04. 「最近のクラサメくんってなんか変わったよね」 「うんうん、なんかちょっと前のクラサメくんはシリアスで何を考えてるかわからないような男の子だったのにネ!」 「エミナくん、これは事件じゃないかい?」 「これは事件ネ!」 賑やかな食堂の中、ひときわ賑やかのこの二人を無視しつつ話題の渦中にあるクラサメは表情も変えずにご飯を黙々と食べていた。 「ちょっと、クラサメくん無視はよくないよ!君に何があったのか知りたいから自白剤でも飲ませちゃおうかな〜」 「黙れ、変態」 「う〜ん、クラサメくんに褒められちゃったね」 「カヅサ、それは気持ち悪いヨ!」 そうこのうるさい二人はクラサメの唯一の友人と言っても良いカヅサとエミナである。 「で、クラサメくん恋でもしちゃったのカナ?」 予想外なエミナの発言に思いっきりむせてしまったクラサメに、カヅサもその発言をした張本人であるエミナも目を丸くさせた。 「図星、だったのカナ?」 「………………」 「クラサメくん、いつも無言は肯定を意味するっていってたじゃないか。まさか本当にエミナくんの図星だったのかい?」 「……答える義務はない」 「クラサメくん、私たちは友人なんだから答える義務はあるヨ!」 身を乗り出すエミナをクラサメは手で押し、席に座らせた。 「……ただ少し気になるな、と思った女性が居るだけだ」 その発言にエミナは絶句し、カヅサは口笛を吹いた。 そんなカヅサに凍るようなまなざしを向けたクラサメだった。 ―――――――――――― 綺麗に咲き誇る桜の木の下に立つ女性が一人。 散っていく桜の花びらを浴び、長い髪の毛を耳にかけた。 そんな些細な仕草がとても綺麗で、この時ばかりは桜の美しさがわからなくなったとクラサメは思った。 「クリスタリウムには来ないのか?」 「!…クラサメくん?気配消さないでよ」 「あ、すまない」 「桜って満開になってもすぐ散ってしまうでしょう?桜ってその一瞬のために一年中一生頑張っていて、咲き誇ったら散ってしまう。私はね、それが人の一生とも似ているなって思っていて、だからその散っていく儚さが好きなの」 彼女の瞳には桜の木しか映っていなかった。 クラサメは、そんな彼女自身も儚い桜のように感じた。 彼女と過ごせる時間は一瞬なのではないか、とまで思った。 「クリスタリウム、行きましょうか」 「あ、あぁ」 彼女の儚い背中を追って、クリスタリウムに向かったのだった。 ―――――――――――― 「クラサメくん…!」 聞き覚えのある声に呼ばれたと思えば、そこにはニヤニヤとしたカヅサの姿があった。 「あら、お友達かしら?じゃぁ、私先に行っているわね」 「あ、あぁ…!」 「では、失礼します」 彼女はカヅサにゆっくり頭を下げると、クリスタリウムへと向かって行った。 彼女の姿が小さくなった途端に声を上げたのはカヅサで、それを予想していたクラサメはすぐに彼の口を塞ぎ、廊下の隅に連れて行った。 「んーーー!んー!!」 「大きい声をあげるな、次に大きい声をあげた瞬間凍らせる」 青ざめながらも頷くカヅサを見て、口を塞いでいた手をよけた。 「ね、クラサメくん。もしかしてもしかするよね?」 「…………………」 「無言は肯定ってことで、随分綺麗な子だねぇ!それにしても9組の子だったとは意外だよ」 「クラスは関係ないだろ」 「うん、クラサメくんならそう言うと思ったよ。あの噂は本当だったんだねぇ」 「……噂?」 「クラサメくんが9組の女の子をかばってたっていう話し。だから最近クリスタリウムにも通っていたんだねぇ。クラサメくんを変えた女の子に会えるなんて僕は感激だよ!」 クラサメは一人盛り上がるカヅサに大きな溜息を吐いた。 それでもこいつは良い奴だということはクラサメが一番に理解している。 そしてこの友人が自分にとってとても大切な存在ということに気づかせてくれたのは、あの彼女だということ。 エミナくんにも報告しなきゃ、と騒いでいるカヅサを見つめながらも、自分は恵まれていると実感したのだった。 .....to be continued |