06.







簡単な任務のはずだった。

それは朱雀領に侵入した白虎軍を偵察するといったものだった。


9組が先行し、偵察した結果を後方に控えている2組に知らせ、2組にかたをつけてもらうといった作戦だった。
















「……不気味なぐらい静かね」


「好きな奴でも出来たから死ぬのが怖いのか?」

「やめてよ、冗談」


「で、名前教えたのかよ」

「帰ったら、ね」

「帰ったらねぇ〜。変わったな、お前」





任務は好調かのように思っていた。

しかし突然聞こえる銃声に振り返ってみると後ろの方から悲鳴が聞こえ、白虎軍の兵士の姿が見えた。


気付かない内に囲まれていたのだった。

数人の候補生が応戦するが、不意打ちの白虎兵の攻撃に太刀打ち出来ずに彼女は数人の候補生と共に逃げた。



怪我をしている者も多く、覚えている者も少なくなってしまっていた。


COMMで朱雀本部に救援を頼んだが、本部から返ってきた一言は彼女たちに絶望を与えた。


『今あなたたちに救援を送ると後方に控えている2組にも危険が及びます。だから救援は送れません』



それでも救援を頼んでいると、突如通信が切れるCOMM。


私たちの脳裏に浮かんだことは、朱雀に見捨てられたということだった。




そんなことをしている間にも白虎兵は迫って来ていた。

次々に倒れる仲間たち。
まさに地獄絵図のようだった。



彼女は傷だらけになりながらも応戦していた。



「帰ったら、名前教えるって約束したのよ…っ」



撃たれた左肩や腹部からの血が止まらない。

徐々に感覚が失われていく左手に鞭を打ちながら動かし、白虎兵を倒していく。


それでも白虎兵が減ることはなく、仲間たちが次々に倒れていく姿を見ることしか出来なかった。



「おい、まだ生きてるか」




白虎の兵士からは少し影になっている場所で、彼女は一人の9組の男子候補生と居た。

その候補生とは常に彼女の側に居た候補生だった。




「生きてるわよ、失礼ね」

「約束してんだろ?あの2組の男と…」

「あんたには関係ないでしょ?」


「まぁ、9組での腐れ縁だからな。お前は生きて帰れよ」



何を言ってるの、そう告げようとすればノーウィングタグが付いたポーションが手渡された。




「……え………?」





そんな声と同時に目の前に召喚獣が現れ、涙と同時に何故ポーションを持っているのかわからなくなった。


そして、自分の他に一緒に先行した9組の候補生が誰だったのか全て忘れていた。





「私だけ、生き残るわけにはいかないじゃない。皆の敵…取らなきゃ」




召喚獣が消えたと同時に彼女は兵士の前に飛び出た。



「……ごめんね、クラサメくん。約束、守れそうにないな」



彼女は鬼神のように白虎の兵士たちを焼尽くした。

そんな中、彼女の前に現われたのは大きな機体だった。
その機体から男の声が発しられた。





『朱雀の候補生とやら、投降しろ。投降するのであれば命だけは助けてやろう――』



「やめてよね、ここまで殺しておいて同情なんて!それにそんな嘘信じないわ」

『我は嘘はつかない。だから投降しろ』


「黙りなさいよ!朱雀候補生として最後まで戦うわ!」





彼女は強く地面を蹴った。


そんな時、小柄な一人の白虎兵が彼女に向かって銃を向ける。
咄嗟にファイガを繰り出したが、兵士に当たることはなかった。


兵士は彼女に向かってトリガーを引いた。



彼女はその場に立ち止まり、ゆっくりと目を閉じた。
腕の力を抜くと、手から武器が滑り落ちる。


床に武器が音をたてて落ちるのと同時に銃声が響いた。


一つの衝撃を感じた彼女は音をたてて崩れ落ちた。






どんどん自分から溢れ出す血を見て、涙が溢れた。






「……桜、散ってしまったかしら…ね」



もう感覚がない両手。
意識も混濁してきて、眠気が襲ってきた。


寒い、寒い、寒い、痛い、痛い―――――





彼女は最後に見たクラサメの優しい笑みを思い浮かべながら、ゆっくりと意識を手放した。




そんな彼女を見つめるのは隻眼の白虎の軍服を着る男だった。


愛機であるガブリエルから降りた隻眼の男は、銃を構える兵士を牽制し、彼女に歩み寄って行ったのだった。

隻眼の男は彼女の元に歩み寄ると、彼女の傍らにノーウィングタグが落ちていることに気がつく。
そのタグを男は拾った。









「……アリス・フィルナー、か…」












.....to be continued