忘れ物はないかな?ヒナタは人差し指をたててもう一度荷物を確認した。大きめの布の肩掛けバッグにはスケッチブックほどの大きさの押し花用のブック型のプレス機をふたつと、ピクニックシートを入れた。小さめの手提げには、お茶を入れた水筒と、おやつの蒸しパンが入っている。
うん!大丈夫!
荷物を担ぐと家を出て原っぱに向かった。今日は風もそんなにないし、適度に雲もあり、あまり暑くはならなさそうだ。
それでも一応と、昨日とは違い木陰にシートを広げ場所を作った。今日はヒナタは座りっぱなしだからそんなに日差しがきつくないとはいえ陰にいたほうがいいし、ナルトが休憩するときもそのほうがいいだろう。
プレス機を膝に乗せあけてみる。手に入れてからずっと閉じっぱなしだったので、夕べはじめてあけてみたときは固くて難儀したが、今日は小気味よい音をたてて簡単にあいた。
どのくらい埋められそうかなぁ…
真っ白な画用紙に絵を描き始めようするときの気持ちになる。
怖いような、ワクワクするような…
夕べ遅くまで摘んできた花の始末や今日の準備をしていたせいで寝不足気味のヒナタは、ぽわんとしたついでにふぅっと眠気に襲われそうになって慌ててしっかり目を開けた。が、
「なんだよ、もう疲れてんのか?」
ナルトが笑いながらやってきてそばに座った。
「み…見てた…?」
「うん、見てた」
なんて間の悪い…うつむいてしょんぼりしてしまう。
「それが昨日言ってた道具?」
「う、うん…」
「なんかスケッチブックみてェだな」
「四隅がね、ねじになってい…こう…締めて圧縮するの」
ヒナタが説明しながらひとつねじを締めるのを見てナルトが関心する。
「よく出来てんなァ。便利だな!」
「そ、そうだね」
興味深そうにヒナタの膝の上のプレス機を見ようとするあまり身を乗り出してしまっていることにナルトは気づいていないのだが、その横顔が自分の胸のすぐ前にあってヒナタはわずかに硬直してしまう。
『ち…近いよ…ナルトくん…!』
きゅううっと目をつぶってしまっているヒナタにナルトはようやく気付き、
「ヒナタ?」
そのままそこからヒナタを見上げる。
「はっ、はいぃ!」
びっくりして変な返事をしてしまい、また笑われてしまう。
「夕べあんま寝てないんだろ、無理しちゃダメだぜ、ヒナタ」
「だ、大丈夫!大丈夫だから…」
大丈夫そうじゃねェけどなァ…ナルトが苦笑するのでまた首をすくめてしまう。
「それじゃさっさと始めて、んでまた早めに帰ろうか!じゃあ摘んでくるってばよ!」
さっと立ち上がり駈け出して行ったので、ヒナタはようやくひとつ息をついた。やっぱりまだあんまり近くにいられると緊張してしまう…。
「んじゃまずこれ」
また急に声がしてびっくりしてしまう。が、ナルトは構わず、10数本ほどの花を置いて去っていく。
ぷち…ぷち…ぷち…
指先で丁寧に花を摘み、注意深く形よく並べていく。夕べよりはだいぶ要領がつかめているのであっという間に並べ終わったが、ちょうどそのころまたナルトが戻ってきた。
「おっ、いいペース?こんな感じで摘んだらいいか?」
「う、うん、ありがとう、助かるよ」
「どーいたしまして!」
ニカッと嬉しそうに笑うとそのままの様子の足取りでまた花を摘みにいってしまう。本当に楽しんでくれてるみたいだ。よかった…。
嬉しそうなナルトの後姿を見て、ヒナタはほっとした。
そのままナルトはひっきりなしに往復してくれていたのだが、どうやら花が密集している場所を見つけたらしく、多めに摘んで持ってくるようになってきた。ヒナタも作業に集中していてペースもあがっているし、なかなかのコンビネーションといえた。
次はどの花摘もうかな…一応バランスを考えて摘んでいるつもりのナルトがあれこれ考えながらまた花摘みに向かう途中、ふと振り返ってヒナタを見た。
一心不乱に集中しているヒナタが、わずかに微笑んでいることに気付き、思わず足が止まってしまう。
花が好きだとは思っていたが、押し花をするも好きなんだな…その様子にナルトは自分が自然と微笑んでしまっていることに気付かない。でも、嬉しそうにしている人を見るのは嬉しいものなんだな。そんなことをふっと思う。
ヒナタは日頃からあまり自己主張をしない。どうやら嫌いなもの・ダメなものはすくないようなのだが、何が好きなのかもわからない。あわせてばっかじゃつまんなくねェ?以前そんなことを思ったこともあったのだが、
『ちゃんと好きなもんあんじゃん。ちゃんと楽しそうじゃん。よかった!』
よかった、よかった、そう唱えながら花を摘みに行く足取りが自然と軽くなっていることにも気付かない。ただただ、歌うように、よかった、よかった、と唱えつづけた。
042日目 壱
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