*三者会談


「荒北!新開くんって好きな子いるの?」

そんな呆れる内容の質問をされたのは昼休みに食堂で唐揚げを頬張っている時だった。
荒北と福富、東堂が揃っていることろにクラスメイトの女子が数人寄ってきたのだ。
教室で聞くと荒北が逃げるのをわかってのことだろう。福富が目の前にいる今、荒北に逃亡の選択肢はない。

「何でオレに聞くんだよ。ンなこと本人に聞けよ」
「聞いてるよ!でも新開くんっていつもうまくはぐらかすからさぁ」
「じゃあ言いたくねぇってことダロ」

素っ気ない態度を隠しもせずに答える。
そもそも確認してどうしようというのだ。不毛な会話に嫌気が差す。

「だって新開くんと特別仲良い女子っていないしさぁ」

荒北の目の前でこれ以上なく福富が驚愕している。滅多にお目にかかれない貴重な表情だ。
まぁそうだろう。自転車競技部の人間からすれば耳を疑いたくなる話だ。

「そう言えば今日新開くんは?」
「さぁ知らね。っつーか飯食ってンだよ。邪魔すんな!」

女子たちを雑に振り払う。荒北たちを囲っていた女子たちはと文句を言いつつ他の席へ移って行った。元々深く聞こうというつもりではなかったのだろう。
それよりも隣に座る東堂がずっと笑いを堪えていることの方が腹が立つ。

「笑ってねーで助けろよ」
「あそこは荒北1人が正解だろう。なかなか良い対応だったな」
「ッセ!…福チャン平気ィ?」
「ああ。驚いた」

福富が我に返り、それをまた東堂が可笑しそうにクスクスと笑う。

「仕方あるまい。アイツらは部活以外では極力2人きりを避けている。おそらく今も目立つ場所にはいないだろうな」

先程の質問には焦った。
今、新開は苗字と昼を食べているはずだ。ハッキリと聞いていないが昼休みに用事があると言いに来た新開の顔はニヤケていた。それで十分だ。

「めんどくせぇんダヨ!さっさと付き合え!」
「1年の頃の話だ」

荒北の投げやりな感想の後、福富が唐突に切り出した。

「2人で昼を食べていた時に、新開を快く思わない先輩に見られてタチ悪く絡まれたと言っていた」
「そんなことがあったのか。それでどうしたんた?」
「苗字が助けに来たそうだ。そして自分を知れと説教されたと言っていた」
「カッコわりーな」

やはり荒北の感想はにべもない。
すると福富がフッと口元を緩めた。

「一緒にいることが周りからどう見られるのか、アイツらはよく知っている」
「面倒だが、今はそれがいいと判断しているんだな。本人たちがそれでいいなら口を出すこともない」
「そんでいいのかねぇ?新開はさっきみてーのたくさんいんだろォ?」
「隼人だけではないぞ。苗字にもいる。オレが蹴散らしているがな」

東堂は苗字本人にはドライな対応をするくせに、周囲からのちょっかいは許さない。ツンデレか。第一、それは新開がやるべきではないのかと荒北は心の中だけで反論した。

「こんなんいつまで続けんだヨ」
「そろそろ頃合いだろうな。隼人も限界だ」
「限界って……ああ、ソウネ……」

新開が苗字を見る目が日に日に感情を隠せなくなっている。見掛ければ見つめているし、ふとした瞬間に伸ばした手を引っ込めている。
3人からすればなぜ他の人間が気付かないのか謎だ。

「早く苗字をホッとさせてやれっつーの」
「やはり荒北は苗字に甘いな」
「虫除け率先してやる奴に言われたくねーヨ」
「なるようになるだろう。お互いがそうなりたいと思っている限り」

福富の一言に、荒北と東堂が目を丸くする。
突き放しているようにも聞こえるその言葉は、福富にとって最大級のエールだ。
荒北は好物の唐揚げを1つ、福富の皿に載せた。




prevnext

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -