気がつけば惹かれていた





授業が終わり、隊長に頼まれクラス全員の課題を抱えて歩いていれば突然後ろから頭をポンと叩かれる。



「いったーい!」


そう文句を口にしながら後ろを振り替えれば、口角を上げムカつく顔で笑っている顔はかっこいい同期が一人。



「なによ、クラサメくん」

「重そうだな、と思ってな」

「なら手伝ってよ!」



大量の課題をクラサメくんの方に押し付けてみても、彼は全く受け取る気配は見せずに笑っている。



「人に頼む時には頼みかたって言うのがあるんじゃないか?」


「……え」

「クラサメくん、好きだから手伝ってと言えば手伝ってやる」



そう言いながら楽しそうに口角を上げるクラサメくんがムカつく。



「そんなこと言うわけないでしょ!」


「いつになったら素直になるんだか」


「クラサメくんみたいにモテモテで女の子に囲まれてて、彼女とっかえひっかえしてて、すぐに付き合おうとか冗談で言うようなチャラい彼氏はいりませーん」




ばーか、そんな意識を込めながら彼に向かって舌を出す。

そうすれば先程よりも少し強くもう一発頭を叩かれる。




「ちょっと、クラサメくん!」



しかし先程とは違い、いつの間にか手に持っていた重さが軽くなる。
前をスタスタと歩き出すクラサメくんを見れば、私が持っていた課題が半分以上持たれている。




「クラサメくん、私もっと持てるよ」


「いや、好意を持ってる子に重い物を持たせるわけがないだろう?」

「こ、好意って…!」


「いつも言ってるだろう?俺と付き合おうって、な」


「冗談はほどほどにしてくださーい!」






クラサメくんと私は同じ2組の候補生で、初めて彼と話しをしたのはクジ引きで決めた演習ペアになったからだ。


その頃のクラサメくんは訓練生の頃から院内でも有名で、見かけた時には必ず一緒に居る女の子が違った。

確かにすっごく綺麗な顔立ちだなー、とか思ってしまったけど印象はすっごく悪くて、冷たく挨拶した気がする。



必要以上は話さない。
関わらない。

そんな生活をしていたのだけれど、やっぱりクラサメくんは実力があって演習のペアとしては最高の相手だった。


いつからクラサメくんとこんなに仲良く話すようになったからもうあまり覚えていないけど、いつからかクラサメくんは私に好きとか、付き合おうとか言うようになっていた。



どうせ冗談だ。
彼はいつも綺麗で美人な女性としか一緒に居なかった。

私は普通だから。


でも、最近クラサメくんが女の子と一緒に居るところを見たことがないかもしれない……。







「クラサメくん、課題運ぶの手伝ってくれてありがとう」



そんなことを考えていれば課題の提出も終わっていて、素直に彼にお礼を言う。




「礼は、俺と付き合ってくれれば良い」

「なにを馬鹿なことばっかり!」



クラサメくんったら、なんて言いながら彼の厚い胸板を軽く叩けばその腕を引かれ彼の香りに包まれる。



「名前、俺はお前のことが好きだ。本気だ」



いつもよりも真剣な声でドキっとした。



「クラサメくん…、冗談はやめてよ。だってクラサメくん女の子なんてたくさん周りに居たじゃん」


「全て手を切った。名前とは真剣に付き合いたいと思ってる」




信じられない言葉が彼から出てきて、彼に頬を優しく撫でられれば言葉に出来ない感情でいっぱいになり、彼の身体を強く押す。




「……私はクラサメくんとは付き合えないよ」



いつもと同じ対応。
でもクラサメくんはそれでも何度も同じ言葉を繰り返す。

なのに、返ってきた言葉は



「…わかった。なら名前のことは諦める。悪かったな、今まで」




優しく頭を撫でられれば鼻の奥がツンとする。
クラサメくんは踵を返していて、私はその場に一人残されたのだった。




































「名前さん…っ!好きです、僕と付き合ってください!!」




クラサメくんと別れたあとに、テラスで風にあたりながらクラサメくんとのことを考えていたら、そんな声で現実に戻される。



「えーっと…」

「スサヤくんとは付き合ってないんですよね?なら僕と付き合ってください」


「ありがとう」



"気持ちは嬉しいんだけど、ごめんね"そう言葉を続けようとすれば強く手を引かれその男の子の腕の中に閉じ込められていた。



「ち、ちょっと、放して…っ」


「なら僕と付き合ってください!」



有無を言わせない。

なによりも彼に抱き締められていることが気持ち悪かった。


クラサメくんに抱き締められた時には、気持ち悪くなかったしこんな気持ちにはならなかった。





――私、クラサメくんのこと…。



自分の気持ちに気がつけば、涙が溢れてきて苦しかった。






「助けて、クラサメくん…っ」





そんな声が漏れてしまえば、私を強く抱き締めていた彼が引き剥がされ床に転がっていた。

背後にはクラサメくんの姿があって、その顔は私が見たこともないぐらいに怖い顔をしていた。




「嫌がってるだろう、これ以上名前にしつこく付きまとえば容赦はしない」


「ご、ごめんなさい…っ」



逃げるように私とクラサメくんの前から姿を消せば、クラサメくんは気をつけろよ、とだけ言いその場をあとにしようとする。


他になにも言わない素っ気ないクラサメくんの背中に少し大きな声をぶつけた。





「……クラサメくん!」


「どうした?」

「いつもみたいに頭、撫でてよ」

「名前…?」


「さっきね、すっごく気持ち悪くて怖かった。でもクラサメくんに抱き締められた時は温かい気持ちになったの…」




そこまで言えば再びクラサメくんの温もりに包まれて、彼の温もりにとても安心した。





「…そんなことを言ったら期待するぞ」

「期待、して良いよ」


「なら、ちゃんと言って欲しい」


「クラサメくんが先に言ってよ」

「私は何度も告げていた」

「良いから…っ」




「名前、好きだ」


「クラサメくん、私も好き」




真剣な淡いグリーンの瞳に吸い込まれるように唇を合わせた。








―――気がつけば惹かれていた



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Leichter Zuckerのサクヤちゃんに相互リンク記念に捧げます!

押し押しクラサメで甘いものというリクエストをいただいたのですが、上手く押し押しに出来なかったし、クラサメさんが偽者すぎてもう本当に土下座。
ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい。

サクヤちゃんちのクラサメさんはエロちっくで大人の色気むんむんです!
これからも仲良くしてくださいませ!

そして遠慮なくこの夢に対して文句を言ってください…!



2012/2/23


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