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拾玖 * 初めてのお茶席

菓子を乗せた盆を手に女性二人を連れて衝立から戻ってきたヒナタに、我愛羅が声をかけた。

「煎茶ではなく、抹茶を点ててもらえたら嬉しいのだが」
「えっ?」

座って盆に乗せてきた菓子を配ろうとしていたヒナタが怯んだ。

「砂隠れには抹茶は流通していないのだ。たまさか手に入ってもいれ方を知る者も居ないし、木の葉には菓子にも使われるほど豊富だと聞いて一度飲んでみたいと思っていたのだ。頼めないか?」
「それは…その…」
「『お点前』というのも見てみたい。出来ればヒナタで…無理だろうか?」

ヒナタはまごまごとヒアシの様子を見た。

「未熟な点前だが…よろしいか?」

ヒアシはそういうと、衝立へと去りかけていた女性に指示をした。
衝立の一部があき、小さなかまどが据えられているのが見えて、サクラといのが思わず声をあげた。
鉄瓶がかけられていて、もうしゅんしゅんと湯気があがっている。

「ヒナタのお点前が見れるの?」
「すごーい!ステキ〜♪」

先程までの暗く重い空気が一気に華やぎ、ヒナタを除く日向の人々がほっと和んだ。

「お手前?」
「お点前!お抹茶入れる作法のことだよ!」

知んねーのかよ?と言わんばかりのキバの視線に、ナルトは首を竦めて頭をかいた。

「で、では…不調法ではございますが…」

かまどの側に座ったヒナタが丁寧に両手をついて挨拶をした。てんでに座っていた皆も取り合えずその場で手をついて挨拶を返すと、整列しようとそそくさと腰をあげる。

「どうぞ…お楽に…」

日向の女性が微笑みながら声をかけた。

「はい…略式ですから…そうかしこまらずに…お願いします」

取り出した袱紗を帯に挟みながらヒナタも声をかける。

「ヒアシどのは…?」

我愛羅が聞いたが、

「私は結構」

ヒアシは微笑みながら断った。

「私が居ては『お楽に』になるまい」

そう言ってまた喉の奥で笑ったので、ナルトたちもこっそり顔を見合わせて胸を撫で下ろした。

なにしろ、さっきから皆とは離れて座っているにも関わらず、そこからものすごい威圧感を放っているのだ。

『気配はめちゃくちゃうすいのに、圧は半端ねェって、すげェよな?!』

ナルトの囁きにキバも頷く。

「ヒナタの点前にあれこれ言いたくなる前に、私はひとまず退散するとしよう」

そういうとヒアシは音もなく立ち上がり、滑るように移動して衝立の向こうへと消えていった。

『足音しねェっつーか、ありゃ歩いてんのかよ?』
『だぁろ?ガキの頃はほんっといつ来たかわかんなくってよー』
『ガキの頃?』
『ああ。ガキの頃、ヒナタんとこに遊びに来たりした時とかな』

キバにとっては別になんてことのないただの昔ばなしなのだが何が引っ掛かったのか、たちまちナルトが険しい顔をした。

「ホラ、アンタたち!こしょこしょ話してないでヒナタのお点前見なさいよ!」
「そうよ、滅多に見れないわよ〜♪しかも振り袖姿だなんて♪」

サクラといのに促されて、キバは内心ほっとした。我愛羅とのやり取りを、今度は自分がしなければならないのか…と一瞬うんざりしたのだ。

細かな手順ひとつひとつを、丁寧に、しかし淀みなくこなすヒナタの手の動きは、まるで舞の手を見ているようだ…といのがため息をつく。
「マイノテ」がなんなのかまたしてもわからないナルトはまた首を捻るが、いつも自信なげなヒナタがゆったりとくつろいでいるように見えて、ナルトは嬉しくなった。
上手にやろうとかそういった気負いがなく、

『ただただ、これが好きなんだろうな。楽しいんだろうな。良かった…』

そう思って顔を綻ばせた。

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