「うーっ!さみ!さみさみさみさみさみーっ!」
靴を脱ぎ捨てるや、風呂場に向かい急いでお湯を溜める。一人暮らしの浴槽はそう大きくもないはずなのに、一向に溜まらないように思えて、ナルトは浴槽の脇で足踏みしながら寒い寒いと言い続けた。
銭湯の開いてる時間には帰りつきてェなァと思っていたのだが、案の定間に合わず。お腹も空いているので辛うじて間に合うはずの一楽にも行きたかったのだが、泥だらけのままカウンターに座るのは気がひけてまっすぐ帰宅してきたのだ。
「カップラーメンじゃ、あったまらねェけどなァ〜」
ほかほかに湯気をたてるあつあつのこってりラーメンを思い出せば、店まで飛んでいきたくてたまらなくなるが、我慢我慢。
お湯は半分も溜まっていないが待ちきれず、ナルトは着ていたものを全部脱いで脇の洗濯機に放り込み、スイッチを入れて浴槽に飛び込んだ。
「あ゛ーっ!!」
腰までしか浸かれていないが変な声が出る。よっぽど冷えていたらしい、一楽をやめにしてお風呂にしてやはり正解だったようだ。
ナルトは浴槽のふちに顎を乗せると、浴槽と洗濯機に注がれるやかましい水音を聞きながらぼーっとした。
下からじわじわとお湯に浸されていくのもなかなか気持ちいい。
気づくと水音はひとつだけになっていて、浴槽から溢れ続けるお湯でふちに乗せた顎まで暖まっている。
「おっと、やべェ」
蛇口をひねってお湯をとめると場はとたんに静まり返る。
「んーん、ちょっぴし眠っちまってたみてェだな」
今度は自分でざぶざぶと水音をたてながら、がしがしと顔を洗った。思ってるより疲れているらしい、さっさとあがってしまわないと。
詮を抜いてようやく溜まったはずのお湯を捨てながら浴槽から出、手早く…といえば聞こえがいいが、かなり乱雑に全身を洗う。
「もー、今日はメシはいーや…」
たぶんお湯が沸くのが待てないに違いない。水の出しっぱなしと違って火のかけっぱなしはかなり危険だ。
ナルトはふらふらとベッドに向かい、パジャマを着ようとして『ボタン…めんどくせェな…』、手近なTシャツを引っ付かんでもたもたと腕を通した。
明日…明日なんか用事あったっけ…
朦朧としてくる頭で必死に思いめぐらす。
そうだそうだ、ヒナタと約束があったってばよ…
『ヒナタと言えば…』
這いずるようにしてベッドに潜り込みぼんやりと思い出す。
『そういやヒナタはこないだ、なんで泣いたんだろう…』
ごろり、と横になるともう目を開けていられない。
とても綺麗な光景が見れて、その礼を言ったはずなのに、なぜ泣いたのか。
『わかんねェ…イマイチわかんねェ…』
綺麗な光景の続きのような、ヒナタの綺麗な泣いている姿。
『女の泣く理由なんて…たとえサクラちゃんだってわかんねェけどよ…』
サクラほども親しくないヒナタなら、余計わかるはずもない。
『ま、いいや。明日んなっても気になるなら、本人に聞きゃすむか…』
ナルトはひとつ寝返りをうつとそのまますぐに眠りに落ちた。
093日目 ナルト
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