「ん?なんだ?どういうところ?」
だがナルトはまったく気にしていない。その様子にヒナタはほっとして、もう一度顔をあげると、
「できる限り形のいいお花を摘んで欲しいの…それで摘むときには花びらを折ったりちぎったりしないように気をつけて、それからなるべく長く茎を摘んで欲しいの…引っこ抜かないように…お、お願いしてもいいかな…?」
ふむふむ、と真面目な顔をして聞いていたナルトが、最後の指示について異を唱える。
「ちっこいんだからうっかり引き抜いちまいそうだけど」
「うん…でも、根が残っていたらね、来年また花が咲くから…」
うなずいたとき視線が下がったまま少しだけはにかんだように笑うヒナタの言葉に、ナルトはほんわりと感動した。花を摘んで何かをつくろうというのに、丁寧に摘めば来年も咲くという心配りをも忘れないとは…。
なんかやっぱりヒナタはすげェなァ…。かなわないってばよ…。
じんわりと和んだ空気が流れる。
「よぅし!んじゃあ、張り切っていっぱい摘むってばよー!」
ヒナタからは少し離れて花を探し始めた。けして大柄ではないがそれでも自分よりは体格のいいナルトが地面に這いつくばり、自分よりは随分太い指で小さな小さな花を摘んでいると思うと、ヒナタは頬がゆるむのを抑えられない。
なんてかわいいんだろう…ナルトくん…。
そしてやっぱり素敵だな。ゆるんだ頬が赤く染まるのも抑えられない。
『わ、私もがんばらなくっちゃ…』
そのまま、ぽやーっとナルトに見とれていた自分を慌てて叱咤し、ヒナタも花摘みを再開した。
できるだけたくさん、などと欲張ったことを言ってはみたが、水を張った水盤に生けたまま持ち帰ることを考えて今日は少し控え目でやめにしようか、ということになった。
「でもなんか要領がつかめてきたってばよ!」
肩を回しながらナルトが心底面白がっている様子で言う。無理な体勢で疲れただろうに、そんなことはひとことも言わない。
「ナルトくんはなんでもすぐに楽しんでしまえるんだね」
ヒナタが嬉しそうにほほ笑む。
「そういうとこ、ほんとにステキだなって…すごいなって思うの…」
はにかみながらもヒナタがほめてくれるので、ナルトは思わず照れてしまう。
「い、いやぁ、でもさ!こんなぱっと見たら草しか生えてねェようなとこに、こんなに花が咲いてるなんて知らなかったってばよ!今まで気づかずに随分ふんづけてきちまったんだろうなって思うとさ、なんか申し訳ねェよなあ!」
照れ隠しもあってちょっと大げさな言い方になる。
「で、でもこうして座ったらちょっとは見えるけど、立ったままだと見えないもの…気づかなかったぶんには仕方ないんじゃないのかな…」
慌ててフォローをしてくれることにさらに感激してしまう。
『ヒナタってば…ほんとに…やさしいよなァ…』
してあげてること以上の気遣いをしてくれる。やっぱりヒナタにはかなわねェな。ナルトはこっそり頭をかいた。
そんじゃあその代わりに!と、
「ヒナタ、これ重いだろ。俺が持って家までおくっていくってばよ」
「そ、そんな!悪いよ!ナルトくん」
「いいって、いいって!俺のほうが力持ちなんだからよ!」
揺らさないように用心しながら水盤を持ち上げ、ニカッと笑う。
「てことで、今日はもう帰ろうぜ」
「そ、そうだね…。今日はありがとう、ナルトくん」
ヒナタも観念して従うことにした。
ヒナタの家へ向かう道すがら、ふとナルトが
「そういや押し花ってどうやって作るんだ?」
と聞く。
「んーと…形を整えて紙に置いたら、それを挟んで平らにしてしばらく重しをするの」
「ええ!?んじゃ、ヒナタ、今日はこのあと家で作業すんのか?!」
「う、うん、そういうことになるね…」
「今から、この花全部?!?!」
「う、うん…」
水盤の大きさからいえば大した量には見えないが、何しろ花の大きさが違う。本数でいえばかなりの量だ。
「今日早く切り上げることにしてよかったな!あのまま続けてたらヒナタ寝れねェじゃんかよ!?」
うはー…と驚くナルトに、首をすくめてしまうヒナタ。このままだと大した手伝いになんねェなァ…ヒナタの負担が大きすぎるってばよ…。ナルトの呟きに、ヒナタはますます首をすくめる。
「俺が花を摘んで、それをヒナタがどんどん紙に並べて挟んでいければいいのにな」
「あっ!」
「うわ!どした!?ヒナタ??」
「ある…!私、そういう道具持ってました…!」
いつも押し花は自室でやるので使ったことがないのだが、野外で摘んだ花を挟んでそのまま押し花に出来るブック型のプレス機を持っていたことを思い出したのだ。自分で買ってみたものや人からもらったものもあったはず。
「私、明日はそれを持ってきます」
「おう!そんじゃ俺は花摘みに専念するぜ!どんどん作ろうな!」
ニシシ、と笑うナルトにつられてヒナタもにこぉっと笑う。
ナルトはもっともっと嬉しくなって、ちょうどヒナタの家の前についたのでそうっとヒナタに水盤を渡したあと、
「んじゃまた明日!おんなじとこで、な!!」
めいっぱい元気よく手を振ると、張り切って去って行った。
031日目 弐
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