放課後サテライト




放課後のサテライト
サテライトとは衛星.惑星の周りを公転する天体のことを言うらしい
つまり私は放課後は宇宙のような可能性が広がっているということを言いたいわけだけれど、伝わっただろうか
つまり、私がここで先生を押し倒して口付けることも宇宙の可能性の一つだと思うのだ
「先生」
私は色を含んだ声でその言葉を口にする

先生は数学の教師で、私のクラスの副担任。ガリガリなのに何故か怖い雰囲気でたまに笑う笑顔に私は簡単に恋に落ちた
先生は学校から2駅程先の古いアパートに一人で住んでいて、そのアパートに住んでいるらしい猫にたまに餌をやっている
先生は朝が弱いらしく、近所に響くほど大きな音がする目覚ましを愛用している。それでアパートの住人ともめないのかという話だが、先生の住んでいるアパートには先生と耳の遠い老夫婦しか住んでいない
先生は電車の中でいつもおにぎりを頬張る。お手製らしいそれは見るからに硬そうで、先生が毎日不器用におにぎりを握っているのだと思うと少し笑える

「先生」
私は少し寂しげにその言葉を口にする

先生は今は部活の顧問をやっていて教室には私一人だ
先生は将棋のルールなんて全く知らないのに将棋部の顧問だったりする。将棋の駒の並べ方も知らないような先生が何故顧問なのかは私にもわからないけれど、最近は部員に少しずつ教わっているようだ
夕日色に染まった教室には私の影が背を高く伸びている
私しかいない教室はとても静かで少し寂しい
私は教卓に座って先生を思う

先生、先生、

宇宙の可能性は無限大だと教えてくれた先生。数学教師にもかかわらず、先生は宇宙が大好きだった
先生の口から流れる宇宙はとても綺麗で私はブラックホールに飲み込まれたかのように吸い込まれていく

キィーッ

錆びた引き戸が唸る
「…先生」
夕日の影でよく見えないが、くたびれたズボンと靴はまさしく先生のものだった
「いたのか、山田」
少し間延びした声が教室に響く
下校時間だぞ、という声にビクリと肩を揺らす自分がバカみたいだ

ああ、放課後はサテライト
サテライトとは衛星.惑星の周りを公転する天体のことを言うらしい
つまり私は放課後は宇宙のような可能性が広がっているということを言いたいわけだけれど、伝わっただろうか
つまり、私がここで先生を押し倒して口付けることも宇宙の可能性の一つだと思うのだ
「…先生」

私は静かに教卓から降りた






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