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これからもずっと





「もう少しお茶飲むか?」

と、ナルトがポットを持って立ち上がった瞬間だった。

フッ…

突然、部屋の灯りが消えて真っ暗になってしまった。

「へっ?!」
「?!」

突然のことに固まることしばし。

「電球が切れちったのかな…?ごめんな、ヒナタ」
「うううん、私は平気だよ…ナルトくんこそ、大丈夫?」
「おう!…替えの…あったかな…」

ポットを置いて暗闇の中ナルトが棚をゴソゴソしているのをぼんやり見ていたヒナタは、部屋が静まり返っていることに気付いて、ふと窓の外を見て小さく叫んだ。

「停電してるみたいだよ、ナルトくんっ!」
「ええ?!うっそー!?!」

ナルトもすぐさま駆け寄り、二人で並んで外を眺める。
確かに、町中が一斉に眠りに入ったみたいに真っ暗になっている。
だがどこの家からも戸惑うようなざわめきが漏れていることが、まだ寝支度には早い時間であることを物語っている。

今日はヒナタの誕生日。年末も間近に迫ったと急き立てるように、ずん、と気温も下がった夕刻。
ナルトの部屋で暖かな夕食を一緒にとり、バースデーケーキも食べ終えた直後の出来事。

「やっべー…」

ナルトが呟いた理由というのは。

「ストーブとかなくて…悪りィな…」

ヒーターの止まった部屋は、容赦なくどんどん冷えていく。
慌てて外套を着込んでも追いつかず、ナルトはベッドから毛布や掛け布団をひっぺがしてきてヒナタに渡し、二人で床にしゃがんでそれぞれにくるまった。

初めて一緒に過ごすヒナタの誕生日だってのに…なんてことだろう…。ナルトはがっかりして髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。

年の瀬だからとオシャレなディナーの予約も出来ず、悩みに悩んだ挙げ句直前まで任務任務の毎日で、結局プレゼントも用意出来なかった。
「二人で暖かい夕食を」というヒナタの提案を受け入れたはいいが、それも結局はナルトの部屋での鍋。
ケーキだけはとびきり可愛いのを確保出来たけれど、

たったそれだけ。

せめて…せめて…ほんのりロマンチックな気分にくらいにはなって…ヒナタの可愛い笑顔を見て…ぎゅっとして…

初キスくらいは…したかったのに…

『そもそもが段取りもへったくれもねェし…なァ…』

停電しなかったところで大した締めが用意されていたわけでもない。
改めて考えてみれば。

それでも…

『アクシデントで終わりだなんて…あんまり情け無さすぎるってばよ…』

ナルトは泣きたい気持ちになって、抱えた膝の上に顎を乗せた。

忍だから、暗闇なんて本当はどうってことはない。

…言ってしまえば寒さだとて、里の気温くらいならこれも耐えられないわけではない。

でも…でも!

付き合いはじめて間もないカップルの、まだ数回目のイベントとしては…あまりに…あまりに…

「ナルトくん…?」

うつ向いて膝に顔を埋めてしまったナルトに、ヒナタが心配そうに声をかけた。
ナルトはやっと目がのぞくだけ顔をあげ、ヒナタを見てニカッと笑った。
それから、

「ごめんな…」

くぐもった小声でヒナタに詫びる。

「せっかくの…誕生日なのに…オレってば…」

続きが言葉に出来ない。
門限厳守のおうちデートだけど、ヒナタは可愛い格好をしてきてくれた。とっても嬉しかったのに、こんなことになるのなら…と後悔させてたら…どうしよう…。

頭からすっぽりと毛布を被ったヒナタは、不思議そうな顔をして首をかしげてナルトを見ていたが、

「停電はナルトくんのせいじゃないじゃない」

そう言うと、ふわん…と微笑んだ。

「それに…」

毛布でくるんだ手を口元にあててふふふ、と笑い、

「なんか楽しい…♪こういうの…♪」

とはしゃぐように身体を揺すった。
ヒナタの気遣いと無邪気なしぐさに、ナルトも心からの笑顔になる。
はふ…はふ…と吐く息が白くなるのを楽しんでいたヒナタが、くるりとナルトの方を見ると、

「ね…蝋燭つけようよ、ナルトくん」

また首をかしげて笑った。

頭から被った毛布を、フードを脱ぐように首の後ろへはねあげると、ヒナタはちょこちょことテーブルに近寄り、お茶の入ったカップを両手で持ってこくん、とひとくち飲み、

「ん。お茶もまだほのかにはあったかいよ?」

と、またふわんと笑った。
ナルトもヒナタの真似をしてテーブルににじりよると、やはり両手でカップを持ち、

「あ、ほんとだ」

ひとくち飲んでヒナタに笑いかけた。

蝋燭についたクリームをティッシュで拭うと、ヒナタはそれらをケーキの箱にかかっていたリボンで束ね、束ねた部分を芯にして蝋燭の束をねじり、テーブルに立てて置いた。

「すげー、アッタマいーなー!ヒナタ!」

マッチをすって灯をともしたヒナタが照れて首をすくめる。

少し開いた小さな輪の先に灯る蝋燭の炎が、まるで小さな王冠のようだ。

それぞれ布団にくるまって。並んで蝋燭の灯りを見ているなんて。

『不思議な誕生日になっちまったよなぁ…』

やはりヒナタに済まなく思う。
そっと横を見ると、ほんの少しだけ指先を出したヒナタはやはり頭から毛布を被って、広げた指先を合わせて調子をとっているのか、小さな小さな声で歌っているらしい。

「んな頭から被って……もしかして寒い?」

笑おうとして、ナルトはふと真顔になって聞いてみた。
びく、と身体を揺らしたヒナタはまばたきをしてからゆっくりとナルトを見て、

「くるまってるの…好きなの…」

首をかしげて笑う。

やせ我慢させて…と済まなく思うが、あいにくここは基本的に暑がりのナルトの家だから、これ以上の毛布類はない。

「…んと…」

ナルトはおそるおそる手を伸ばして…ヒナタを抱き寄せた。

「ま…ちっとは…あったけェかな…なーんて…」

もこもこしているのでたいして近寄ってもいないのだが、意識的に距離を詰めたということがお互い面映ゆい。

「ナルトくんの手…あったかい…」

肩に置かれたナルトの手に、ヒナタが遠慮がちに触れた。手足は冷えやすいものだと知ってはいても、ヒナタの指先の冷たさに、ナルトは顔を歪ませた。

ぱさっ

羽織っていた布団を一度脱ぐと、

ぐい。

毛布ごとヒナタを抱き寄せてまた布団を被った。
わずかに覗かせていた指先からたどり、ヒナタの両手を自分の両手でしっかりと包み込む。

「ナルトくん…お布団、届いてる?ちゃんと被ってる?」
「ん…」

照れくさいから顔も見ずにぶっきらぼうに答えただけ。心配で眉をひそめたヒナタはくるまっていた毛布を解いて、ナルトに入るよう示した。
ヒナタに密着する…と、ナルトは躊躇したが、毛布の中は驚くほど暖まっていなかった。

外套の上からヒナタをしっかりと抱き締める。それから丁寧に毛布を被り、最後に布団をしっかり被った。

「ナルトくん…あったかぁい…」

ほわぁ…とヒナタが漏らした。ナルトの体がわずかに揺れる。

「オレ…体温…高けェから…さ…」

声がかすれてしまう。

『あーっ、もう!ナルトったら、暑苦しい!それに汗臭ーい!』

かつて初恋の少女にそう言われたことを思い出したのだ。あのときはなんとも思わなかったし、それどころか得意そうに、エヘヘ、と笑ってさえいたのに。
今この腕の中にいる彼女に、けしてそんなことを言いはしない子だとわかっているのに、そんな風に思われたらどうしよう…なんて思ってしまう。

「そうなんだぁ…冬はいいねぇ…ナルトくん…」

ヒナタの声がふわふわしている。少しずつでも暖まっているのだろうか。それでも、

「私、冷たいでしょ…?ごめんね、ナルトくん…」

済まなさそうにナルトに言う。

「ちっとも」

ナルトは、両腕にぎゅう…と力を籠めた。

「ヒナタはさ…夏、いいかもな…オレ暑がりだから…夏はよろしく。なーんて」

ニシシ!と。

やっと笑えた。

びっくりしたような顔をしてヒナタがこちらを見ている。
なんかマズイことを言っただろうか…。

「な、夏…?」
「うん…夏」

ヒナタがおどおどと視線をおとした。

「な、夏まで…えっと…い、一緒に…いても…いいの…かな…?」

なんて心配をしているのだろう!
ナルトはぎゅうぅ…と力一杯ヒナタを抱き締めた。

「アッタリマエだろ!」

冷たくなったヒナタの髪に頬を寄せる。

「春も夏も秋も、今度の冬も、ずっとずーっと一緒だってばよ!ヒナタ!」
「ナルトくん…」

涙声。

「…泣いてんのかよ…ヒナタ…」

顔をのぞきこんだ。

ぽろぽろとこぼれる涙の粒が、ああ…真珠みてェって聞くけれど、なるほどなァ…なんて見とれてしまう。

「来年は!来年の誕生日はもっとかっこよくキメてやるからな!楽しみにしとけってばよ♪」

鼻先をくっつけて笑った。

「ナルトくん…」

ヒナタが笑う。暗闇に灯る蝋燭の灯りのように、あったかい微笑み。
この笑顔を、ずっとずっと見ていたい。ずっとずっと向けていて欲しい。

ナルトはそぅっと…そぅっと唇をヒナタの唇に寄せた。

「ハッピーバースデー…ヒナタ…」

ほんの少しだけ重ねて、またそっと離れる。
とても近いから、声は囁くよりも小さくていい。

「これからも…ずっと一緒に居ような…」
「うん!…ありがとう…ナルトくん…」

ヒナタの笑顔が見たかったけど、それ以上に彼女を暖めたくて。
ナルトはヒナタをぎゅう…と抱き締めた…







    Fin。