呪術廻戦 | ナノ

時間制限のある両想い




※本作は行為を匂わせている描写がございます。
読まれる方はご注意願います。

























どうしてこうなったのだろう、、

考えても答えは出てこなくて、私は目の前に居る五条悟という男に組み敷かれているのを他人事のように見ているだけだ。













彼は高専時代の一つ上の先輩で、正直あまり深く関わってはこなかった。

何故かと言うと、彼は私を見かけるたびに無理難題を言ったり、意地悪な発言を繰り返してきた。
それでも彼はここぞと言うピンチな時には、文句を言いながらも必ず助けてくれ、手を差し伸べてくれた。
だから、一方的に彼のことを意識していたのは私だけの秘密で、きっと彼に嫌われていると思い、なるべく関わらないようにしてきた。


そのまま高専を卒業し、呪術師として細々と活動し、数年間彼に会うこともなく、このまま忘れられると思っていた矢先、長らく離れていた実家から突然帰ってこいと連絡が入った。

私の実家は五条家なんかとは比べ物にならないくらい低級ではあるが、呪術師の家系だ。
その昔には凄く力のある呪術師が先祖にいたこともあるようだが、今となっては落ちぶれてしまっている小さな呪術師の家。

そんな呪術師の家に生まれれば、いつかはやってくると思っていた見合いの話かと思いつつ、実家に帰ってみれば、我が家はお祭り騒ぎのごとく賑やかで、晴れやかな表情の両親に腕を引かれ、居間の上座に座らされる。



「五条家の坊ちゃんの子孫を残す為に、どこかの呪術師の家から娘を出すという話があったのだが、それがお前に決まった」



五条家の坊ちゃん、、
そう聞いて頭に思いつくのは白髪の空のように青い瞳が特徴の彼しか思い浮かばない。

子孫、というのはどういうことだ。
全てにおいて話が頭に入ってこない。



「五条家の坊ちゃんとは学生時代に関わりがあるだろう?だから我が名字家が選ばれたようだ!婚姻に関してはまだ話は出てきていないが、五条家の坊ちゃんの子供を宿せるならば、我が家としても安泰。光栄な事だ」



これまで廃れた呪術師の家系として、鬱蒼とした表情しか見せてこなかった父が、娘が子を産むだけのモノ扱いを受けるにも関わらず、嬉々とした表情で饒舌に説明している姿をただ見つめていた。

私には選択肢など残らせておらず、この現実を考える暇もなく準備は進み、五条家に連れられ、離れのようなところに肌襦袢だけの姿で取り残された。

離れは少し豪華なワンルームというくらいの、キッチンやお風呂もついており、ここだけで生活ができるような部屋になっていた。
ここが五条さんの部屋なのか、とも考えたが、生活感は一切なく、今日の為に用意された部屋だと言う事に気が付いた時、部屋の扉が小さな音をたてて開かれた。



「やぁ、久しぶり」



そこには高専時代よりも雰囲気の柔らかくなった、昔と少しも変わらない五条悟の姿があった。

彼は私の返答を聞かずに、ずかずかと部屋に入り、ベッドに腰掛ける。



「で、君はここに来たって事は僕の子供が出来るまでここから出られなくて、もちろん僕とそういうことするってことも分かっているってことで良いんだよね?」

「え、、子供が出来るまでここから出られない?」

「あれ?知らなかった?でも当たり前だよね。子供なんてすぐ出来るかわかんないしね。まぁ、すぐ出ないなら君も頑張って」



彼の青い瞳を見れば、彼が冗談ではなく本気で言っている事が伝わってきて、やっぱり私には無理だ、と告げれば高専時代のよしみでなんとか話をなかったことにしてもらえるのではないかと思い、ベッドに腰掛ける彼に近付き、声を掛けようとすれば、腕を強く引かれそのまま彼の身体に倒れるようにもたれ掛かれば、彼の柔らかい唇が私の口を塞ぎ、言いたかった言葉は何一つ声にならなかった。

それどころか、するりと彼の舌が口内を弄り、私の舌を絡め取る。
逃げようとしても逃げられず、彼の好きなようにされていれば、腕を抑えたまま身体を倒され、背中には我が家にあるベッドよりも何十倍もふかふかなベッドの感触が広がる。

私を組み敷く、彼は無表情で、何を考えているのか少しも理解出来なかった。



「君はこの状況が不本意かもしれないけど、僕も正直不本意なんだよね。でも上が煩くてこの条件を飲まざるおえなかった。まぁ、君が子供を産んだ後は何不自由ないくらいの生活は保証されるみたいだし、好きな男のことでも考えて我慢して」


そう告げながら、また深い口付けを落とす彼の舌先や私に触れる指先は凄く優しくて、彼のことが私は理解出来なかった。

だって、まるで大切な恋人を抱くかのように丁寧に優しく行為を進めていくから。


好きな男でも考えて、なんて言われたが、私が想っていたのはこの目の前の男、五条悟だけなのだ。

愛がない行為かもしれないが、私は彼に抱かれることを喜んでしまっている。
どんな理由であれ、彼の子供を産めるのならばそれはそれで本望だと思ってしまっている。


軋むベッドの音が耳に響き、彼の体温しか感じられない。
このまま彼と二人だけの世界になってしまえば良いのに、と思ってしまえば、押し寄せる快楽と共に右目から涙が溢れ落ちれば、一瞬彼は動きを止めた。でもそれは一瞬で、また動き始めながら彼は私の溢れ落ちた涙を唇で優しく掬った。

その感触すらも心地よく、今までに経験した事がないほどの感覚が押し寄せて、意識を飛ばした。

目が覚めた時には窓の外は真っ暗で、月明かりが差し込んでいた。

私の身体に丁寧にかけられた布団を捲れば、自身の身体に赤く咲く花が見え、先程の出来事は夢ではないことを物語っていた。


部屋にはもうからの姿はなく、ベッドの横にあったテーブルの上に置かれた小さなメモを見つけて、手に取れば、そこには走り書きの見慣れた彼の字があった。


『部屋から出たい時や何か困ったことがあれば僕に連絡くれれば対応するから、何かあれば連絡して』

というコメントの下には携帯の番号であろう数字の羅列が並んでいた。
その昔から変わらない数字の羅列を見て、はるか昔に交換した連絡先だが、結局一度もこの数字を鳴らしたことはなかったな、と思った。
きっと彼は連絡先を交換したことなんて当に忘れているだろう。


痛む腰を上げれば、行為の生々しさを思い出してしまい、彼に愛されているのではないかと錯覚してしまいそうな馬鹿な頭を冷やそうと冷蔵庫を開けてみれば、その中は空っぽだった。
こんなことで連絡するのも、と思ったが、空っぽの冷蔵庫と今後共にするのも困った話なので、少し悩んだのちに携帯の電話帳を開き、五条悟の名前を軽くタップすれば電子音が響く。
5コールを過ぎたところで、彼は忙しい人だったことを思い出し、電話を切ろうとすれば、少し慌てた様子の彼の声が耳に響いた。



「、、、名前?どうかした?」



名前、と呼ばれた瞬間、先程の行為の最中にも何度か名前を呼ばれたことを思い出してしまい、顔に熱が集まっていくのがわかる。



「あ、すいません、忙しいですよね?飲み物が何もなくて、、何か頂ければな、と思いまして」


あ、そんなことか、すぐ持っていくよ、なんて返って来れば、本当にすぐに持ってきてくれた彼の顔が見ることが出来なかった。

ずっと下を向いていれば、彼は私の頭に手を置き、頭に優しい温度が広がる。




「本当にもう無理ってなったら、この話は無くしてあげるから」



その消え入りそうな静かな声に慌てて顔を上げれば、眉を顰めた、今まで見たこともないほど弱々しい表情の彼だった。

どうして、彼がそんな表情をするのかは私には分からなかったが、きっと彼にも彼の複雑な事情があるのだろう。
私はただの子を産むだけの人形かもしれないけれど、相手が五条悟という男だから、束の間の幸せでもなんでも良いと思ってしまう浅ましい女に成り下がる。



こうして毎日、私は彼に抱かれる。

そこに愛はなくても、この瞬間だけ大切に触れてくれる彼と束の間の両想いを感じるのだ。





















ーーーー時間制限のある両想い

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