伍 * 抹茶ミルクあずき崩壊☆
運ばれてきた今年初めてのかき氷は、周りの客も喜ばせた。
眼に眩しい青葉よりも濃い緑色の抹茶へ、練乳と白玉の柔らかな白と艶やかな小豆餡とが冷たさと色のをやさしく中和しながらふんわりと降り積もっている様は、肌寒い日と汗ばむ日とを繰り返す今の時期にはまさにうってつけの食べ物だと思えた。
いのやキバと共に歓声をあげて飛びついたサクラは、ナルトが浮かない顔をしたままかき氷をつつき回すだけで一向に食べようとしないことに首を捻った。
「ゴメン。勝手に頼んじゃったけど、違う味のが良かった?」
「えっ?!あっ…いや……ん…まァ…」
ハッと顔はあげたが、またすぐうつ向いてごにょごにょ言いながらつつき回す手を止めようとしない。
「ね〜ね〜ね〜、それで、キバの心当たりって何なのよ〜」
きっちり半分食べ終えたところで、いのが匙でキバを指した。サクラも慌てて、聞き逃さじ!とばかりにいのに並んでキバの言葉を待つ。
その二人を待たせたままかき氷を食べ終えたキバは、ほどよくぬるくなったほうじ茶をすすりながら二人をそれぞれじろりと見ると、ようやく口を開いた。
「…毎年この時期によ、八班で藤の花見をすんだけどよ」
「…?ハイ?」
「花見?藤の?」
唐突すぎる話にぽかんとする二人をよそに、キバは湯飲みを置くと話を続けた。
「それが今年に限ってナシんなったって、急に連絡が入ったんだ」
くぅん…と鳴いた赤丸の首を撫でてやるキバはさっきと同じようにどこか拗ねているように見えて、よっぽど楽しみにしている行事なのだろうとサクラといのはこっそりと頷きあった。
「そりゃ…残念ねぇ〜」
「そっか、今がちょうど満開の頃よね。それはまた本当に急だったわね」
取り合えず二人はキバに同調した。キバは赤丸を撫でながら、「ヘッ!」と毒づくと、
「それがよ、シノには、んな連絡入ってねぇんだとよ!…それなのに、花見は中止だ」
「???」
「それっ…て?」
話が見えなくて、サクラはそのまま首を捻ってしまったが、いのが上手く先を促した。
ようやく顔をあげたキバはじろりと二人の顔を見ると、
「シノには中止の連絡はねぇ、だから予定通りの呼ばれたままだ。けど、俺は呼ばれねぇ。…つまり、藤の花見はすっけどそれは八班の花見じゃねぇって意味だろ?」
くそっ…とまた小さく毒づいた。
「ああ…なるほど…」
「そういうこと…になる…わよねぇ〜」
二人は今度は心からキバに同情した。
「あれ?…もしかして」
いのは人差し指を唇にあてて首を傾げた。
「花見の場所って、もしかして日向の敷地内なわけ?」
「ああ。すんげぇ見事な藤園がある」
キバはそっぽを向いてまた苦々しい顔になった。
「うっそ〜!敷地内に藤園?!そんなのあるの?さっすが〜!」
「えっ!ヒナタんちってそんなに広いの?!うわ!行きたーい!見てみたーい!」
「すげぇんだぞ、めちゃくちゃびっくりすんぞ、お前ら!」
羨ましがられたのが嬉しかったのかキバもやっと明るい声を出した。
「自分ちの敷地内に藤園かぁ…お嬢もここに極まれり…よねぇ…」
「すごいわぁ♪今がまさに盛りだもんね〜。藤しかない…どんな景色かしら〜♪」
しばしうっとりしていた二人だったが、サクラがふと、
「ねぇ。シノは呼ばれてるって、どうしてかしら?」
キバに聞いてみたのだが、
「藤の花って咲くと蜂がすごいのよ。だからむやみに顔を近づけると危ないの。ん?シノが呼ばれたって…虫除け?虫対策?安全に花見をするために?」
「…じゃ、ねぇのか?」
代わりに答えたいのの言葉に、再びキバがむくれた。
「ってことは…それって…お…客…さま…する…から?」
「お客って…まさか…お見合い?!?」
「やだ!それよ!それよーっ!」
「そうなの?!満開の藤の花のとこでお見合い?!キャー♪」
きゃあきゃあ♪とはしゃぐ二人にキバが益々ぶすくれた。
「いやーん!相手は誰なのかしらーっ!」
「木の葉屈指の名門・日向のお嬢のお相手に相応しいっていえば〜?」
ガタン!!
それまで気配を絶っていたのか?というほど大人しくしていたナルトが急に立ち上がったので、口をつけていなかったかき氷が、ぐしゃり…とひしゃげて縁台の緋毛氈の上にも飛び散った。
「いつだ?!ソレ、いつの予定だったんだってばよ!キバ!」
キバの胸ぐらを掴む。
「は?」
「花見の予定だよ!」
「ああ、明後日だよ」
「まさか…」
キバから手を離したナルトがまた呆然と立ち尽くして叫んだ。
「我愛羅……見合いの相手って、我愛羅なのかよ!!」
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