※妖夢×博臣からの藤真×博臣

博臣の貞操観念がペラペラ。
それでも大丈夫な方のみどうぞ。





 最近、夜な夜な学校へ赴きある遊びをすることが日課と化していた。
 夜は妖夢が活動的になるため、異界士は当然夜を中心に活動することになる。だから夜中に家を出たところで、誰も怪しむ人はいない。特に最近は、眼鏡要素も妹要素を兼ね備えたとんでもない後輩の登場により美月も秋人もそちらへ意識がいっている。
 俺が何をしていようと、それほど目立つ行動をしない限り目に留まることもないだろう。
 とはいえ、念のため不可視の檻で自身を包み、校舎内へと足を踏み入れる。流石に見られてはまずいため、細心の注意を払って侵入し気配を探る。
 保健室の扉を開くと、髪の白い、眼鏡を掛けた長身の男の人型妖夢が、人の好さそうな笑顔を浮かべてこちらへ気さくに手を振った。

「君が噂の異界士かな?」

笑みが深くなる。獲物を捕らえて逃がさないとでも言いたげなギラついた瞳が、こちらを品定めするようにじっとりと俺の姿を捉えた。
 こうして目に見えて興奮しているのを露わにされると熱が集まる。息を詰めながら扉を後ろ手に閉めて檻を展開すると、若干の警戒の色が映った。
 それに対し、俺も笑みを浮かべる。

「噂って?」
「妖夢相手に遊びまわっている、奇異な異界士がいるって噂」
「ふぅん……」
「君なら大歓迎だなぁ。美しいものを汚す背徳感って最高」

そう言うと妖夢は頬を染めて、恍惚したように自分自身を抱き締めて身震いした。
 自分の見た目が良い方だというのは、血族からも周りの反応からもわかっているつもりだ。それでも、こんな欲情しきった目を向けられたことはないが。
 名瀬の長兄というだけでも十分に相手の加虐心や背徳感をくすぐる事に成功しているようで、中にはそのブランドに反応して散々好き勝手されたこともある。
 実際、俺も相手が妖夢という背徳感に昂ぶっている。お互い様というわけだ。
 足元から黒い細長い影がウネウネと這い上がってくるのを見つけると、視線を白髪の妖夢へと移す。

「せっかくベッドがあるんだし、ベッドに移動しようか?」
「ん……そうだな」

促されるままベッドへと足を向けると、歩を進めるより先に黒い影が俺を持ち上げた。
 海の波のように細長い影を動かしてベッドへと優しく降ろされる。思っていたよりも厚遇だな?と思いながら、顔を上げると妖夢の顔が眼前に広がっていた。
 一瞬で間合いを詰めたのだろう。鼻がくっつく程の近さだ。肩を押され、背中からベッドへ沈む。保健室の硬いベッドが軋んだ。

「それでは、いただきます」

妖夢はそういうと、ゆっくりとした動作で覆い被さった。



***



「あっ……んぅ、ま、待って…やだっそんなに激しくされたら……ぁ…檻がっ解けるから……っ…」
「他の異界士に見せつけてやればいい。君のいやらしい姿を、是非他の人にも見てもらおう」
「ああぁっ…ひ、やだっ、見られたら……ん…っ…い…」
「見られたい?とんだ変態だ」
「ちがっ…違う……はぁっ」

どんどん思考が侵されていく。腰を打ち付けられる度に、喉から嬌声が絶えず漏れた。
こんな姿、見られるわけにはいかない。
 名瀬の幹部として。長兄として。不死身の半妖を監視する立場として。
 常に一線を引いて、自分の心を殺しながら考えて選択をしてきた。
 でも、そんなことを繰り返してきたら突然全てをこの手で壊してみたくなったのだ。由緒ある家元に生まれたこの身を。規則正しく規律を厳格に守る冷徹な名瀬の名を。
 大切にしたいものがあったはずなのに、背後から目隠しをされるような日々を繰り返し続け、感情が綯い交ぜになって泣きたいのか笑いたいのかもわからなくなったある日、妖夢に襲われた。それが、始まりだった。
 いっそ死んでしまえば、この無限迷宮からも脱せると思い、無抵抗にやられようとした時。


「あ゛…っ……!」


突然、ぐり、と抉るように一際感じるその部分を妖夢のそれが突いた。
 あまりの快感に、腰が弓なりにしなる。思わず引ける腰を、逃がさないと言わんばかりに妖夢の両手がしっかりと掴んで引き寄せた。
 感じるその一点を集中して何度も突いてくる動きに、生理的な涙がポロポロと溢れる。頭がどんどん白んで、なにも考えられなくなる。檻が解ける感覚を頭の隅で感じると、ぼやける視界でなんとか妖夢を見つめた。
 もはや言葉を発することもままならない口からは、だらしなく喘ぎ声だけが漏れている。
 熱を逃がすようにシーツを握りしめるしか出来ない俺を、まるであざ笑うように妖夢の口が弧を描いた。

「考え事とは余裕だね。ダメだよ、君は今犯されてるんだから。ちゃんと僕を見ないと」

黒い影が膝を抱えて持ち上げると、結合部分を見せつけるように俺の体を折った。
 そして律動を再開させる。妖夢のモノがゆっくりと亀頭部分まで引き抜かれ、焦らすように根元まで押し込まれていく。潤滑剤がグチュグチュと音を立てるのを聞きながら、なんて酷い光景だと思った。
 そして、こんなことになっている自分に少なからず興奮を覚える。
 名瀬博臣ではない。ここで、こんな目にあっている俺は。
 この時間だけは、俺は名瀬博臣ではない、誰でもない存在になれる。
 それが幻想なのはわかっていても、やめられない。
 熱で浮かされた中で、頭に浮かんだ文字をただなぞる。

「……っと」
「んん? なんだい、聞こえない」
「もっと」

 妖夢の目が見開かれる。
 どんな感情がそこに宿っているのか、もはやどうでもいい。

「もっと、して」

俺を切り離して殺す行為を、もっと。


**



 怠惰感が身体中を支配している。腰は痛いし頭は重い。
 頭だけ動かして確認すると、妖夢の姿はないようだった。身をよじれば、中から妖夢が出した白濁が垂れるのがわかる。ゴムなどしなかったし、何度も出された為当然とも言える。もう慣れた感覚だが、肌が外気に触れて冷える感覚だけはいつまで経っても慣れる気はしなかった。
 持参したティッシュで簡単に体を拭うと、さっさと服を纏う。冷えた体はその程度では温まらず、ぶる、と震えた。
 時計を緩慢に確認する。2時を回っていた。
 流石に帰らないと明日に響くだろう。重い腰を上げて扉に手を掛けたとき、勢いよく扉が開いた。
 驚いて目を見開くと、そこには異界士協会査問官の藤真弥勒が無表情に立っていた。
 ただならぬ空気に息を詰める。
 なぜ、こんなところに。
 査問官は、妖夢討伐もするがメインは異界士の取り締まりだ。
 頭の中で警鐘が鳴り響く。まさか。

「名瀬の長兄ともあろう君が、一体なにしてるんです」

息が出来なかった。
 頭の中でガンガン鳴り響く警鐘は、笑い声に変わる。
 誤魔化しようがない。恐らく、こいつは俺がしていたことを知っている。
 言い訳がなにも思いつかず、射抜くような視線から逃げるように俯くと俺の視線はある一点でピタッと止まった。
 藤真の股間が、こんもりと張っている。
 これは。
 これ、は?

「驚きましたよ。たまたま別件の調査で潜り込んだ先で、君が妖夢相手に股を開いて喘いでるんですから」

困惑のまま藤真の顔色を伺う。張り付いた笑顔からは心情は読み取れなかった。

「まぁ、一応あの妖夢は討伐しておきましたよ。もし思いを寄せていたなら、悪いことしちゃいましたかね?」

薄く開かれた瞳には、あの妖夢と同じ熱が宿っていた。
 あぁ、なるほど。
 1つの答えを導いた俺は、勝手に納得した。

「妖夢と異界士は相容れない。わかってますよね。僕は一応査問官なので、きみがこんな遊びに手を出してるのを黙って見ているわけにはいかないんですよ、立場上」

 ごく、と生唾を飲み込む。
 顔に熱が集まるのがわかった。
 藤真の股間が勃っている。俺と妖夢の行為を盗み見たせいで、こんなことになっているのだと思ったら堪らなかった。
 自分でも呆れるほどに、俺は最低なんだろう。
 自分が忘れられるなら、もうなんだって誰だって良いのだ。俺は、そんな奴なんだ。

「藤真」

喉がカラカラだ。求めるように名前を呼ぶと、顔を歪ませた藤真が「なんて声出すんですか」と怒った。
 藤真は俺の右手を取ると、自分の股間へと持っていき膨らんだそこへ押し付けた。
 何もしてないそこは、布ごしでもわかるほどにガチガチになっている。先ほどの妖夢よりも大きいそれに、手が震えた。

「責任、取ってもらえますか?」

答える代わりに、その口に自分の唇を寄せた。






 
 鳥のさえずりにカーテン越しの朝日。なんて上等な目覚めだろう。昨日やったことがやったことだけに、そのアンバランスさに自嘲が漏れた。
 気だるい体はまだ起きたくないと言っているので、寝返りを打って朝日から逃げる。と、眼鏡を外してぐっすり眠る藤真の顔が視界を埋め尽くした。
 昨夜、というかもはや数時間前の出来事になるわけだが…俺はこの顔に散々キスをして、腰を打ち付けられ、中に放たれた。
 妖夢とやった後のことなので、俺は出るものは出し尽くして体力も尽きており二回目でぱったり意識を飛ばしたわけだがこいつは満足したのだろうか。
 どうやら後始末は藤真がしっかりやってくれたらしく、粘つくものも中の異物感も何もなかった。どころか着替えもさせてくれたらしく、身に覚えのない服を纏っていた。サイズの合ってないところから、藤真の私物だろうことが伺える。
 俺がいるのは藤真の家だ。
 あそこで返事代わりにキスをした後、藤真は「ここでする気は流石にない」と言って、俺をちゃっかりお持ち帰りしたのだ。
 壁に掛けられた時計を見ると、7時を回るところだった。もう準備をしないと、学校に間に合わない。
 だが、散々やった体は重く、とても起き上がれる気がしなかった。もう休みでいいか。と開き直って寝直そうと藤真に引っ付くと、藤真の大きく温かい手が腰に回される。見上げると、怠そうな藤真がにっこりと笑顔をつくった。

「おはようございます」
「……おはよう」

起きていたのか、こいつ。

「博臣くん、妖夢相手にあんなこと、どうして許したりしたんです」

起き抜けに聞くことではないだろう。思わず眉を寄せるが、気づかない藤真は寝起きの舌足らずな喋りで続けた。

「僕は査問官です。きみが妖夢とそういったことをするのを見逃すことは出来ません。だから、理由を教えて欲しい」
「りゆう」
「原因がわからないと、根本的な解決にならないでしょ」
「……理由」

 わかれば、お前がどうにかしてくれるとでも言うのか。
 という言葉は呑み込んだ。そんな渇きをこいつにわざわざいう必要なんてどこにもない。
 そういった詮索をしない、一度きりの関係が気楽だから妖夢を相手にしていたのかもしれない。
 人間には見えない存在で、異界士には話す間も無く討伐される存在。
 俺にとって、都合が良かったのだろう。

「名瀬博臣を、滅茶苦茶にしてやりたかったから……かな」
「……はい?」
「異界士の名瀬博臣を壊したかった。だから」
「それは……えっと………」
「別に方法なんてなんでもよかった。たまたま始めがセックスだったからそのまま」
「つまり妖夢が相手である必要性はなかったわけですか?」
「まぁ、特には」

泥のような思考では考えるのも億劫で、雑に返事を返す。実際、妖夢でなければならない理由はなかった。妖夢でなくてもいい理由も、特にはなかった。
 こだわる理由なんてどこにも。
 俺の返事にしばらく考え込む様子を見せると、たっぷり時間をとって「じゃあ」と切り出した。

「今後は僕で我慢してください」

 放たれた言葉の意味が理解できず、反照させる。
 僕で、我慢してください。
 藤真はまだ眠気の残る顔でこちらをじっと見つめている。俺の返事を待っているようだ。
 なんの覚悟も必要なく、日々の中のなんてことはない食事と同じように、自然な流れで起こることの一部として取り込まれるのなら、それもいいかもしれない。
 不要になれば捨てる。そんなぞんざいな存在でいい。そんな存在になることが、魅力的で俺の心の奥深くを熱くする。

「……じゃあ、今日も来ていいのか?」
「博臣くん、まさか毎日あんなことしてたんですか?」
「いつだって俺は俺を捨てたい」
「……重症ですねぇ。わかりましたよ。今日もうちに来るといい」

 そう言うと、優しい手つきで頭を撫でた。
 意識が途切れる瞬間、この感覚は嫌いじゃないと思った。