※近親相姦
※泉が攻めてます。逆転はしません。







それが始まったのは、俺が中学を卒業する頃だった。
姉さんは名瀬の統括として忙しない日々を送る中、決まって金曜日の夜に俺を自室に呼び出した。俺が入るとすぐに部屋を覆うように檻が張られ、シャツ一枚になるように命令される。
全裸ではないのは冷え症である俺へのささやかな気遣いなのだろうか。理由なんて聞いたことがないからわからない。どうせ事が始まれば衣服が邪魔に感じるくらい熱に浮かされるので、着ていようがいまいがさして変わりない。
脱いだあとは、ベッドに仰向けに寝かせられる。そして、口移しで何かを飲まされて始まるのだ。
飲んだことを確認したあと、唇をゆっくりと舐めて、舌を食み、絡めて吸い付かれる。
溢れた唾液が口の端から零れると、ようやく離れて今度は耳を舐められる。舐めながら、姉さんのしなやかな白い指が俺の乳首を弄ぶように転がした。そうされると、甘い痺れが身体中を支配してたまらなくなる。
側から見たら近親相姦にしか見えないだろう。俺も初めはそう思った。だが、これはそんな簡単なことではなかったのだ。
何故こんなことをするのか、3度目の交わりで聞いたことがある。姉さんは一言「貴方のためよ」と言った。
なにが、とは聞かなかった。ストンと納得がいったのだ。
姉さんは、俺のために俺を抱く。
中学に入って2年に上がる頃、俺は当主を務めるお爺様に「お前は名瀬のお荷物だ」と言われた。その通りだ。姉さんより、力も心も未熟。それは名瀬に関わる異界士はみな知っていることだった。姉さんも、俺の未熟さは重々承知だ。だから査問官のスカウトが来た時に断ったし、それを切り口に協会と名瀬の間に亀裂が走った。
沈みかける気持ちとは裏腹に、丹念に弄られた乳首がぷっくりと膨らむのが布ごしでもわかる。恥ずかしくて視線を滑らせると、姉さんの腕が乱暴に俺を起こした。

「博臣」

目の前には黒い猛々しいモノがそそり立っていた。舐めろと言いたいのだろう。
姉さんは女性だが、こういう時いつもペニスバンドと呼ばれるものを付けている。
自分以外のモノを見る機会がないからわからないが、少なくとも俺のよりは大きい。口に入れると顎が疲れるし、中に入れるのなんてもっと大変だ。
そう、最終的にコレは俺の中に入ってくる。丁寧に舐めなければ辛いのは俺だ。
あくまで道具なのでスムーズに挿入られればいいと思うのだが、姉さんなりの拘りなのだろう。
今までのことを思い出しながらゆっくりと舌を這わせる。先端に口づけをし、裏筋をツーっと伝い丹念に亀頭部分を舐めてから根元まで咥えこむ。大きさが大きさなので、根元まで咥えると喉についてえづきそうになるのだが我慢だ。

「ん、ふ……ぅ」

舌を絡めながら頭を前後にスライドさせる。見上げると、冷静な視線と目が合った。俺が乱されても、熱に支配されても、どこまでも冷静だ。そんな目で見られたら羞恥心が掻き立てられて泣きそうになる。
前髪が汗で額に張り付く感触が気持ち悪いなと思っていると、姉さんが撫でるように額の髪を払い後頭部に添えられた。もう十分かと思い口を離そうとすると、強引に頭を引かれ喉奥を犯される。咄嗟に逃げようとするが、姉さんの手がそれを許さなかった。
乱暴な突きに涙が滲み、うまく呼吸ができない。思考が霞みかけた時、口からそれが引きずり出され急に酸素が入り込み思わず咳き込む。

「ごめんなさい。つい」

言いながら、姉さんの指が枕元に置いたローションを救って俺の後腔に侵入してくる。これが初めは本当に辛く、異物感と圧迫感で気持ち悪くなってしまい中断したくらいだ。
それから薬を飲まされるようになったのだが、飲むようになってからはすんなりと進むようになった。恐らく媚薬の類なのだろうが、一体どこからどんな手段で手に入れたのか不明だ。
難なく侵入してくる感覚に羞恥で震えていると、姉さんが怪訝そうに眉を寄せた。そして、押し進んでくる指が二本に増えたと思うと不意に中を広げるように左右に引かれグチュと音を立てた。覗き込むようにまじまじと見つめてくる視線がいたたまれなくて顔を背ける。

「あの、姉さん」
「自分で解してきたの?」

姉さんの問いにカッと顔が熱くなる。
いつも挿入るまでに念入りに姉さんが指で慣らしてくれるのだが、そう毎回毎回掻き回されるのも恥ずかしく、事前に準備すれば早く終わると思ってやったのだ。行為自体に反抗するつもりはないが、俺だって望んでやっているわけじゃない。早く終わるなら、その方がずっといい。だが、いざ指摘されるとそれはそれで恥ずかしかった。
今日も姉さんから呼び出しがあるだろうと思って前もって自室で後ろを解してたなんて、冷静に考えたらなかなかとんでもないことである。
かと言って嘘をつける状況じゃない。潤滑剤でぐちゃぐちゃのそこを見れば一目瞭然だ。小さく頷くと、優しい手つきで頬を撫でられた。

「いい子ね。その調子よ博臣」
「姉さ……アッ…ぃ」
「今日はちゃんと最後までしましょうね」
「っは、ぁ…さ、いご……」
「そう、最後」

姉さんは優しい笑顔を浮かべながら神経の集まった部分を擦った。何度も解される中で見つけられたそこは、擦られると意識が白んでなにも考えられなくなる。思わず手を退けようと右手を伸ばすと、少し乱暴に顔の横に縫いとめられた。そのまま乳首を口に含まれ丹念に舐められる。あまりの快感に仰け反って声を上げるが、姉さんは素知らぬ顔で何度も同じところを擦った。上も下も快感の波に襲われて上手く息が出来ず、どうしようもなくて熱を逃がすように首を振ると指がやっと抜かれる。名残惜しそうに中がひくつく感覚に切なくなって、繋げた手指をきつく握りしめるが思ったように力が入らず震えるだけだった。

「…ぁッ、ん…ねぇさ…」

瞬きをすると、ポロと涙が零れた。姉さんの熱い舌がそれを舐めとると、なんだか許されたような気がしてホッとしてしまう。
優秀で憧れの存在である姉さんが、普段とは違う優しい声で「いい子」と褒めてくれるのが堪らなく嬉しい。秋人のことでここ数か月は確執を感じていたが、この時だけはその壁が全部取り払われて昔に戻ったような気がするのだ。
認めて欲しくて、その背を追って熱心に練習をしてきたあの日から俺は変わってないのかもしれない。
ぎゅ、と下唇を噛むと、姉さんの細い親指がこじ開けるように口内に侵入して舌をなぞった。
優しく触れる指先からは甘やかな痺れが走って熱が咲く。普段は冷え切った手足も、今だけは灼熱のように熱い。
薬が回ったのか、どんどん思考が溶けて快楽で支配されていく。別の生き物みたいに器用に追い詰めてくる姉さんの舌に翻弄されていると、腰の辺りがむずむずしてきた。
早く、挿れて欲しい。
中が欲しがって収縮するのを感じながら姉さんを見上げると、入り口にあてがった体制で止まった。

「……そんな顔するのね」
「え?」
「物欲しそうな顔。可愛いわよ」
「あ、え…」

可愛い、なんて言われて戸惑う。可愛いとは美月のような存在に使う言葉だろう。間違っても俺に使うものじゃない。
そう思っても、姉さんの言葉を否定するのも出来ずに閉口してしまう。それを照れたと思ったらしい姉さんは満足そうに笑うと、もどかしいくらいゆっくりとした動きで腰を押し進めてきた。無意識に引ける腰を両手で逃げられないように固定しながら。
何度やっても、この瞬間は緊張する。
あまりにもゆっくりとした動作のせいで、身体も気持ちも物足りなさに震えた。形がわかるくらい中が締め付けているが、幸い姉さんにはそこまでわからない。あくまで道具だ。まるで身体の一部であるかのように振る舞うが、姉さん自身と感覚が繋がっているわけじゃない。
いつも俺だけがぐずぐずにされて、姉さんは何事もない様子で終わる。俺だって姉さんを気持ちよくしてやりたいと思うが、前に身体に触れようとしたら怖いくらい怒られたので結局されるがままの状態だ。
本当は一緒に気持ち良くなりたい。だって、これはそういう行為のはずだ。一方的なんかじゃなく、互いに与えるもののはず。
でもどうしたらいいのかわからず、空いた方の手を姉さんの背に回すくらいしか出来ない。姉さんは、そのまま抱きしめるみたいに腰を進めて根元まで入れると俺の髪を優しく撫でた。
流石に全部入ると圧迫感が酷く、苦しさを紛らわせようと姉さんの肩口に額を押し付ける。

「……はぁ、っう…ぁ、は……」
「よしよし、いい子ね。全部入ったわよ」

姉さんの声が脳を溶かす。いい子だと言われると嬉しさで満たされた。
一体この行為の果てになにがあるのかわからないが、姉さんに認めてもらえる俺になりたい。俺の存在が足枷ではなくなるように。一日でも早く解き放てるように。
呼吸が落ち着いてきたタイミングで、姉さんが腰を前後に動かし始めた。やはりゆっくりとした動作で。
中を擦られるだけでも蕩けそうなくらい気持ちいいのだが、イくほどの快感ではないため前がこれ以上はないほど張り詰めて痛みすら感じる。
一回出したい、と思い手を伸ばすと乱暴に姉さんが俺の両手を顔の横に縫い止めた。

「だめじゃない。勝手に出そうとしちゃ」
「でも、姉さん…っぁ、もう、出したッ…ぃ」

話してる最中も姉さんは腰を振った。今度は感じる箇所を的確に捉えた動きで。
その度に快感が走り、呼吸が乱れる。今までは前を擦ることは許容されていたのに、どうして今日に限って制止されるのかわからず混乱する。
痛みと快感でどうしようもなく、頭を嫌々と振ると涙がこぼれた。

「ね、さん…ッもう無理、いかせて」
「いいわよイッて。でも前は触っちゃだめ」
「なに、それ…ん、前…さわんないとっイケな…ぁッあ、あ」

俺が言い終わる前に、姉さんの動きが激しくなる。抉るような突きのせいで意識が焼き切れそうな感覚が襲った。
中をかき回される音と、自分とは思えない声とが響く。頭の中がぐずぐずで考えられない。声を抑えたいのに、手は姉さんによって拘束されているし押し殺そうにも突き上げに押し流されるように声が絶え間なく上がってしまう。
ぞくぞく、と腰から脳を突き抜けるように快感が走ると一際大きい声と共に欲を吐露する。
中がキュウと締まると、搾り取るように姉さんのものを締め付けた。
腹に自分のものが伝う感覚を感じながら荒い息をついていると、優しい手つきで頭を撫でられる。

「頑張ったわね」

ニッコリと、美しい笑顔を浮かべる。俺が初めて檻を作ったのを喜んでくれた時と同じ顔で。
ぎゅう、と心臓が押しつぶされる感覚が俺を襲った。嬉しそうな姉さんを見て、俺も嬉しくなる。嬉しい、はずだ。
起き上がる気力もない俺は、まだ霞む思考で考える。
そもそもなぜこんなことをする羽目になったのかを俺は知らない。説明がないまま、俺自身も追及することをせずにこの関係を続けてきた。
今日こそはと思っても聞くことができないまま、ずるずるとこんな歪な関係を続けている。どのみち、名瀬に生まれた自分の未来などそういくつもない。このまま、わからないままでもいいとも思った。姉さんに優しく頭を撫でてもらえるなら、もうどうでもいい。
微睡みに身を任せて、俺はそのまま意識を手放した。