08.








あれから幾月が経ったのだろう。

桜はもう何度も咲き、何度も枯れた。


ただ君がそこに居ない。












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「本日付でクラサメ士官の副官に任命されました、アリス・フィルナーであります。今まで魔導院からは離れておりましたが、本日より魔導院での勤務の命を頂きました。よろしくお願い致します」




その日の魔導院は朝からなにやら騒がしかった。

なんでも地方で勤務していた武官やらを魔導院に集結させたとかで、所謂新人が各部署に配属されていたのだった。


まさか、自分のところに配属されてくる者が居るとは思わなかったクラサメは眉間に皺を寄せた。





「(しかも副官だと…?どうせ軍令部長の差し金で、四天王の生き残りという厄介者の様子見ということか)」



見ていた書類から目を離さずに考えごとをしていると、あまりにクラサメの返事が遅いため痺れを切らしたアリスがクラサメの近くに寄って来た。





「クラサメ士官…?」


「あ、あぁ、すまない。私はクラサメ・スサヤだ。よろしく頼む」




適当に挨拶の言葉を並べながら顔を上げると、そこには嬉しそうに微笑む一人の女性の姿があった。




「やっと目を合わせてくださいましたね、クラサメ士官!本日からよろしくお願い致します」



頭を下げ、笑みを浮かべながら顔を上げると、後ろに束ねていない横の髪の毛が顔にかかる。

それを慣れた手付きで彼女は耳にかけた。



そんな姿がなんとなく懐かしい気になったが、気のせいだとクラサメはすぐに仕事に戻った。
























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辺りも暗くなってきたころ、魔導院で働く武官たちは仕事が終わり次第帰宅していく時間となっていた。


そんな中、人々に忘れられているような廃屋に一人の女と一人の男が居た。

その者たちは身体を密着させ、一見逢瀬を重ねる恋人のようにも見える。
が、この二人はそんな甘い仲ではない。






「で、調子はどうですか?アリス・フィルナー少尉」


「その呼び方はやめて、ここを何処だと思っているの」

「朱雀ですねぇー」



厭らしく笑う男は、アリスの細く白い首筋に顔を埋める。




「調子に乗らないで…っ」



ぐっと男の身体を押すが、所詮女の力では男には敵わず小さな抵抗に終わる。





「やめ、なさい!カトルに言うわよ」


「おー、怖い怖い。そこで准将を出すだなんてずるいなー。フィルナー少尉は」

「あんたとなんか、任務以外じゃ関わりたくないわ」

「なら、ちゃっちゃとこっちでの任務を終わらせることですねー。俺だって早く白に帰りたいんでね」


「わかっているわ。こちらは今のところ順調よ、あんたも精々私の足をひっぱらないようにしてちょうだい」


「はいはーい」





男はゆっくりとアリスから離れると、廃屋を後にした。

アリスは深い溜息を吐いた。





「まだまだこれからよ、ね?カトル…」





小さく呟いた声は誰に届くわけでもなく、広い広い朱雀の空に消えて行ったのだった。














.....to be continued