邪な香り




私は先生が好きだ
その証拠に、私は今ココにいる
味気のない香りと堅い椅子
何の味気も無い質素な部屋
机にあるピンクゴールドの輝きをした香水だけがこの部屋に不釣り合いだ

私は堅い椅子に座って先生を見つめる
少し、熱を込めて
先生はそれを逸らすかのように口を開いた
「どうして万引きなんてしたんだ」
訴えかけるような声
別にお金が無かったわけじゃない。この香水が欲しかったわけでもない
だってきっと先生の好みじゃない
答え無い私に痺れをきらした先生が溜め息をつく
ごめんなさい。困らせたいわけではないの

「何故、万引きなんて…」
まるで先生自身に呼び掛けるような掠れた声
何故って、わかっているじゃない
貴方は私の熱い視線の理由を知っているはず
だから私を避けていたんでしょう?
言葉にはしない。視線上だけでの会話
先生はまた目を逸らす

長く冷たい沈黙が更に先生を追い詰めていく
グッと握りしめられた拳には脂汗が浮いている
きっと、どうやって沈黙を破るかを必死に考えてる
傷付けないよう、私を気遣ってくれている
優しい先生
その優しさに漬け込む私

「…なあ、何か話をしないか」
突然開いた先生の口からは予想外の言葉で、私は目をパチクリとまばたく
「何の話でもいい!山田の好きな話をしよう。何が好きなんだ?」
戸惑う私を後目に先生は言葉を続ける
「俺は最近の流行りってのに疎いから、こういうのよくわからないんだが…!その、良い香りなのか?」
多分、香水の事だろう
先生は必死に話しているけど、私も流行りには疎いし、そもそもその香りは好きじゃない
「ちょっと嗅いでみようかな!俺、香水とか初めて触るかも!」
額の汗が、必死の作り笑いを示してる

先生が香水を手に取り、空にシュッと吹きかけた
甘ったるいフローラルの香りが鼻につく
「あ、甘い匂いだなあ…」
先生は少し眉間に皺を寄せた
やっぱり、嫌いな香りだったんだ
先生はそれからも沢山の作り笑いと行き詰まった話題を私に提供してくれた
でも、私は口を開くつもりはない

先生も流石に疲れたようで、張り付いたような作り笑いも出来ていない
ごめんなさい先生
今口を開くと、貴方が好きだと口走ってしまう
私はただただ黙って先生を見詰める

甘ったるいフローラル香りと堅い椅子
何の味気も無い質素な部屋
先生の手の中のピンクゴールドの輝きをした香水と私の邪な思いは、同じように先生には不釣り合いなのだろうか






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