05.



 



アギト候補生としての授業中。
真剣にノートを写す者、眠っている者、本を読んでいる者、様々な候補生が自分の時間を過ごしていた。


一見、平穏そうに見えた魔導院の中にその平穏さを打ち消す、警報の音が響き渡った。






『朱雀領域内に白虎の軍隊が侵入!候補生は指示に従って作戦に向かってください!繰り返します、朱雀領域内に―――――』






全ての候補生の顔に緊張が走った。

クラサメが在籍している2組ではすでにみなが戦闘態勢になっていた。




「我々2組の候補生は直ちに現地に向い、白虎軍隊を蹴散らすぞ」


















――――――――――――




白虎軍隊が侵入したとする街の前まで来ていた。

街、といっても工場などの施設がある場所であり、普通の街ではなかった。





「あれ…?クラサメくん?」




緊迫している空気の中で落ちつき払った声が後ろから響いた。
振り返ってみれば、そこにはあの彼女と、同じマントを纏う候補生が数人立っていた。



「ごめんね、後から行くから先に行っていてくれるかしら?」


「良いが、早く来いよ。隊長を怒らせたらめんどくさい」

「了ー解」




彼女の言葉に頷き、その場をあとにする9組の候補生たち。





「まさか、君もここに居たとはな」


「びっくりかしら?」

「あぁ」


「クラサメくんにだけ特別教えてあげるわ、9組はね、諜報部としても動いているの。だから今から先行してあの街の様子を見てくるのが私たちの仕事なの」

「!」

「でも大丈夫よ、先遣隊の掴んだ情報によると意外と白虎の兵士は少ないらしいわ」



いつものように髪を耳にかける彼女に、クラサメは何も言うことが出来なかった。




「じゃぁ、行くわね。クラサメくん、気をつけてね」




9組のマントを翻し、進んでいく彼女の背中を見ると、なんだか胸騒ぎがした。
もう彼女には会えないような、そんな不思議な気持ちになった。

クラサメは今しかないと思い、声を荒げて彼女を呼び止めた。










「名前、教えて欲しい」





彼女はゆっくりと振り返った。
そして、今までで見たことがないくらいに優しく微笑んだ。

つられて自分も微笑んでいることに気がついた。


あぁ、彼女のことが好きなんだ、そう自覚した瞬間だった。






「今から任務があるのよ。もし失敗したら名前を知っても意味はないわよ?」


「君も俺も失敗なんかしない」



失敗するかしないかなんてわからない。

本当は戦場でこのような曖昧な言葉は気休めにもならないことは自分が一番知っている。
それでも、こんな言葉を言ってしまった。


それは願いでもあり、願望でもあった。






「なんて自信よ。……じゃぁ、貴方も私も生きて帰って来ることが出来たら名前を教えてあげる」


「君は相変わらず焦らすのが好きだな」

「ふふ、でも約束が有る方が頑張れる気がしない?」


「そういうことにしておこう」


「うん、ありがとう」




最後に微笑んだ彼女はいつものように、長い髪の毛を耳にかけた。

優しい日差しを顔に浴びたその姿はまるで天使のようにも思えた。
彼女の姿を瞳に焼きつけようとした。



そんな最中、自分の隊長に呼ばれ、彼女が進んだ道とは逆の方向へクラサメは進んでいったのだった。


そう、それは人生の分岐点でもあった。
















.....to be continued