ラフ&ラブ

少なくとも自覚してる内の俺の初恋は3歳の時の保育士さんマリコ先生。波打つ茶髪を後ろで束ね化粧っけもなく童顔だったが推定25歳前後バスト95ウエスト55ヒップ86の垂れ目の女性だった。彼女は優しかった。黄色い帽子に青い半ズボンの俺が三輪車乗り回して砂山に突っ込んで行ってもお昼寝の時間に中々寝付けず隣の野郎共の呑気な寝顔に寝癖のふりして蹴りをくれてやりわんわん泣かしてもおやつタイムに隣の野郎共のお菓子を奪って貪り食っても、こらっちかげくん、めっ! と垂れ目を精一杯吊り上げて怒って見せるのだが決して躾と称して野蛮に手をあげたりはしなかった。まあ別に女性からならいくらでもビシバシ躾てくれて構わなかったのだが今思えば、彼女のその怒った時の顔がスーパーキュートだったから当時の俺は関心の無い同学年の野郎共にちょっかいかけることによって彼女の気を引こうとしていたのかもしれなかった。嫌なガキである。いやいやしかし、罪な女性であるマリコ先生。
彼女は当時の俺に言った。ちかげくん。人に優しくしなさい。
当時の俺は彼女に言った。ぼくは女の子とマリコ先生だけに優しくしたいです。
するとマリコ先生は困ったように笑って、ありがとうでもね、と当時の俺と目線を合わすようにしゃがみ込みながら言った。ちかげくん。なんで女の子だけなのかな? そりゃもう女の子、とマリコ先生が好きだからです。嬉しいよ、だけどちかげくん、男の子にも優しくしてあげて。男の子のことも、好きになって?
無理です!

「とか言ってー」
「嫌なお子さんだったんですね」
「自覚はある」

マリコ先生には笑顔はなかった。女性に悲しませるような顔をさせた当時のクソガキつまりは俺を無性に絞め殺してやりたいとかの現在の本心はひとまず置いとく訳だがマリコ先生、実際問題男が男を好きになるということは一定以上のレベルに達するとマイノリティの烙印を押されてしまう訳です。あなたの言う「好き」が友人関係を築く上で必要とされるレベル程度のものであることは重々気づいているつもりなのですがちょっと。すみません、ちょっと。

「兄を好いてくれるのは勿論、弟としては嬉しいです。兄には友人が少ないようですから」
「はあん。うそぶくねえーアイドル」
「本意ですよ。弟として、友人に対しては」
「そのキモい丁寧語ヤメテ」
「兄の、友人にはたとえ年下でも、誠意を見せたいもので」
二重の棘というより有刺鉄線が負かれた男の言葉になど女の子の囁きのように絶頂へ誘ってくれる要素など一つとしてなく、マリコ先生まだあの幼稚園いんのかなあと今でもはっきり脳裏に浮かぶあの美しい茶髪を思い出して耳栓の役割を担っていただく。今振り返っても可愛い女性だった。今再会したら元教え子というハンデはあってもちょっとは脈あるかなあと想像する半面俺はまさかに全く別の性別の人間から目を逸らせないままだった推定バスト79ウエスト70ヒップ80。野郎のスリーサイズなんざどうでもいいとか思いつつ細い腰をガン見してるマイアイズどうよもう。ターゲットは金髪で、だるそうにくわえタバコをふかしている見た目バーテンダー。至って普通の男の顔立ちは可愛くもなけりゃ女性らしさのかけらもないのにターゲットの弟と二人、ターゲットから目を離せない。何気ない一挙一動に胸がつまり、胸がはり裂けそうになり、胸がむかつき、胸がいっぱいになる。身を焦がす。ねえマリコ先生、やっぱり近々会いに行ってもよいですか。少々報告したいことがございまして。

あれから15年経ちようやく男を「好き」になれました、とかね。

[ 25/33 ]


[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -