ごめん何その背中

取立て屋コンビ結成一週間後。




襟首からぴょっと何か飛び出していたのでそれなんだと聞きつつ引っ張ったら、値札だった。俺でも知ってるブランドの名前と量販店で売っているものよりゼロがひとつばかり多い数字が書かれた値段。メイドインジャパン。がつけられたままのシャツを見て、静雄のことだからまさか万引きしたわけでもないだろうが、痛くねえのかともたずねる。静雄は平然とした顔で、なにがすか?と体格的に俺を見下ろしながら答えた。痛くないのはいいが、外見がみっともないからやめたほうがいいと思ったのだがそれをいうと普通に怒りだすだろうから、なんで切らないのか的な聞き方をする。自ら厚顔に世間へ宣伝できるほどのものでもないけど職業に貴賎なしっつー言葉を信じるのであれば取り立て屋やってのも立派な仕事であり、仕事をする社会人である以上静雄は身だしなみに気をつける必要があるので、相棒的ポジションを社長から仰せつかった俺目線では取ってほしい。というか隣を歩くのが恥ずかしいのでホント取ってほしい。静雄は俺のような成人男子が見上げるほど長身なので注目を集める。別の意味でも集めるからなおさら。

「…ああ、これ、弟がくれたシャツなんすけど」
「ふうん。20着っつってたあれか」
「勿体ねえから着ますけど、なんか、タグとか、手ぇつけたくなくて」
「っても洗濯するならとらねえといけねえべ?」
「まあ、そうなんすけど。つか、だからそれまでは、って」

弟め。
羽島幽平は俺から見てもいい役者だしいいアイドルで静雄とは似ているようで似ていないようで似ている出来た弟さんだが、今回ばかりは変な愛され方をされてしまっているようだとむしろ同情した。弟からもらったものだから値札切るのも勿体ないってどんな心理なのか俺にはさっぱりわからないのだが、平和島家ではそれは許されるのだろうか。
再会したときにはすでにバーテン服が普段着だった静雄なのでいつもは値札などつけていないが、20着もあるというシャツの中で今日のははじめて袖を通したものなのだろう。洗濯機の中で値札が引き裂かれ洗濯物に付着しガムテープでしこしこ一片一片とってゆく静雄の姿なんぞを想像してしまい、うっかり可哀想になお前といってしまうところだった。危ない。

「静雄お前」
「なんすか」
「弟さんをそんなに好きなのはよくわかった」
「なんすかそれ恥ずい」
「静雄」
「はい」
「お前俺好きか?」
「はい?」
「お前、俺を好きならねえか?」
「はい?」

暴力と呼んで差し支えのない力に静雄自身が振り回され人生を歪められたことは中学の数年間でもわかっていたことだ。唯一素直に心を開けている様子の弟さんに依存しているのを見ているのがあまりにも不憫なので不毛なので、男で申し訳ないが俺に惚れたらタグなんか切ったところで気にすんなと諭してやろうと思ったのだが、うわー言ってて相当俺きもいなー引かれたかなーと殴られないよう数歩後ずさりしながら、静雄を窺った。
だが静雄は引くというより怒るというより不思議そうな顔をしていた。

「トムさん。俺が好きになってもいいんですか?」

そういう言い方をされてそういう言い方をせねばならなかった静雄の半生と俺が彼に抱かれていた感情が著しく低いものだった言うことを察せてしまった自分がいるので、いよいよ静雄が危うい人間であることを思い知らされた。「…じゃ、まずは先輩後輩関係から、よろしくな」苦笑してしまった。これは参ったなあ。俺は彼の値札を切り取らねば気がすまなくなっている。




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