場合によって、禁煙宣言!
見上げれば雲ひとつない真っ青な空。
吐く息は白くて、息を深く吸えば冷たい風が肺に染みる気がする。
そんな中、暖かい缶コーヒーを片手に、ポケットに入れた煙草に火をつけ、一服すれば眠くて霞がかった頭がこの天気のようにすっきりとしていく感覚が訪れる。
煙草を教えてくれたのは高専時代の先輩の硝子さん。
硝子さんが煙草を吸ってる姿はかっこよくて、大人の女って感じがして憧れてはじめてみたけど、自分が煙草を吸っていても大人の女感は出ず、ただ喫煙する癖だけが残った。
そんな硝子さんは一足先に禁煙中。
今は私だけが吸っている。
一日一箱以上!みたいなベビースモーカーではないが、眠い時や頭をスッキリさせたい時、口寂しい時についつい吸ってしまうんだよなぁ、と手の中で短くなっていく煙草を見ながら考えていれば、後ろからまだ眠そうな男の声がする。
「また、一服してる」
後ろを振り返れば大袈裟に手で煙を避けるような素振りを見せる恋人である五条悟の姿。
硝子さんが煙草を吸っていても何も言わないくせに、私には隙を見ては禁煙しないの?と聞いてくる。
しない、と答えればそれで話は終わるのだが、やはり自分の恋人が喫煙者というのは嫌なのだろうか。でも辞めると思って簡単に辞められるもんじゃない。
「いっその事、悟も吸う?」
「昔、吸ってたけど、もう興味ない。口の中長くなるから甘い物好きの僕からしたら地獄」
そうそう、この人は高専時代に吸っていた時があった。ほんとに短い間だったけど。
まぁ、確かに美味しいってわけではない。
外の空気で身体がぶるりと震えれば、そこまでして吸うもの?と、聞かれる。
「今日はやけに辞めさせたい感出てますね」
「うん、だってさー」
急に顎を掴まれ、目の前にはドアップの悟の顔があり、綺麗な白髪がおでこをくすぐると唇に柔らかい感触があり、目を閉じれば激しいキスに変わる。何度も角度を変え、深く深くキスをされれば、だんだん息が苦しくなり、彼の胸板を軽く叩くと解放された。
「なっん、急になに?」
「オ゛ェーー、ほら僕の口の中まで苦い」
大袈裟に舌を出し、そんなことを言ってくるので、ならキスしてこなきゃ良いじゃん、と言えば、したいもん、と言われる。なんだよ、駄々っ子かよ。
「ねぇ、僕、良い事思いついたんだけどさ、聞いてくれる?」
「やだ、聞かない。ろくでもないこと言うもん。口寂しくなったら僕がキスしてあげるからいつでも言いなよ、とか言うんでしょ、どうせ」
ぷくーっと頬を膨らせてみせているので、これは当たりだったみたいだ。そういうことじゃないんだよ。
「じゃぁ、もう一個!これどう?」
おもむろにポケットの中に手を入れ、がさごそとポケットの中から何かを出したと思えば、彼の手のひらには色とりどりの美味しそうな飴があった。
「吸いたくなったら、僕を呼んでこれ舐めるの」
どれが良い?と聞いてくるので、彼の瞳の色のような青い飴を指差してみれば、にやりとしてその飴の袋を開け、なぜだか彼は自分の口に含んだ。
いやいや、私にどれが良いか聞いてくれたんでしょ?と思っていれば、再び顎を掴まれ、途端に深いキスをされ、するりと彼の舌が入ってきたかと思えば飴玉も一緒に口に入ってきて、そのまま口内を舐められる。まるで飴を味わっているかのように。
「ね?これなら禁煙出来そうでしょ?僕もこれで糖分を摂取出来るし、一石二鳥じゃん!」
「んっ、でも、これじゃぁ、悟がいる時にしか無理じゃん」
「…まぁ、最悪僕がいない所では吸ってもいいよ。キスできないし」
まぁ、今はこれでキスし放題だけど、なんて言いながらまた唇を奪われて、実は胸がきゅんきゅんしてたなんて言ってやらない。
当分は一緒にいる時は禁煙でもしようかなぁ、と考えてるあたりが私は彼にベタ惚れだ。
だってほら、こんな笑顔で頭撫でられて、抱き締められたら、嫌だなんて言えないでしょ?
ーーーー場合によって、禁煙宣言!
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