不鮮明な境界線
昔から、私の傍に居てくれるのはいつだって
カヅサだった ―
私にとって幼馴染でも、男でもあるカヅサ
恋とか愛とか、そんな面倒な感情で動いたんじゃない
情が移った、というのがしっくりくるのかも知れない
幼馴染が初めての相手なんて、よくある話だろうか?
私はファーストキスも、処女も幼馴染のカヅサに奪われた。
興味本位というのが、私の中では大きかったのかも知れない。
そんな幼馴染との関係をずるずると続けて、今に至る。
素っ裸でシーツに包まる私は、既にちゃっかりと服を着て机に向かう背中を見つめる。
長年一緒に居るけど、目の前の男が何を考えているのかなど本当のところ解らない。
少しくらい考えが読めてもいいと思うのだけど、このカヅサという男は本当に謎だ。
私達は、始まりもなければ終わりもない…そんな曖昧な関係 ―
トントン。
ドアをノックする音が聞こえた、勿論、私に聞こえたんだからカヅサにだって聞こえてる。
「…出ないの?」
「ユラ、出てくれないかい?」
「はぁ、此処…男子寮なんだけどね」
「ふふ、僕を訊ねて来る人間なんて限られているから問題無いと思うよ」
なに、その全部見透かした様な物言いは…こいつ、来訪者が誰だか大体は見当ついてるな。
そんな事を思いながら、パンツを穿いてカヅサの白いドレスシャツを羽織ると適当にボタンを留めた。
ガチャ ―
「…はい、」
「カヅサっ!!お前、この前の薬っ―――え、」
「…・………、」
ドアを開けると、いきなり怒鳴り散らしてきたのはイケメン君で。
カヅサでは無く、いきなり私が…しかも男子寮に女が居るものだから彼が取った行動は―
カヅサの部屋番号を確認して、男子寮である事を確かめる様に廊下を見渡す。
「………、……」
「うん、あってると思う」
「…っ、なんで此処に女子が居るんだ」
私に向けて言われた言葉では無い様に、彼は私から視線を逸らして言った。
その頬は真赤で、此方を見ない様にしているのが解る。
私は自分の格好を確認すると“あぁ、そういうこと”と一人で納得した。
「取り敢えず、入って?私、始末書とか書きたくないから」
「…あ、あぁ」
イケメンな彼を部屋に招き入れると、カヅサは“あぁ、やっぱりね”と笑うのだった。
…幼馴染ながら食えない男だ、カヅサ・フタヒト。
これが、彼クラサメ君と私の出逢いだった ―
カヅサに紹介されて、2組だと言う彼クラサメ・スサヤは優秀なのだと知った。
私は7組で余り他のクラスと交流する事など無いし、興味も無いから知らなかったのだ。
彼があの、氷剣の死神であること。
“なんで教えてくれないのよ!”とカヅサに言えば、“だって、ユラは興味無いでしょ?”と言われた。
確かに“氷剣の死神”とだけ聞いても、何も興味持たなかった。
でも、カヅサがあの“氷剣の死神”と友達なんて聞いたらどんな奴か気になるじゃない?
クラサメ君は優しくて、でも照れ屋で不器用だった。
それが彼の良さで味でもあるのだろうけど、ある時ほんの些細なことで私は気付く事になる ―
――――――――――――――――
昼下がりのリフレで、講義が無かった私はお茶でもしようと足を向けた。
其処には、珍しくクラサメ君が居て向い側には綺麗な女の子が座っていた。
楽しそうに笑い合って、女の子がクラサメ君の髪に触れた時に酷く胸が軋んだ ―
サ ワ ラ ナ イ デ
彼女は誰なのか、とかそういう事よりも彼女がクラサメ君に触れた事が腹立たしかったのだ。
私は彼女でも何でもない、クラサメ君を縛る権利なんて無いのに。
もしかしたら、彼女は、クラサメ君の ―
血の気の引く思いがした、だから踵を返してリフレを去ろうとしたんだ。
「ユラ?」
気付かないで欲しかった、今だけは本当に。
私がゆっくり振り返ると、席を立ったクラサメ君がこっちを見ている。
ゆっくりと彼女に視線を移すと、軽く会釈をされて戸惑いながら同じ所作をした。
「また、ね…クラサメ君」
胸が苦しかった、どうにかして欲しかった。
なんなの、なんなの…この胸を締め付ける気持ちに、納得出来る答えを頂戴。
夢中で走った、背中に投げられた私の名前を無視して。
辿り着いた場所は決まってる、カヅサの部屋だ ―
―――――――――――――――――
むかつくから、獣の様にカヅサと交わった。
頭の中にリフレでの光景が思い浮かぶ度に、目を伏せて快感で流した。
どくり、とカヅサが私の中で脈打って達したのだと解るとベッドに崩れ落ちた ―
「…はっ、」
「ユラ、らしくないんじゃないかい?」
「なにが?」
耳元で聞こえるカヅサの声に、視線だけを送ると奴は口角を上げて笑う。
「苛々してるじゃないか。この部屋に来たのは憂さ晴らしに僕とセックスする為かい?」
「なっ……!」
「まぁ、僕はユラの事が好きだし?無償に君を愛せる、責任も取れるけど―君は違うね」
なに、その好きって…どういう意味での好きなの?
カヅサによって、奴の方へ向き直らせられると私の中でカヅサがまた質量を増すのが解った。
「アンタね、こんな時に何を考えてっ!抜いてよ、」
「ねぇ、誰の事を考えながら僕に抱かれてるの?今日、やけに具合がいいよね」
“此処の”そう言われて、カヅサが再び私の中に押し込まれた。
ひっ、という言葉が漏れて私の頭の中にはクラサメ君の顔が浮かんだ。
どうして、クラサメ君―?
そんなの、愚問だった…自分が一番解っている事じゃないか。
リフレでの光景、クラサメ君と笑い合う彼女の姿、そうだ紛れも無い―嫉妬。
「やっ、カヅ、サぁ…許し、てぇ」
「駄目、僕の気持ちを嫌ってくらいに解らせてあげる…それでも、最後に決めなきゃいけないのはユラだよ―」
「ひっ、ぁ…あぁ」
“好きだよ”掠れる様に聞こえたカヅサの声が、幼馴染の私と女の私を惑わす。
はっきりしない気持ちで幼馴染のカヅサと身体を繋げた責任は、私にもある。
カヅサは、最初から私を好きでいてくれたのかも知れない。
そんな気持ちを踏み躙って、都合の良い時だけ身体を重ねて、寄り掛かって。
私は、最低じゃないか ―
それでも、好きだと言ってくれるカヅサに涙が零れて甘んじて行為を受け入れた。
私のどっち付かずだった気持ちに、どうか答えを下さい。
カヅサに身も心も愛されて、同時にただの男と獣に成り下がったカヅサの行為を罰と受け入れて。
カヅサの想いを、愛を西の空が白くなるまで受け止めた。
でも、同時に私の脳内をずっと支配して消えない存在があった。
クラサメ君 ―
――――――――――――――
それから、カヅサとは余り会わなくなった。
同時に、クラサメ君にも会わなくなって一人で居る事が多くなった。
最近、遠目に見る様になったクラサメ君とリフレの彼女。
やっぱり、付き合っているんだろうな。
そんな事を考え出して、一つ溜息が出た。
カヅサとの事を整理出来ないまま、クラサメ君の事なんて考えられない。
私だって、カヅサは好きだ。
キスをしたり、身体を重ねたりしても嫌悪感なんてない。
ただ、それを恋か愛かと問われれば答えに詰まってしまう。
この間、嫌という程に教えられたカヅサの“男”を思い出すとびくっと身体が反応する。
カヅサと私が同じ思いなどとは、おこがましいのかも知れない。
本当の気持ちで、ぶつかって来てくれたカヅサに対して私は余りにも中途半端過ぎて ―
涙が頬を伝った、幾つも幾つも。
いつも拭ってくれた手は、今は傍には居ない。
それが、こんなにも寂しいもので縋りたいものだったとは…知らなかったの。
当たり前に近くに在り過ぎて、あるはずの境界線も見せない程に。
カヅサ、ごめんなさい…私にいつでも優しくしてくれたのに、そんなカヅサを私は…。
傷付けて、苦しめていたんだね…それでも何食わぬ顔して、傍に居てくれた。
「…ごめっ、なさ…い」
気付いたんだ、今…カヅサの、幼馴染としての手が私には必要だったこと。
甘え過ぎていたんだ、何の責任も考えずにただ自分の我儘で。
「僕も、ごめん。ユラ―」
「!」
ふわり、と背後から抱き締められて涙が止まらなくなる。
知っている感触、体温、そしてカヅサの香りに包まれて安心した。
恋とか、愛とかじゃない…そういう愛し方が出来たら良かったのに ―
カヅサと、一緒の気持ちなら傷付ける事は無かったんだよね。
「ユラ、悩ませてごめん」
「―いいの、私の方こそごめんなさい」
カヅサは、私に一番近くてどんな時でも傍に居てくれる…家族みたいな存在だった。
大好きなんだよ?本当だよ、だからもごめんなさいは言わない。
ありがとう、カヅサ…これからも宜しくね ―
――――――――――――――――
暫くして、私はクラサメ君と付き合う事になった。
どうやらお互いに誤解をしていたことが判明して、お互いに項垂れたのはいい思い出だったり。
クラサメ君は私とカヅサが付き合ってると思っていて、私はクラサメ君の彼女がリフレの人だと思っていた。
勿論、身体の関係はあったけど私はカヅサとは付き合ってない。
クラサメ君もリフレの人は彼女ではなく、同じ四天王の先輩で世話好きの姉御肌なだけだと言う。
告白は私からで、クラサメ君は驚きながらも“俺もずっと同じ気持ちだった”と微笑んで告げてくれた。
それにしても可笑しい、今度は裸でシーツに包まって見ている背中が同じ人のそれじゃないって事。
ベッドの上で頬杖をついて、ちゃっかり服を着ている私より一回り大きい背中を見つめていると不意にクラサメ君が振り返る。
「…なんだ?」
「別に?レポートは順調ですかー?」
「ユラが寝かせてくれないからな。全然、進んでない」
「なにそれー!私の所為!?カヅサに言い付けてやるっ」
私が語尾にカヅサの名前を出すと、クラサメ君は目を細めて少し微笑む。
カヅサとの事を、私はすべてクラサメ君に話した。
クラサメ君は“そうか、話してくれてありがとう”と言って、それでも私を受け入れてくれた。
カヅサとも今まで通り、幼馴染として仲良くやっている。
クラサメ君は心外らしいけど、カヅサはクラサメ君を親友だと思ってるらしい。
椅子に座ったまま、クラサメ君が私の頬に手を伸ばして撫でてくる。
その仕草は優しくて思わず目を細めると、彼はくすっと笑った。
「…ユラが可愛くて、また抱きたくなるからレポートを書くか」
「ふふ、抱いてくれていいのに」
“レポートの提出期限、余裕あったでしょ?”と呟いてみる。
すると、羽ペンを置いたクラサメ君が椅子から立ち上がってベッドに腰を下した。
「いいのか?また、昨日みたいにめちゃくちゃにするぞ」
「いいよ、私…クラサメ君のこと愛しちゃってるから」
私の顔に掛かった影に、そっと目を伏せると暖かい唇が触れた。
頬に手を添えられて、角度を変えて、何度も啄ばむ様なキスを。
言葉で愛を紡ぎたがらない不器用な彼の、愛情表現 ―
「はっ、ユラ…」
「ん、クラサメく…もっと―」
互いに抱き締め合って舌を絡ませて、一度着たクラサメ君の服を私が乱す。
半ば、私がクラサメ君を押し倒す様にして服を剥ぎ取る。
少しだけ反応した彼の陰茎をやんわりと握って、上下に手を動かしながら芯を持ったのを確認して口に含む。
「っ、ユラ…は、」
「ん、ふっ…ぅ」
十分に唾液を絡ませたクラサメ君の陰茎を、自分の秘裂に宛がった。
見下ろす様にクラサメ君を見ると、片手で腰を掴まれて、もう片方の手は私の頬へ。
屈むと啄ばむ様なキスをくれて、片手は腰を下す様に力が入れられる。
何度もクラサメ君にキスを施されながら、ずぷっと亀頭が私の中へ沈んだ。
「ひっ、ん…う」
「…っ、狭いな」
未だ、私にキスをしながら唇を舌先でなぞり腰を突き上げるクラサメ君。
先程、何度もシたというのに私の身体はクラサメ君を求める様に彼を悦んで締め付ける。
私もクラサメ君に跨った状態で上下に腰を揺らすと、彼の顔が快感に歪んだ。
「クラサメ、く…気持ちい?」
「っ、あぁ…」
クラサメ君の律動に合わせて私も動くと、クラサメ君は揺れる私の胸を掴んだ。
形を変えるくらいに揉まれたり、優しく感触を楽しむ様にされ私の口からは嬌声が漏れた。
彼の陰茎が私の中で質量を増し、私も限界という時にクラサメ君が私の陰核を親指で擦り上げた。
「ひゃっ、…ぁああッ」
「―――くっ、」
私が達した締め付けで、彼も絶頂を迎えると私の中に彼の欲が広がったのが解った。
きゅうきゅうと締め付けてしまう肉壁に、クラサメ君は眉根を寄せて快感に震えていた。
その時 ―、
バンッ。
「クラサメくーん!!新薬開発しちゃってさぁ、試させて……ありゃ?ヤッてた、ごめーん」
「カヅサ!!貴様、ワザとだろっ…殺す!」
「あっ、ちょっ…クラサメく!まだ、中に―!?」
ぐるり、と暗転。
私の目の前にはクラサメ君の綺麗な顔があって、ちゅうっと吸い付く様にキスをされた。
そして、ゆっくり彼の陰茎が私の中から出ていく。
顔を離した瞬間に、微笑んだクラサメ君に見惚れたなんて言えない ―
軽く処理をしたクラサメ君が、ニヤニヤしながら私達を見るカヅサに向って行く。
上半身裸でカヅサを追い回すクラサメ君と、追い掛けられて嬉しそうなカヅサ。
“捕まえてごらんなさ〜い”なんて言いながら逃げ回るカヅサに、クラサメ君は本気だ。
…あぁ、もう男の子って単純でガキって本当かも。
あの真面目でクールなクラサメ君が、変態眼鏡の私の幼馴染を追い掛けてるんだもん。
「も〜…いい加減にしろー!!」
「…はい」
「…はい、ごめんなさい」
ねぇ、二人共?好きの意味合いは違うけど、私は二人が大好きだよ ―
end.
(ユラ、クラサメ君はユラの裸を僕に見られたから怒ってるんだよ)
(へ?そうなの?カヅサ、見慣れてるし何も思わないでしょ)
(ま、今となってはね)
((そういう問題じゃない、幼馴染ってズレてるのか…?))
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零戦・ロゼさまへの御礼の言葉
ロゼちゃーーーーーんっ
我がサイトの3万打の記念にこんな素敵な小説を書いてくださって本当に本当にありがとうございました!!!!
イケカヅサんすぎて辛い!
あやうくカヅサんに心奪われるところだったよ(え)
カヅサん熱が上がってる私にってこんな素敵なものを本当に感謝なのです!
いつもロゼちゃんの書く小説には髪の毛を奪われています←
(萌え禿すぎてという意味w)
これからもこんなイクイクな私ですが(何)
仲良くしてもらえたら嬉しいです!!
本当にありがとうございました!
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