はじめの一歩





いつも朝一で自分の所に挨拶にくるはずの部下が来ないことにカトルは疑問が浮かんでいた。


彼女は今まで休んだことも遅刻をしたこともない。

だから毎朝、自分の所に挨拶に来ていたはずだった。




お昼頃になっても現われない部下である彼女。


カトルは彼女の執務室へと向かった。




彼女の執務室、とは言っても数人の者と同じ執務室に行く。

カトルは一番近くの者に声をかけ尋ねた。



「名字少尉はどうした」


「少尉なら今日は体調が悪いみたいでお休みだそうですよ」



そんな衝撃の一言を告げられたのだった。


























身体がだるくて動かない。

これが朝目覚めて最初に思ったことだった。


それでもなんとか仕事に行かなければと軍の制服に腕を通そうとしたが、身体が思うように動かなく、その場に倒れる。



なんとか自力でベッドに戻り、職場に連絡を入れ、深い眠りに誘われた。


途中、目が覚めたが朝よりも熱が上がってきたみたいで身体が全く動かない。

こんな時、頼れる人が居ないというのは大変だ。




「あ、准将に挨拶に行けなかったな……」



こんな具合が悪い中でも准将を思い出す自分に呆れ笑いが出る。


そしてまた眠りについた。




夢の中でも身体は熱く、重たかった。

すると突然額がヒンヤリとしたように感じた。



薄く目を開けてみるとそこには准将の姿。




「……准、将?」


「大丈夫か?何か欲しいものはあるか?」

「水、水が飲みたい…」



すると優しく身体を起こし、私の上半身を支えながら冷たい水を飲ましてくれる准将。



「ありがとう…ございます…」

「あぁ」




熱でボーッする頭。

こんな時間に准将が居るはずがない、私の部屋に来るはずがないと思った私はこれが夢だということに気がついた。

なんだこの幸せな夢は、と思いながら夢に出てくるほど私は准将が大好きなのだなと自虐をする。



「准将…っ」


「どうした、苦しいか?」



どうしてこうも夢の中の准将も優しいのだろうか。

私は准将のことが好きで好きで苦しい。



でも所詮、彼と私は部下と上司の関係。

それ以上でもそれ以下でもない。



夢ぐらい准将にわがままを言っても良いだろうと思った私は、准将の軍服の袖を掴む。


「夢の中だけでも良いから…。側に居て、ください」




そう言う私に優しく微笑む准将は頭を優しく撫でると、側に居てやるからもう少し眠れ、と言った。


瞼が重い。

准将との幸せな夢から覚めたくなく、瞼を開けようと努力をするが虚しくも瞼は閉じられた。

















どのくらい眠っていたのだろうか。


目を覚ますと部屋の中は真っ暗で、熱も少し下がったようで身体が軽くなっていた。



寝室には自分以外に誰も居なくて、やはり夢を見ていたのだと自覚する。



「夢でまでも優しいんだから、困っちゃうよ…」



そんなことを呟いていると、リビングから物音がする。


私には誰か看病に来てくれるような家族は居ない。



警戒しながらもリビングへ向かうと、そこに居たのは意外な人物であった。





「……准将?」




私のその声に気がついた台所に居た彼はリビングへやってくる。



「目、覚めたのか?」


そんなことを言いながら彼は私の額に手をあてる。

ドキドキしたが、准将にはバレないように冷静を装う。




「熱も下がってきたようだな。良かったな。あと台所を借りているぞ」



何がどうなっているのか、状況を把握することが出来なくその場に立ち竦んでいると准将にベッドへ横になるように促される。


状況を把握出来ないままベッドへ横になる私。

准将は台所へと戻って行き、私はベッドの周りを見回す。


すると水が入った洗面器とタオルとコップがあった。


これは朝にはなかった物。




「…夢、じゃなかった」



そう理解するには早かった。



そんなことを考えていると、卵粥を作って持ってきた准将。



「食欲はあるか?」

「あ、はい…っ」



あーんしろ、だなんて笑いながら言う准将に自分で食べれますと言って、彼が作ったお粥を口にする。



「味はどうだ?」

「…美味しいです」



本当に美味しかった。

そしてこんなにも優しい准将への気持ちが込み上げてきた。



泣かないように涙を堪える。

体調が悪い時ほど自分の感情を押し込めることが出来ない。



そんな私に気がついたのか


「大丈夫か、具合悪いか?」


と、心配そうに顔を覗きこむ准将。




「…っ、ごめんなさい、具合は大丈夫です…」



そうか、と言いながら優しく頭を撫でる准将。





「准将…っ」

「ん、」


「どうして准将はただの部下の私にこんなに優しくしてくださるんですか」


「そうだな、ただの部下ではないからだな」




どういう意味か理解が出来ない。



「それって…」


「早く元気になってくれ。名前が挨拶に来ないと寂しくて、な」



「……はいっ」




気持ちを伝えられたわけではない。


いつかちゃんと気持ちを伝えよう。

彼の隣りにいつまでも居られるように…。







―――はじめの一歩



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お正月企画夢です!

第一段はカムラさまリクエストのカトル准将夢でした!

ちなみにリクエスト内容は切甘or微甘で仕事熱心なヒロインが風邪ひきで准将がお見舞いに来るということで、この夢が出来ました。

が、仕事熱心ってところはどうしたんだよ。となりました←

管理人の文才及ばず。
こんな調子でこのあとのリクエストが書けるのか不安で不安でしょうがない。


ということで、へっぽこ夢ですがカムラさまに捧げます!

いつもご意見ご感想をくださってありがとうございます。
今後とも白昼夢、ゆら共々よろしくお願い致します。


2012/1/2



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