×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


お ひ さ ま




 ぴう。と木枯らしが吹きぬけて、寒さに縮こまった身体が最後の仕上げとでもいうようにキューッと首をすくませたというのに、

「オオゥ…」

隣を歩く英雄様の口から思わず洩れた声の続きがあんな言葉だったとは。

「ああ…なんかこう…あったけェんだよなァ…」
「はぁあ?!こんっなに寒いのに、アンタばっかじゃないのッ?!」
「ぐはァ!」

認識するよりも早く鋭く反射的に思い切り突っ込んでしまい、サクラはしまった!と目を見開いた。完璧なまでに的確に急所にグッサリと刺さりましたと言わんばかりに胸を押さえたナルトを、横からソーッと上目づかいで伺う。「グヌヌヌヌ…」と大袈裟に悶絶している姿に思わずジロリと睨んでしまうが、こちらをチラッと伺ったナルトが、

ニカッ!

と、いつもの笑顔を返してくれたので、サクラも密かにホッと胸をなでおろした。

「ったく!大袈裟なんだから!」
「だァってよ〜」

プリプリと怒りながら歩く自分も、唇を尖らせながらドタドタとガニ股で歩くナルトも、あまりにも昔のまんまで何かくすぐったい。

『なんか…ホント…久しぶりな気分…』

なんとなく。なんとなく、月から帰ってきてから可能な限り会わないようにしていたとは、この男はきっと気づいていまい。
そっと怪しまれないように距離を置きながら、

「で?候補は考えてきたの?」

聞いてみたというのに、

「えっとォ…それは…サクラちゃんがなんかいいの…思い付いてくれっかなァ…とか……」
「ハナっからあたし任せなのかよッ!」

ゴニャゴニャと甘ったれたことを言うので、ついに思い切りゲンコツをお見舞いしてしまう。

『ああもう!ほんっとにわかってない!わかってない!!』

ズン!ズン!と先を行く自分と、情けない声を出しながらよろよろと追いかけてくるナルトを周りのみんなが笑いながら見ている。

「あんたね!自分の彼女へのプレゼントくらい自分で選びなさいよっ!まったくもーッ!」
「サッ、サクラちゃん!ちょっと!カ、カノジョって…」

そこらじゅうの人に聞かせてやる!とばかりに叫んでやると流石に恥ずかしいのかアワアワと両手を振り回すが、

「カ…カノジョ…カノジョ…オレにカノジョ…ヒナタがオレのカノジョ…」

自分で自分の言葉にみるみる真っ赤になっていったかと思うと、両手で顔を覆ってプルプルと震えだす。

『こンの…隠れ乙女め!!!』

ダンッ!と足を踏み鳴らしてやりたい衝動に駆られるが、これ以上男らしい印象を周囲に与えては不利だ、と懸命にこらえる。

びぅうううう!!!

「痛っ…」

ふいに吹き抜けた木枯らしに煽られた髪で頬を叩かれて目を細めると、

「大丈夫か?」

いつの間にか側に来ていて真剣な顔でこちらを気遣う。

『っとに、もう…』

聞きなれているはずの声が思いがけず低く大人っぽくなっていて、ハッとしてしまう。
惜しいわけじゃない。そんなつもりはさらさらない。だけど、本当にしみじみと、

『ナルトも…男になっ…た…んだよなぁ…』

シノすらも超えるとは思っていなかった長身を見上げると、やっぱり昔のようにニカッ!と歯を見せて笑うのだ。

『あのねぇ…ナルト…』

口に出そうか迷う。でもやっぱりやめる。出してしまえばきっと「んなこと気にすんなってばよ!」と笑い飛ばしてしまうにきまっているのだ。だから、

「で?本気でなんの当たりもつけてないわけ?」

ジロリ…と睨みあげてやる。

「うぐッ!」

ギュッと目をつぶって呻くナルトを置いてまた先を行く。

『あのさぁ、ナルト…?』

言えない代わりに心で言う。

『アンタの隣はもう埋まっちゃったの。もう隣に並ぶべき人をアンタは無事手に入れたの。だからさぁ…』

クルリ。振り返ると、いかにも嬉しそうな顔で笑う。懐かしい…ナルトはまだ同期で一番のちびすけで…あの隣には拗ねたように横を向くサスケくんが居て…あたしも伸ばした髪を必死に手入れしていた頃で…

「どした?サクラちゃん」
「は?なんでもないわよ!」

泣きそうになっていたのを素早く見抜かれ、慌てて前を向く。

「いつまでも甘ったれないでよね!あたしはあたしで忙しいんだから!」
「エエーッ…なんか…冷てェの〜…」

また不満そうに顎をつき出しているのだろう。どうしてこう見なくても手に取るようにわかってしまうんだろう。

「彼女が居るのに他の女と歩くなんて…」
「エッ?なんか言った?」
「なんでもない!」

かつて何かと「デートしよう!サクラちゃん!デート!」と喚いていたけれど。二人で歩いていればすぐに「これってデートだよなっ?!なっ?なっ?」とはしゃいでいたけれど。

『アンタ基準だとこれはデートってことになっちゃわないの?!もう!』

チロリ…睨んでやるが、「?」と首を傾げるだけ。

「アンタねぇ…」
「?」
「ヒナタが大事でしょ?」
「あ、あ、アッタリマエだろ!」

嗚呼…ここでキメ顔出来ないとこが残念過ぎる…!気合いを入れたのか、突き出してしまってる下顎を「仕舞え!」と叩いてやろうかと思ってしまう。

「…泣かすんじゃないわよ?」
「も!もちろん!!」

ビシッ!と直立するナルトに我慢が出来なくて笑ってしまう。

「サクラちゃん…?」
「あーあ!もう…あたしさぁ、今まで自分のことアンタのお姉さんみたいだなって思ってたんだけど!」
「??」
「一気にお母さんの気分だわよ!もう…」
「???」

グーッと身体ごと首を傾げていたナルトは、

「エッ?じゃあ…サスケがとーちゃんなのかよ…それはイヤだな…」

トンチンカンなことを言う。

「あら?四代目さまはサスケくんばりのイケメンだものね♪」
「エッ?エッ?オレってばその息子なんだけどっ♪」
「少しは似れば良かったのに〜!ホンット残念よね〜え♪」
「あが…」

もういい。諦めた。

『アンタの一番を、全部残らずヒナタに譲ろうって決めてたけど、もう止めた!』

さっぱりした気分で微笑んだ。

『無理して距離を置いてもムダね。そのうち自然と離れてくんだもの…きっと』

それが大人になるってことだ。ナルトも、もちろん自分も。

「うわっとォ!」

木枯らしに木の葉が舞い上がる。ナルトがカサカサに乾燥した葉っぱの中から形の整ったものを素早く選んで一枚摘まみ、

「ヘヘヘ!」

と得意そうに笑う。こんな顔ももうそうそう見れなくなるのだろう。

「あ〜あ、いいわねぇ、アンタは」
「ン?どして?」
「木枯らし吹いてもあったかいんでしょ?」

観念したので横に並んで歩きながら嫌みを言ってやると、激しく後悔するほどに全開の笑顔を向けられてしまう。

「なんかさァ…不思議なんだってばよ…」
「…」
「あんときからずーっとさ…オレのここんとこ…あったかいままなんだってばよ…」

こんなに近くに居たのに、かつて見たことのない和かな微笑みを浮かべながら、ナルトが胸元を押さえている。

「なんでだろ?ずーっとずーっとあったけェんだァ…」

バカ!バカバカバカ!

湧いてきた涙を見られないように慌てて横を向く。すぐに「良かったね」と言ってやれない自分に少しがっかりしてしまうが、それよりも泣いちゃいそうなのだから仕方ない、すぐに言葉を発することが出来ない。

「ったく!盛大なノロケを!ご馳走さま!」
「デッヘヘヘ♪」

デレデレと笑うナルトをほんのり鼻声まじりでなじってやる。

「本当に強くなれる…かァ…」
「なによ?」
「昔言われた言葉でさ…」
「…そう」

確かに。長い間ナルトは自分やサスケや仲間のために戦ってきた。強くなっていった。だけど、今度こそは自分のために、自分の大切なたった一人のために…きっと…

「じゃあもうますます怖いものなしね」
「そりゃあな!ニシシシシ!」
「だったら気合い入れて探さなきゃね!ヒナタの誕生日プレゼント!」
「オウッ!」
「じゃ、行ってらっしゃい♪」

お目当てのお店は目の前だ。

「エッ…一緒に入ってくんな…い…の…?」
「アラ?!あたしが選んじゃって、あたしが渡しに付いてっちゃって、そのままデートまでご一緒しちゃっていいのかしらぁあああ?」
「い、いやっ、それはっ、困っ、いやっ、あっ!?」
「それじゃ、頑張んなさい!」

クルリ。踵を返して手を振ってやった。

「早くしないと間に合わないわよ〜?」

慌てて駆け込んで行く気配を背中で受け取り、クスッと笑う。

「あ〜あ!まさかナルトに先を越されるなんて夢にも思ってなかったなぁ〜」

空を見上げながら組んだ手を上げて伸びをする。

どんよりと曇る空は厚い雲に覆われていて、だけどこの向こうではちゃんと太陽は輝いている。
そして…
皆を照らす太陽のようなアイツの心にはもうアイツのためだけの小さな太陽が居て、これからもずっとアイツを暖めていくのだ。

「良かった…ホントに良かった…」

やがて見られるであろう二人の幸せそうに寄り添いあう笑顔を思い描き、サクラはキリリと前を見据えて歩き出した。

『あたしだって!負けないんだから!』

弾む気持ちを足取りに込めて踏み出しながら…






おしまい。



2015.12.27
Next to you is one of my favorite places to be.
Happy birthday to you!


top