03.







いつものように隣に座って本を読む彼こと、クラサメくん。
誰かが隣に座っていることがあたり前になる日が来るなんて思ってもみなかった。


あれから彼は本当に私に名前を訪ねては来なかった。

君や、おい、なんて呼んだりして呼びにくそうで申し訳ない気持ちにもなる。






「ねぇ、クラサメくん」


「なんだ?」

「次の授業、サボらないかしら」



唐突な私の発言に思考が追いついていないのか、ただじっと私を見つめるクラサメくん。




「………………」

「やっぱり今の言葉、なしにして良いわ」


「別に嫌とは言ってはいない。内容によるな」

「あら、意外」

「君が誘ったのだろう?」


「そうだけれど…ね?内容は連れて行ってあげたい所があるの」

「良い場所か?」

「とってもね」





そんな私の言葉に彼はゆっくりと頷き、読みかけの本を閉じた。
これは私の発言に乗ったということで良いだろう。

そして私たちはクリスタリウムをあとにしたのだった。























――――――――――――




「目、開けて良いわよ」



握っていた手を放し、そう告げる。
彼にはここに来るまでの間、目を閉じてもらい私が手を引いてここまで来たのだった。



「………これは…!」




彼の瞳が輝いた気がしたのは気のせいだろうか。

そうここ、とはあのクリスタリウムから見える桜の木の元なのである。
ちょうど桜の木が満開に咲き誇っていたので、彼に見せてあげたかったのだ。




「綺麗、でしょ?」


「あぁ…!」

「昨日ね、ちょうど満開になっていたから貴方に見せてあげたかったの」


「とても、綺麗だな」

「えぇ」




言葉を失ったように無言で桜の木を見入るクラサメくん。
本当に感動しているようで、こんな表情もするのだなと思ったりもした。



「良いのか?」

「え?」


「この場所は君の特別な場所なのだろう、だから俺なんかを連れてきて良かったのか」


「クラサメくんも私にとって特別だから良いんじゃないかしら」

「!…だったら名前も教えて欲しいものだな」

「あら、諦めてなかったの?」




綺麗に咲き誇る桜の木の元、私たちは笑いあった。

これから先、私たち二人に訪れる絶望なんてこの時は知る由もなかった。




そう絶望は確実の私たちの元に迫っていたのだった。
















.....to be continued