こんぐらっちゅー

裂いて裂いて、それはついに桜のような吹雪なような、いびつななにやらになった。ぴりぴりぴりぴり静かに大きく反響してた音を鳴らし終わり、荒んだ気持ちも一応晴れた。淡雪色のなにやらの大きさはどれもまちまちだが一片が1センチを超えるものはない。手の平の上に山と盛る千々になった紙は、軽く手首を捻るとひらひらと臨也の上に舞い、いくつかはその肩や黒髪にかかっていった。制服にもその足元にも、はらはらと散る。
がらんどうになった式場に一人佇む男はまるで舞台俳優のように存在感を放ちながら依然として自然体で立ち。なあにシズちゃん、と体育館の床から俺を見上げた臨也の瞳は、寒々しいくらい綺麗に光っていた。あまねく女子生徒の視線を一人占め、これぞイケメンのみに輝く光。俺に言わせると相変わらずキモい面構え。
照明を絶ち、窓から一条零れる以外ほとんど日光も射さない室内でこれほどテラテラ光る目も奇異なものだ。妖しいくらい湛えている。
バスケットボールとバドミントンのシャトルが散乱する二階から見下ろし、口角を上げて笑い返す。
「卒業おめでとう、イザヤ君」
「君は? シズちゃん」
卒業できたの、と笑うのが憎らしい。俺は自分の肩を指す。それを受けて臨也も、己の肩に載った紙切れを摘みあげる。噴き出す臨也。
「卒業証書、紙吹雪になんかするかね普通・・・」
揺らされる肩から紙片が飛ぶ。震える喉元。哄笑の罵声。耳に異物が入った時のような、皮膚の下を何かがはいずり回るかのように不愉快に聞こえる俺の耳は、すっかりこの野郎に教育されてしまったのだろう。不本意ながら。
「何君卒業したくないの? 一生高校生活送っちゃいたいわけ?」
「臨也」
「ん?」
「第二ボタンくれよ」
「ええ?」
失笑、という感じで目元を歪ませながら俺を見上げる臨也。紙吹雪を踏み付けた臨也の着ている服、来良になる前の母校、来神の制服が学ランだったころ、俺達が卒業生だったころ。心臓に一番近い位置についたボタンを好きな人からもらうことが、女の子にとってのステータスだったころ。
残念なのは俺とあいつが同性であいつに対する俺の感情が愛の一言なんかでは収まりきらないところだった。愛愛愛愛。ありえませんトコシエに。そんな風に全てを飲み込む魔力を秘めた綺麗な言葉など口になんか出来ません。流動する恨みつらみは晴らせませんよーエイキュウに。
そうだこれを愛と呼ぶならば世の中に真実はなくなってしまうので、意地でも言うまい。てか普通に嫌いだと明言するほうが通りがいい。
「あげてもいいよ」
どうするの、と言われたから砕くんだよ、と答えた。俺の卒業の証の真ん中で、目も真ん丸くしてへえーと臨也。吹雪を散らした手を、届かぬことを承知で伸ばす。
ぎゅっと虚空を握る。
「お前の心臓壊してやるわけ」
「シズちゃんは照れ屋さんだなあ」
俺のことがほしいのなら、と臨也が言う断じて違う。正直に言えばいいのにとか言うな本当に違うから。
俺が欲しいものは常にお前ではなかった。
「卒業式の終わった体育館に呼び出すなんてされたからてっきり告白だと思ったんだけど」「耳が腐るっていいから寄越せよお前の心臓。もといボタン」「え、何言ってるの」
ラプンツェルじゃあるまいし、君が降りてくれば?
挑戦的に言い放って臨也はその場にしゃがみ込んだ。俺の紙の成れの果てを踏み付けながら。馬鹿言え、この距離だからこんなことが言えるのに。
呆れて物も言えなくなった俺を、例のヌラヌラ光る瞳で笑みを消して見上げるだけの臨也に更に呆れた。こいつもケジメをつけたがってんだ、とわかった俺自身にも。卒業式だったのだ。卒業証書なんぞを千に万に千切ろうとその事実はお互いに覆らないのだ。

「・・・今日で終わりだから」

真顔の臨也に笑ってしまった俺は手摺りに足をかけた。さようなら、お前を見て焼け付くような感情に身を焦がして仕方なかった日々。今日をもって卒業です。

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