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拾肆 * 噛み合わぬ想い

「選べるわけねーだろーッ!!」

ナルトは必死にがなりたてた。先程までとは違う意味で顔を真っ赤にしている。

「我愛羅は我愛羅!ヒナタはヒナタ!選ぶとかそーゆーんじゃねェだろがってばよ!」

ふぅふぅと息を吐きながら顎を引いてナルトは辺りをようやく見た。
納得いかないという表情の我愛羅をはったと見たが、後ろに半ば隠れているヒナタが涙ぐんでいるのを見てしまい、びくり!と身体を震わせた。

「ぁ……」

ザァ……

風が渡り、藤の花房が揺れた。
はた…はた…と花弁がひとつふたつ緋毛氈に落ちる。

僅かに膝を崩して横座りになっていたヒナタは、ナルトの視線に気がついて、つ、と眼をそらした。泣いているように見えたがそうではなく、少し悲しげに眉を寄せほんの僅かに開いた唇を震わせて何かを堪えているようだった。
胸が締め付けられるようなその様子に、ナルトは身動きが取れなくなって固まった。

自分に向きながら僅かに視線をそらしたままのナルトを、我愛羅は黙って見詰めていた。

茂みからは我愛羅とヒナタはもちろん、ナルトの表情もよく見えず、三人は成り行きを見守るしかなかった。
…サクラだけはイキイキと何やらぶつぶつ呟いていたが。

「…では、質問を変えよう」

我愛羅が静かに口を開いたが、ナルトは反応しない。

「俺は昨日木の葉に着いた。大勢の人々が出迎えて歓迎してくれて、凄まじい混みようで、確かに訪ねて来ることは難しかったかもしれない。調印式にも、お前は出席を許されていなかったしな」

ザワ…

風でナルトの前髪が揺れた。だが相変わらず視線はヒナタに向けたままだ。

「今日は確かに夕方にしか時間が空かないと知らせていた。だが…待っていたのだ…ナルト…。ほんの僅かな時間でも、お前が俺に会いに来てくれるのを…顔を見せて名を呼んで…笑顔を向けてくれるのを…」

…サクラが悶絶しすぎてコロリとその場に転がった。

我愛羅の髪も、風に揺れる。
ナルトはふと視線を下げた。確かに、つい数日前までは指折り数えて待っていたのだ。我愛羅に会える日を。我愛羅に木の葉を案内できる日を。

「……ケッコンとかさ…そんな急がなきゃ…なんねェのかよ…」

ナルトが、苦しそうに顔を歪め絞り出すような声を漏らした。

ばらばらと葉が落ちた。衝立から若い女性が遠慮がちに出てきて、緋毛氈に散らばる花弁や葉を拾いはじめた。

「なんで…なんでヒナタなんだってばよ…なんで…なんで…なんで…」

ナルトの声が涙声になり、ヒアシが怪訝そうに眉を顰めた。

きゅっと唇を噛んで、ナルトが顔をあげて我愛羅を見た。

静かに揺らぎなく佇む我愛羅は、同年とはいえさすがに影に就任して数年を経た風格がある。
人望もある、実績もある。
その後ろでまるで控えているかのようにも見えるヒナタは、普段の姿では気づかなかった品格と可憐さを現していて、今はまだ頼りなげだが、しっかりと守り支えられて数年も経てばその資質は、影の妻に相応しく美しく花開くだろうと思われた。

ナルトの眼からは、心細げなヒナタを、我愛羅がしっかりと庇っているようにも見え…

先程の二人の姿を思い出して、また顔を歪ませた。


イタイ…

ドコガ…?


ワカラナイ…

クルシイ…


頭の中で響く問答を遠くのもののように聞きながらナルトが唇をわななかせたのを、我愛羅が言葉を発するのかと読み取ろうと身じろぎした。そのとき、

「ナルトくん…」

ヒナタが細い声を漏らし、ハッと自分の口を塞いだ。ナルトも我愛羅もヒアシも一斉にヒナタを見、ヒナタはたちまち顔を赤くした。

「ごめんなさい…ナルトくんがあまりにも苦しそうで…それで堪らなくなって…つい…」

恥ずかしさのあまり涙を眼にためて、ヒナタはうつ向いた。

「それで思わず声をかけてしまっただけなの…ごめんなさい…」

肩を震わせた。

「ヒナタ…?」

振り返っていた我愛羅が気遣うようにヒナタの肩に手を置いた。ヒナタが悲しげなまま顔をあげて我愛羅を見る。

「我愛羅くん…あのね…ナルトくんはね…」

必死になって我愛羅に話しかけるヒナタの眼から涙がぽろりとこぼれ、穏やかに話を聞きながら半ば反射的に我愛羅が指先でそれを拭ったとたん、

「…た…のむ…」

後ろから我愛羅の手を掴みあげたナルトが、我愛羅の背に額を当ててうずくまっていた。


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