廿 * 実録?!砂の三姉弟
ヒナタのお点前も気になるが、にまにまと笑うナルトが撒き散らし始めた変な空気に、他の四人がもじもじし始めた。
『ナニよ?!アレ!』
『知らないわよ!それよりなんでナルトが妙に誇らしげなのよ?!』
『わっけわっかんねーよ!』
『あれは…ああいう顔…ナルトではないが見たことがある…』
我愛羅の言葉に、三人が身を乗り出す。
『テマリが…いやカンクロウだったか…その…』
言葉を切って我愛羅が照れたようにほんの少しうつ向いた。そんな表情を見たことがない三人は密かに驚く。
『俺の演説がうまくいって…拍手喝采だったときだとかに…二人がよくああいう顔をするような気がする』
そう言って恥ずかしげに目を閉じた。三人の頬が緩む。
しかし…
『テマリさんやカンクロウさんが我愛羅さんを誇らしく思うのはわかるけど…』
『なぁんでナルトがヒナタのことで得意げなわけ?!』
『マジわけわかんねーよ!』
こそこそ話す三人の会話の内容を聞いて、ナルトの様子をじっと見ていた我愛羅が、
「なるほど…」
と声を漏らした。三人が一斉に我愛羅を見たが、そこへ
「どうぞ…」
と、一番端の我愛羅の前に茶碗が置かれた。
砂色の茶碗の中に細かな泡で少しだけ色を薄くした抹茶の緑が映えて美しい。
我愛羅はまずその色彩に見惚れた。
両手で茶碗を持ち、さほど熱くないことに驚く。
我愛羅の表情にヒナタがにっこりと笑った。
それを見てナルトもさらにへにゃり…と顔面を崩壊させたが、
ヒナタが微笑んだのに気付き顔をあげた我愛羅と、眼があったヒナタとが、「どうぞ」「ありがとう」とアイコンタクトを交わしたのを見るや、唇を尖らせてぶすくれた。
「…美味い」
「お、お粗末さまです」
我愛羅の一言にヒナタが恐縮する。
「とても苦いのだが、甘味もあって、とにかく薫りがいいのだな。苦味も、ほどよくたなびきながらさらりと去っていく。抹茶とは煎茶とはまるで違う飲み物なのだな…感服した」
「そ、そんな…誉めすぎです…」
次を点てはじめていたヒナタが恥じらって身をすくませた。
「ん?抹茶とは、点てる者によって味が変わるものなのか?」
菓子を頬張るサクラといのに我愛羅が聞いた。
「はい。下手な人だとまずきちんと溶けず粉っぽいままですし、泡も細かく均一になるようにするには修練が必要です」
「そんなに難しいのか?」
「そうなんですよ、混ぜればいいというわけでもないんです。コツが要ります」
「そうなのか…」
飲み終えた茶碗の底をしげしげと眺めながら我愛羅が感心した。
「飲んだことがないなんておっしゃって、作法の心得はおありなんですね」
次のサクラが頂いている間、いのが我愛羅に話しかけた。
「敬語はいい。同年なのだし、ここは公式の場でもないしな」
我愛羅が微笑み、いのがうっとりと見とれた。
「お点前用の作法かどうかは知らん。どこへ行っても失礼のないように…と、テマリから仕込まれた」
「テマリさんが…」
茶碗を返したサクラが思わず呟いた。姉御肌のテマリは物言いと同じく物腰も豪快そうだが、とサクラだけではない皆が思ったのが伝わったのだろう、我愛羅がふっと笑った。
「一応な、テマリは先代風影の第一子で女児だからな。武道のみならず作法全般も心得があるぞ。ただし…」
「ただし?!」
茶碗を手にしたいのも皆と一緒に聞き返す。
「歌舞音曲は全滅だったらしい」
我愛羅の言葉に皆が爆笑した。
「かぶおんぎょく?!?!」
首をすくめたナルトの問いに、くすくす笑いながらヒナタが教えてくれた。
「舞いとか歌とかの芸能全般…ということ…かな?」
「おおー、確かに!テマリのねーちゃんが歌ったり舞ったりするとこは想像がつかねーな!」
可愛らしく笑うヒナタにナルトは益々ご機嫌なようだ。
「じゃあ歌舞音曲担当は?ひょっとして?」
キバの問いに、
「もちろん、カンクロウだ」
我愛羅が澄まして答え、全員でまた大爆笑となった。
「上手そうよね〜カンクロウさん」
「つーか、自分で楽器つくっちまいそうだよな!」
「ああ、なにやらヘンテコなものを作ってよくテマリに怒られているようだ」
「ヘンテコなものって?」
「…テマリでも鳴らせる琴、だとか…」
何度目かの爆笑を聞きながら、衝立の向こうでヒアシも顔を綻ばせていた。
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