拾弐 * 会心の一撃、二発
サクラと同じくうっとりと魅入っていたいのが、おや?と目線を隣に動かした。
皆と同じく胸の下に手を付いて伏せていたナルトが、わずかに後ずさり、姿勢をぐっと低くしていた。顎を引いて鼻まで地面に付きそうになっているのだが、いのはそこまでは確認することなくすぐにまた視線を戻して目の前の光景に酔った。
磁器のように白く滑らかな二人の肌に、藤の花と葉を通して和らいだ日の光が降り注がれている。
息をすることすら忘れたかのように見詰めあう姿は、まるで恋に落ちた瞬間をそのままを閉じ込めてしまったかのようで、サクラといのは頬を上気させて胸をときめかせた。
幼い少女が一度は夢見るお姫さまと王子さまそのものに見えた。
「…その姿勢…辛くはないか?」
ふと、我愛羅が呟いた。
「えっ…あ、あの…」
術を解かれたように急に我にかえって慌てるヒナタをしばし不思議そうに見詰めた我愛羅は、手を繋いだままヒナタが膝と腰を伸ばせるように気遣いながらゆっくりと立ち上がった。
我愛羅の気遣いを受けながらうつ向いたヒナタの頬もそれに従ってゆっくりと染まってゆく。
我愛羅がさらにヒナタを支えようと手を添えたその瞬間、
「うあァァァァーーーーーーーー!!!!!」
吼えながら茂みから飛び出したナルトが一足で我愛羅の前を抜けてヒナタを奪うと、そのままヒナタを抱えあげて我愛羅に振り向いた。
「ダメー!ダメだ!ヒナタに触…ん…な…?」
瞬きほどの間の出来事に皆が唖然とするなか、ヒナタを抱えあげて足を踏ん張ったはずのナルトの身体が、ぐらり…と揺れた。
「?!?!?」
咄嗟にしっかりとヒナタを抱えたまま、ナルトはどさり…と不格好に尻餅を突いた。
驚きのあまり誰も声を漏らすことも出来ずにいるなか、
「無様な…」
静まり返った藤園に、ヒアシの声が冷たく響いた。
一同が一斉にヒアシを見ると、先程まで我愛羅をもてなしていた姿勢のまま白眼を発動させている。
「…っ!!」
ナルトが顔を歪めたので、ヒナタは慌ててナルトの腕から逃れると、
「だ、大丈夫…?ナルトくん…」
ナルトの身体を案じて見回した。
「…」
顔を歪めたままナルトがジャージの上をめくると、
鎖帷子の上からでも脇腹が赤く腫れ上がっているのが見えて、茂みの三人も息を飲んだ。
「…まるで見えなかった…さすがですね…」
我愛羅が呟いた。
飛び込んできたナルトがヒナタを抱える一瞬の隙に、ヒアシの一撃が入っていたのだ。
「ふん…」
白眼を解かぬままナルトを睨むヒアシに構わず、ヒナタは給仕に濡れた手拭いを持ってこさせ、ナルトの手当てをした。
「イテテ…」
「酷い…こんな…父様…」
ヒナタが咎めるようにヒアシを見たが、ヒアシは意に介さない。
「目的がなんなのかと様子を伺っていれば…どういうつもりなのか説明してもらおうか?」
『!』
辺りを制するようなヒアシの厳しい声にキバがびくり!と身体を揺らしたが、サクラが咄嗟に袖を掴んだ。
『こっちのことじゃないわよ!』
サクラが囁いてキバを押し留める。
尻餅を突いた姿勢のままうつ向くナルトを気遣って膝をついているヒナタを、我愛羅がまた気遣うように肩に手を置いてナルトの側に座った。
「『触るな』…か?」
反射的に顔をあげて睨んできたナルトへ、我愛羅が静かに言った。たちまち申し訳なさそうに顔を歪めるナルト。
「…木の葉に来たというのに一向に会いに来てくれず淋しく思っていたというのに…いきなり『触るな』とは…どういうことなのだ…?」
「す…まねェ…」
非難がましい響きなどない我愛羅の言葉に、ナルトはしょんぼりとうつ向いた。
「会えて嬉しいと…まず言ってもらいたかった…」
「ゴメ…ン…」
項垂れる我愛羅に、泣きそうな顔になって歯を食いしばった。
「それほどまでに…」
我愛羅がゆるゆるとナルトへ手を伸ばし、助け起こそうとするように手を添えて顔を見詰めると、
「ヒナタが大事か…?ナルト。久しぶりの俺に…会うことよりも?」
「えっ…」
静かにだかはっきりと聞いた我愛羅の目を見返したまま、ナルトは固まった。
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