諦めが肝心

これの派生




人の気配で起きると、戌井がなんとも情けないツラをして布団の上で正座していた。古びた俺の布団にピッタリと横付けされたくたびれた戌井の布団。どんだけ二組の間に隙間を開けてもいつの間にか戌井の手によってぴったりくっつけられ、いつからか隙間を開けることすら面倒臭くなって、放置していた。そんな布団は俺達の関係をそのまま表している。戌井が近づき、俺が諦める。
何してんだてめえかけ布団の上に乗るなんてなんつー暴挙をしてやがると殴ろうとして、その八の字の眉に虐めてるみたいになって止めた。300均で購入した枕元の卓上時計を見ればまだ3時半だ。明日も仕事があることを思えば貴重な睡眠時間を削られているわけで、はァーなんだよ、と長きにわたる同棲の為大分戌井の前では緩和した怒りをため息に変えて尋ねる。戌井の極彩色は、眠気の目には絶対悪い影響しか及ぼさないと思う。
「・・・静、雄サン?」
戌井はぺらぺらの布団の上でこちらを伺うように俺を見上げる。なんだよーと思わざるを得ない。戌井のそろそろとしたその視線はまるで、俺を測ろうとしているかのようだ。図々しさを地でいく戌井以外に誰かの居候を許した覚えはない。
「他にいんのかよ」
「いるよー!」
しかし勢い込んで戌井は拳を握り、力説するのだ。お化けの類なら俺に手出しはできねえからあきらめな、と諭してみたらちげえええ!と肩に抱き着かれる。ジャージ越しの骨っぽい身体はいつものことながら密着されて嬉しいものではない。
「そんなにお化けが怖いってのか・・・」
「だっ、だから違うって。人を欺くのも銃ぶっ放すのもラーメンのつゆに指突っ込むのも、生身の人間と相場は決まってんだろ。俺が怖いのは幽霊じゃなくて幽へ・・・」
耳元でがなりたてられ辟易するも、内容は眠気によってほとんど聞き取れなかった。うるせー深夜に騒ぐなと低い声をしたら戌井はぴたりと黙った。本来俺の睡眠を邪魔することが何を意味するのか、思い出したらしい。一度戌井に夜ばいと称して寝込みを襲われた時、どんな目に合わせたのか、再現してやる苦労くらいはいくら眠くても惜しまないつもりだ。
ちなみに、なんかパジャマがわりにしてる俺のバーテン服の襟元が奇妙に歪められている気がしたが、ちらりと見た戌井の股間は沈静していたので発情期というわけではないらしく、従ってこれはただ俺自身の寝相で乱れただけなのだろう。仮に戌井が勝手に盛って今夜も俺の寝込みを襲おうとした名残と考えても、それならば萎えた様子で布団の上に正座しているのはおかしいのだから。
まさか、夜ばいをかけた相手が人違いだったとかいうわけでもあるまいし。
「よし、よし・・・」
「あっ、眠いからってあんた適当にあしらおうとしてる! でもあんたに背中とんとんされるのすっげ気持ちよくてやべえどうしよう」
「寝ろ・・・俺は眠い・・・」
「・・・ちえー。いいよなああんたの弟は、あんたみたいなお兄ちゃん居てよ。ひょっこり出てきて人の高ぶった気分萎えさせる天才だけど」
あーもういいよ寝てやるよ! 人の可愛い弟に向かってよくわからないことを言っていた戌井はやけになったように宣言し、俺に抱き着いたまま身体を横に倒し、布団にダイブ。俺はそれによって抱きしめられた状態で朝を迎えることになりそうな体勢にされたのだが、もう眠いからいいやと諦めた。そう、戌井と付き合うには諦めが肝心なのだった。

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