあげる仕草は野生の雄そのもので、この獣とも鬼とも言えない存在に全て喰らい尽くされてしまいたい衝動に駆られる。
しかしただの獲物になるつもりもない名前は、上に乗る新開の体を押しのけ、ベンチから降りる。床に膝をつけ新開を見上げた。

「シてくれんの?」
「放置していいの?」
「手でもいいんだぜ?」
「そんなこと思ってないくせに」

この鬼を自分が喰らってやるのも悪くない。名前はゆっくりと口を開いた。


***


「っざけんなヨ。てめーら」

窓を全開にした部室で荒北の暴言を黙って聞く。

「部室でヤんなって言ってンだろーがッ」
「よくわかるな。オレにはわからんぞ」
「ニオウんだよ。新開のニオイなんざ気持ちワリィ」
「酷いな。靖友だって似たようなもんだろ」
「あ、バカ」

新開の頭に拳がヒットする。
並んで正座している新開と名前の前には怒れる荒北に、呆れている東堂、やはり表情は読めない福富が立ちはだかっている。

「どうする?フク」
「苗字は仕事へ行っていい。新開は今日ローラーと筋トレのみだ」
「オーケー寿一」
「苗字はお咎めなしなのか?甘いぞフク!」

東堂が福富に詰め寄る。名前も甘いと感じて続きを待つ。

「苗字は仕事をしてもらわないと困るからな。いつもの3倍働け」
「…わかった」

確かに新学期早々仕事に穴を開けるのも良くない。気の早い新入生は今日から見学に来るのだから。
名前は立ち上がり、まずは朝練で使ったタオルを洗濯機に放り込むことにした。ふと視線を感じて振り向くと、新開がバキュンポーズを向けているので容赦なく福富にチクってやった。




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