01. 魔導院の中にあるクリスタリウム。 そこには多くの本があり、多くの候補生たちが集まる所でもあった。 多くの生徒が集まっていたのだったが、とあるクラスのマントだけは浮いていたのだった。 それは、諜報活動など朱雀の裏の仕事を行っている9組のマントであった。 そんな9組のマントを纏う一人の少女は、いつも同じ席に座っていた。 誰かと騒ぐわけでもなく、一人黙々と本を読んだり、時々窓の外を見ながら長い髪を耳にかけたりしていたのだった。 そんな彼女をいつも見つめていたのは優秀な候補生が集まる2組のマントを纏った少年だった。 彼もまた一人、彼女のことを気にしながら本を読んでいたのだった。 9組の少女と2組の少年。 普通であれば関わることのない関係であった。 しかしそんな二人の運命が混じり合う日が来たのだった。 「ちょっと、あんた邪魔なんだけど」 そんな声がクリスタリウムの中に響き渡った。 2組のマントを纏う少年は、面倒事には巻き込まれたくはないなと思い本で顔を隠しながらも辺りを見回した。 すると9組のあの少女が1組と2組の少女数名に絡まれていたのだった。 察するに、先ほどの声は1組の少女のもの。 「…邪魔、ですか?」 「そうよ、邪魔なの。わからないの?」 「本当に私が貴方の邪魔をしていたのならば謝ります。けれど、私はここでただ本を読んでいるだけです。邪魔をしているつもりはありません」 「…っ!9組の落ちこぼれのくせにここで本を読んでいることが邪魔なのよ!どきなさいよ!!」 冷静な少女の対応に腹をたてたのか、1組の少女が9組の彼女の襟首を掴み立たせた。 椅子が大きな音をたてて倒れ、クリスタリウム内に響き渡ったが、9組の生徒には関わりたくはないのであろう、誰もが見てみないふりをしていた。 すると1組の少女は9組の少女の頬に向かって大きく手を振りかざした。 9組の少女は衝撃に備えて目を強く瞑り、歯を噛みしめた。 「……そこまでにした方が良いんじゃないか」 衝撃はいつまでもやっては来なかった。 ゆっくりと目を開けると、2組のマントを纏う少年が振りかざしていた少女の腕を強く握りしめていた。 「!…ク、クラサメくんっ」 「え、なんでクラサメくんが…」 そんな困惑な声を上げながら少女たちは慌ててクリスタリウムから出ていったのである。 クラサメ、と呼ばれた少年は9組の少女と向き合った。 「怪我、ないか?」 「おかげ様でね、ありがとうございました」 深々と頭を下げる少女。 頭を上げると顔にかかった長い髪の毛を耳にかける。 「いつもそこに座っているな」 「……え?」 「あ、いや、いつも本を読んでいるなと知っていた」 「あぁ、ここの席からはね、桜の木が見えるの」 「桜?」 「ええ、この席からじゃないとちょうど見えないのよ。座ってみて?」 綺麗な笑みを浮かべながら倒れた椅子を直し、クラサメに座るように促す。 クラサメは彼女の言う通りに椅子に座って窓の外を覗いてみた。 すると建物と建物の間から綺麗な桜の木が見えるではないか。 「あんなところに桜があったんだな」 「知らなかったでしょ?…でも他の人には内緒よ」 「内緒?」 「そう、あそこは私だけの秘密基地なの。だから内緒」 「いいのか?そんな所を俺に教えても」 「貴方、9組の私なんかに関わる変わり者だから大丈夫かなって」 いたずらっぽく笑う彼女の笑みに吸いこまれそうになった。 名前を聞かなきゃ、そんなことを思っているといつの間にか彼女と同じ9組のマントを纏った少年が居た。 「おい、任務の時間だぞ」 「え?もうそんな時間だった?ごめんなさい、すぐに行くわ。先に行っていて」 「すぐに来いよ」 「ってことで、さっきは本当にありがとう。じゃぁ、私は行くわね」 椅子に座ったまま、言葉も出てこなかった。 去っていこうとする彼女にやっと出た言葉は名前を聞く言葉でもなかった。 「今度!…今度あの桜を実際に見てみたいのだが、連れて行ってはもらえるか?」 彼女は歩みを止め、ゆっくりと振り返った。 「んー、どうしようかな?考えておいてあげるわね、………クラサメくん?」 クラサメは何故だか胸が苦しくなった。 何故か、というのはこの時にはまだ知るよしもなかったのである。 .....to be continued |