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- ナノ -


さっき持って行ったとき花がたまってたよな…そう思いナルトはゆっくり時間をあけて花を持っていってみると、さっき置いてきた花が三分の一ほども残ってしまっている。そこへ今自分が手にしている分。

「うわ…ごめん、ヒナタ…」

申し訳なさそうにそっと置いてみた。その声にやっと顔をあげたヒナタがふっと笑い、

「大丈夫」

と言う。

『また。大丈夫じゃねェのに、大丈夫って言う…』

ナルトが眉をひそめるのに、ヒナタはますます笑う。ヒナタ流の気遣いだよな…ナルトは根負けして笑ってしまう。

「キレイなもんだなあ〜」

ヒナタの膝の上に広がった、小さな花の点描画に思わず見とれる。ほんわりとした花の点々が無数にひろがり、うねりかうずまきか、何かの模様のようにも見える。

「一応色別に置いているつもりなんだけど…」

はにかむヒナタ。作業の細やかさを思うと、ナルトは目まいがする。やっぱりヒナタってばすげェ…
ヒナタは小さく伸びをすると、

「ナルトくん、疲れたでしょ、休憩して…。その間に私作業を進めてしまうね」

そういって小さな手提げから水筒と蒸しパンを取り出してナルトにすすめた。休まなきゃなんないのはヒナタのほうだってばよ…そう思うが、ついさきほど根負けした身では言いだせない。すすめられるがまま蒸しパンを受け取り、ちぎって口に運ぶ。確かに、作業途中のところ一度閉じてはまた開けるのは困難だし、だからといってこのまま休憩するより、早く一面埋めてしまってその分は閉じてしまって新しいプレス機と交換したほうがいいには決まっているが、自分だけ休憩するのはどうも気が引ける…。
とっても美味しい蒸しパンなのに、ぐずぐずちびちびと食べていたナルトは、そうだ!と、

「はい!」

蒸しパンを小さくちぎってヒナタの口の前に差し出した。手が使えないんだし動けないんだから、こうやって持ってってやりゃヒナタもたべれるじゃん!
それなのに、びっくりしてそれを眺めたまま動かないヒナタに、

「ん?でかすぎたのか?」

さらに割って小さくして、もう一度差し出す。

「こんくらいならひと口でいけるだろ?」

笑いかけるがヒナタは食べようとしない。

「ナ…ナルトくん…」
「遠慮すんなよ、ほら」

もう一度ぐっと差し出す。恥ずかしがって一向に口を開けようとしないヒナタに、ナルトは

「はい、口あけてー」

と唇にちょんと押し付けた。観念してようやくヒナタが開いた口にそのまま押し込む。恥ずかしがって真っ赤になって慌てるヒナタを見て笑ってしまう。

「ヒナタ、動けねェんだからしょうがねェだろー」

おおげさにやれやれ、といった様子をしてみせてからまたちぎり、

「はい!」

と差し出す。
ぎゅううっと目をつぶりながらおずおずと口を開いたのでまた押し込むと、こんどは押し込みすぎたのか、ヒナタの唇がナルトの指に触れてしまった。
2人で同時にびくん!とする。
ヒナタは目を見開いて硬直してしまい、ナルトは唇を引き結んでしまう。

「…はい」

声が低く小さくなってしまうが、ナルトは3回目の蒸しパンを差し出した。泣きだしそうな顔になりながらためらいがちに開いたヒナタの口へ、ナルトは今度はわざと指を押し込んでみた。

「!!!」

ほんの先っぽだが一瞬でもナルトの指をくわえてしまったヒナタは完全にパニックになってしまった。お、落ちつくってばよ…ごにょごにょと呟きながらナルトは自分が飲みかけていたお茶をヒナタへ渡す。

指先が…わずかにじんじんする…。

『なんか…すげェ…キモチよかったってば…よ…』

そっと自分の唇を噛んで目を細めてしまう。
指先にやわらかなやさしい圧力がまだかかっているようで、そこが熱をもったようにうずく。そこから発信されたものを受信したかのように胸の奥もうずく。

『なんなんだ?この感覚』

水筒はストロー式のやつで、さっき自分がくわえていたはずのものを同じようにくわえている、違う唇から、目が離せない。
うすい桃色のそれは見るからにやわらかそうで、事実やわらかくて、飲んでる間水筒を持ってやっている手が震えてしまう。
ヒナタはと言えば、ぎゅうぅっと目をつぶったまま、むーっむーっと唸り、ストローはくわえているだけできっと吸い込むことも忘れていて、飲んでいないことに気付いていないかもしれない。

「…ヒナタ?ちゃんと飲んでるか?」

ナルトが水筒を揺らして促す。頬の赤みがまだおさまらないが、平静を装って何事もなかった顔を必死に取り繕う。

「ふっ?!は、はひっ…!」

びくん!とすくみあがったヒナタはやっと我にかえる。

『やだ…か、過剰反応すぎた…よね?…は、恥ずかしい…』

うつむきながらおとなしくお茶を飲み、

「あ、ありがと…」

ようやく離した唇を、ナルトがじっと見詰めていることには気付かない。
ストローを水筒にしまったナルトは、蒸しパンの残りを入っていた紙袋に突っ込んで端をくるくると巻き込んでしまいこむと、シートの隅っこに頭を乗せてごろりと寝転んだ。

「風が気持ちいーし、ちょっと寝よっかな」

目をつぶる。
ヒナタはほっとしたように見下ろすと、

「う、うん、休んでて」

やわらかく微笑みながら歌うようにやさしく声をかけた。


052日目 弐


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