廿参 * 重なりあう
「ナ…ルトく…ん…?」
微笑んだナルトの顔が泣いているように見えて、ヒナタは首をかしげた。
「ヘヘヘ!思ったとーり!似合うな!」
しかし見間違いだったのか、ナルトはいつもの眼を細めたニシシシシ!という笑顔を爆発させた。
戸惑うようにナルトを見上げておどおどとまつげを震わせるヒナタを、頬を染めて見下ろすナルト。
遠巻きにするように文字通り身を引いた皆が口々に呟く。
「なにアレ…ギザねー!」
「というより、ベタよね〜、花を簪に…だって!」
「…ヘッ!よくやるぜ…」
「…」
「ほう…」
呆れ気味の同期とは違う声を出した我愛羅に皆が注目した。
「古来…男性が女性に簪を贈るというのは…求婚を意味すると聞いたが…そうなのか…?ナルト」
「きゅ?!きゅ、きゅーこんんんん?!?!」
「!!!!!!!」
「ん…?求愛…だったか…?」
「んがががが!!!」
思いがけなさすぎる我愛羅の言葉に、ナルトとヒナタは飛び上がり、サクラたちは色めきたった。
「なんだよ!マジかよっ!」
「いやん!どっち?!どっちなのよ?!ナルトーっ♪」
「答えなさいよ〜っ♪」
「この際だから言っちまえーっ!スパーッとよーっ♪」
「そ〜よ!そ〜よ〜♪」
「教えてよーっ♪」
「…それはいい…何故なら…」
「んなっ?!んがっ!!うが…!」
三度顔を真っ赤にさせたナルトは、上手く言葉が出ず呻きながらあたふたと変顔の百面相をしていたが、
やいやいと煽る皆の声にぎゅっとうずくまるようにうつ向いてしまったヒナタを見てしまい、自分も固まってしまった。
『早く!早く!とっとと言っちまえ!』
『そーよ!ヒナタが耐えられなくなって自虐的なこと言う前に!』
『決めちゃいなさいよ!男でしょ!!!』
『…』
耐えに耐えた言葉をここぞとばかりにぶちかましてくる小声のアドバイスも聞こえているのかどうか。
ヒナタと正面から向かい合いはしたが、どうすべきかわからず瞬きを繰り返すばかり。
「ナルト…」
ヒナタが何か言おうとして肩を揺らすより早く、気配を察知して我愛羅が声をかけた。
「何故言わないのか…ずっと疑問だった…。言いたくないのか…隠していたいのか…一体どちらなんだろうと…」
固く組んだ両手を当てていたヒナタの唇がわずかに開き、細かく震えた。我愛羅の言葉に、ナルトはほんの少し泣きそうな困ったような顔になる。
「…そうではなかったようだな」
我愛羅が微笑んだ。
驚いて見開いたナルトの眼の奥がわずかに潤む。
「やっと自覚した…違うか?」
「いやっ…あのっ…ソレはっ…」
恥じらいに頬を、眼の奥の涙に鼻の頭を赤く染めて狼狽えるナルトの背中を皆が後押しする。
「…なるほどネ…」
「…物知らずのナルトらしい…何故なら…」
「…物知らずはさすがに言い過ぎなんじゃな〜い?」
「別になんでもいーだろ、この際よーっ」
わぁわぁとやり取りを始めた皆越しに、
「…ヒナタ?」
サクラがそっと声をかけた。
ぴくり…と身じろぎをし、泣いていないのが不思議なくらい悲しい顔をしてヒナタが顔をあげた。固く握りすぎた指がまるで蝋のように白い。
サクラはヒナタを怖がらせないようにというようにそっと、
「今から、ナルトが、言うから。ちゃんと最後まで…聞いたげて?」
声をかけた。
唇をわななかせたヒナタがわずかに首を振る。それをダメだと言うようにぎゅっと見据え、
「ナルトの言葉…聞いたげて」
辛抱強くサクラが言った。そして、やっとのことでぎりぎり耐えているヒナタにまだ声をかけようとしないナルトをギッ!と睨む。
「アンタ、なにまたとないチャンス逃そうとしてんのよ?!」
「ゃ…ぁ…で…でも…」
「自分の都合と、ヒナタの気持ちとどっちが大事なの?!うずまきナルト!!」
サクラの喝に皆も振り返った。
左手を腰にあて右手を握り込んでいるサクラの側で、いのたちも頷く。
「…届けろよ」
「そうよ…届いていないわよ…」
「…何故ならば」
シノが皆の気持ちを継ぐ。
「まだ言葉にして伝えていないからだ…ナルト。眼を見ればわかるだなどど言われても…それでも女性は…否、ヒナタには…」
「言うべきだ、ナルト」
そう言って我愛羅が半歩進み出た。
「…嬉しいからだ、その言葉は…。何度…誰に言われても…ましてや…大切な相手からならば…」
ナルトの顔がはっきりと歪んだ。
「一生の…宝物になる」
「ヒナタぁ!!!!」
我愛羅のほうを向いたまま、ナルトは天を仰いで叫んだ。
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