*新開隼人の部屋


「苗字いるゥ?」

ノックの後に続いたのはおよそ男子寮での呼びかけではなかった。なぜなら苗字名前は部屋の主である新開隼人の彼女で、学年でも人気の女子だからだ。

「靖友。名前は今日来ないぜ?」
「ンだよ。課題教えてもらおうとしたのによォ」

例え名前がここにいたとしても、それは新開に会うためで荒北に課題を教えるためではないはずだ。
しかし名前が新開の部屋に忍び込んでいるのを知ったチームメイトはちょくちょく名前へ会いに来る。荒北は課題を教えてもらいに、東堂は意味のなさそうな会話をしているがその実後輩の様子を名前から聞き出している。しまいには福富まで名前に部の相談ごとをしに来るようになった。

「これじゃあオチオチ抱けないじゃないか」
「心の声が漏れてっカラァ」

名前がいないというのに自室では誘惑が多いと言って課題を広げ始めた荒北に新開の溜息が落ちていく。
新開が抵抗を諦めて自分も課題をやろうと鞄からノートを取り出した時、再びコンコンとドアを叩く音がした。

「苗字いるか?」
「今度は尽八か」

1人招けば2人も変わらない。新開はドアを開いた。


***


「それで3人で課題やったの?」
「いや、寿一も呼んだから4人だ」

翌日の昼休み。2人だけの昼ご飯で新開は愚痴っぽく昨夜のことを話した。
名前はケタケタ楽しそうに聞いているので新開の複雑な感情をどこまでわかってもらえているのかは怪しい。
マネージャーである名前が部の主要メンバーに頼られるのは良いことなのだろう。だが部を離れて2人の時間もほしいと思うのだ。年頃の男子相応の性欲だってある。

「荒北の課題って英語だった?」
「ん?そう言えば英語だったな」
「今日の朝練の時にさ、東堂と少し打ち合わせしたんだ。福富も一緒に」
「そうか。いつもありがとな」
「だからさ、今日はみんな来ないんじゃないかな?」

笑っている調子そのままで言うので聞き流してしまいそうになる。
ハッとした新開が名前を見ると少し照れた笑顔がある。

「みんなといるのも楽しいけど、やっぱり隼人と2人で過ごしたいよ」

名前の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで新開が口を塞いだ。
いつ誰に見られるかわからない中庭の隅だ。怒って押し返してくるだろうと覚悟していたのだが、今日の名前は新開の袖をキュッと握ってきた。

(それは…反則だろう)

頭の奥で警鐘がなる。
角度を変えて舌を絡めて何度も味わう。時々聞こえる名前の息遣いは新開の思考を塗り潰していく。

(ヤッバイな。止まんねぇ)

手はすでに名前の腿を捉えていた。
抵抗するはずの名前は酸欠で力が入らない。

「名前……シたい。夜まで待てない」

耳元で囁くと名前がピクリと震えた。拒絶がないのを返答に、腰を支えて立ち上がらせる。
この次の時間に人が来なそうな場所はどこか、授業中とは比較にならないほど高速で頭を働かせる。
チラリと見た名前の顔は明らかに新開を求めていて、堪らなくもう一度口付けた。


***


「おっ帰りィ」
「……荒北」
「授業サボってどこに行ってたのかなァ?苗字チャンは」
「ご迷惑おかけしてスミマセンデシタ。これベプシ」
「首の後ろにマーキングされてっから髪で隠しとけヨ」
「!!?」




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