も つ れ る
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暗い部屋の中、人工的な光がチカチカと眩しい。 あなたが居たらきっと叱ってくれるでしょう。 私は抜け出せないぬかるみに足を取られてしまいました。
あなたに恋した中2の夏が驚く程遠く感じます。 あの頃の私は何も知らない子供で、あなたはなんでも知っている大人で。私はそんなあなたに憧れを抱き、恋をしました。 あなたの柔らかい髪が揺れ、少し大きな耳が朱色に染まっていく。 世界中が私達を祝福してくれている、そんな気分でした。
あなたはもう居ないけれど、私はまだ
ヘッドフォンから大音量で流れてくるのは、あなたの好きなバンドの曲。 あなたが初めて私にプレゼントしてくれたこのCDは今でも私の宝物です。 私がCDをひとつも持っていないと言うと、あなたは驚いて目を丸くしまして「勿体無い」と私に音楽の素晴らしさを説きました。 次の日机の中を見ると少し傷の入った中古のCDが入っていて、ひと目であなたが入れたのだとわかりました。 初めて手にしたCDはとても重く感じられ、大切にスクールバックの中にしまいました。
あなたの居ない今、このCDだけがあなたと私をつなぎとめる唯一となってしまったけれど、私は今でも
私とあなたは付き合っていたというわけではないのだけれど、そこには確かに愛がありました。 私はあなたを愛していたし、あなたに私は愛されていた。 放課後、誰もいない教室で語らうだけの関係だったけれど、そこには愛があったし、私達は健全に恋愛をしていました。 「宇宙には無限大の可能性が広がっている」 それがあなたの口癖で、あなたの唇から溢れ出すキラキラと煌く話に私は入り浸っていました。 私達は決して恋仲ではなかったけれど、私達の間には確かに愛がありました。例えあなたが居なくなった今でも
嗚呼、どうしてあなたは居なくなってしまったのでしょう。 厳しい世間の荒波に揉まれて、私とあなたは引き剥がされてしまいました。 当時、校内で私とあなたが恋仲だという噂が流れていたのです。 毎日のように放課後、私達が語らうのを見た誰かが流したのでしょう。タダの噂です。 私達は確かにお互い好きではいたけれど、恋仲ではなかった。けれど、根も葉もない噂はエスカレートして行き、私と先生はどちらからともなく離れるようになったのです。 噂なんてそのうち無くなる。そう思っていた私達は、噂をこれ以上膨らませないために仕方なく離れたのです。 噂は他の先生達も知っているほど校内に広まっていました。私達は、噂が止めばまた放課後語らえると思っていました。 ある日、私は校長室に呼び出されました。校長室に入るのは初めてのことで、とても緊張したのを覚えています。 校長先生は、噂のことについて聞いてきました。 「君と大野先生は噂のような関係なのか」 言葉を少しオブラートに包んだようでしたが、オブラートは鋭いトゲに破れて役目など果たしていませんでした。 「いいえ、私と大野先生はそのような関係ではありません」 私は必死に否定しました。しかし、1週間も経たないうちにあなたは違う学校へと転勤してしまったのです。 私は悔しさに涙しました。私達はふしだらな関係などではなく、健全な関係だったのです。放課後に宇宙について語らっていただけなのです。
ひたすら噂と学校を呪って、私は自室に閉じこもりました。 部屋で一人、パソコンと向かい合ってポテトチップスを食べる私を、今の私を、あなたはどう思うでしょうか。 私は今でもあなたを愛しています。 あなたが居たらきっと叱ってくれるでしょう。 私は抜け出せないぬかるみに足を取られてしまいました。
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