すっかり冷えてしまった…早くお風呂に入って暖まらないと…ヒナタは小走りで帰宅したあと、そのままの勢いでお風呂場に向かった。
今日は休みのはずだったのだが、生憎の雨でシノの虫が思っていた以上に働きが鈍いということで、急遽呼ばれて探索の任務に加わっていたのだ。
「ふぅ…」
湯船に浸かってようやく身体と共に気持ちをほぐしてゆく。
幼児の探索だったため時間との勝負だった。予報は前々から雨だったのでそれを承知でシノを配したはずだったのだが、気温の低下が想像以上に激しすぎ、それ故に気を揉む任務であった。
「見つかって良かった…ほんとに良かった…」
子供が無事見つかったと伝えた時の母親の泣き顔が浮かぶ。
処置も早かったため幼児も数日の安静で回復するだろうとのことだった。
心配と安堵のない交ぜになった母親の顔は幼児には怒りを含んだものに見えたのだろう、別れ間際まで怯えた様子だったが、今ごろは思う存分抱き締められ充分に愛情を伝えてもらって安心して休んでいるに違いない。
ヒナタは湯船の中で膝を抱えながら、ぼんやりとその様子を想像してみた。
やがて、ふるふる、と首を振り、肩といわず顎まで湯に浸かる。
泣き顔と言えば…
『昨日の…あれは…やっぱり…』
我慢すべきだった。なんで泣いてしまったのだろうか。
昨日のナルトの顔を思い出すと、昨日と同じ気持ちになってしまって涙がじんわりと滲みだす。
あの時のナルトの表情に甘えてしまうのではなかった。
こうして持ち帰ってひとりで泣くべきだった。
『そうしたら…誰にも気兼ねしなくていい、私だけの宝物になったのに…』
いや、
あの時のナルトの表情はすでに宝物のひとつになっている。
この先もあのシーンをなぞるたび、幾度となく涙し、そして救われた気持ちを得るだろう。
しかし。
『ナルトくんにも知られたくなかった…かな…』
知られるべきではなかった…。
ヒナタは両手で湯をすくうと自分の顔をあらった。
湯に浸かっていない顔が思いのほか冷えている。
湯冷めしないようにしないと。
小さくつぶやく。
珍しく、この祭りまでは珍しく、いつもと違って思いがけず会話をしたね、それだけの関係…を保たなくては。
明日は何事もなかった顔をしていよう。それが無理ならもう会わない、そのくらいの覚悟をしよう。
ヒナタは身体を洗うべく湯船からあがった。
083日目 ヒナタ
prev - next
back