ほんとの気持ち
トン…トン…トン…と優しく叩く心地よい響きに、ヒナタはふと意識を取り戻した。
「落ち着いたか?」
見上げるとナルトが見下ろしていて、ヒナタと眼が合うとニカッ!と嬉しそうに笑った。
「ナ、ナルトくん…っ」
慌てて身を起こそうとするのをナルトがやんわりと、しかししっかりと阻んだ。
どうやらあのままナルトの腕の中で少し寝てしまっていたらしい…毛布も掛けられていて、ヒナタは恥ずかしさに顔を赤くしてうつむいた。その様子を嬉しそうな顔で見ていたナルトが、ニシシシシ!と笑う。
「寝てたのちっとだけだから、気にすんな!」
そう言って優しく髪をすいてくれるので、ヒナタはますます顔があげられなくなってしまった。
「あのさ…起きたばっかで悪ィんだけどさ…」
気がつくと、髪をすいてくれているのとは違う手でナルトはヒナタの背中をトン…トン…と叩いていた。
『このリズム…落ち着く…』
「このままでいいんで…話、聞いてくれるか?」
うつむいたままナルトの胸に頬を寄せたヒナタは、こくん、と頷いた。
「誕生日の時は…ごめんな…」
ぴく、とヒナタの身体が揺れたので、ナルトは髪をすいていた手を止めてそのまま手のひらで頭を包んだ。
「あん時は朝からずっと嬉しくってさァ…浮かれてて!なんも考えずに反射的に返事しちまってた!」
タハハ…と自虐的に笑う声がする。
顔をあげなくてもナルトくんがどんな顔をしているかわかる…ヒナタはそっと眼を閉じた。
「んでさ、あの後最後に来たいのに、めーっちゃくちゃ叱られちまった!アホだよなー、オレ!」
手が離れ、ガリガリ…と掻く音がしてからまたそっとヒナタの髪がすかれた。
「アカデミーでイルカ先生の手伝いしたときはさ!まさかヒナタに暴露話されるとは思ってなかったからさ!めちゃくちゃ焦ったってばよ!」
「…ごめんなさい…」
小さく呟くがきっと聞こえていないだろう。ナルトの手は休むことなくヒナタの背中を優しく叩き、髪をすく。
「コロッケの時も、楽しかったよな〜♪めちゃくちゃお腹空いててさ〜、楽しいのもあったけど喰いたくて喰いたくて、我慢すんの大変だった!」
「うん…知ってた…よ」
あんなに眼を輝かせてたら…!
ふふふ、とヒナタはこっそり笑った。
「…失せ物探しのとき…」
ナルトの声が変わった。ヒナタはわずかに眼を開いた。
「…楽しかった…。色々思うことある任務だったけど、ヒナタと一緒に居んの…楽しかった…」
心なしか、声のトーンに合わせるようにリズムがゆるくなっていく。
「森の中で見た夕陽…キレイだったよなァ…」
細くなっていくナルトの声に、ヒナタも眼を細めて…涙が滲んできた。
「ヒナタと居ると落ち着く」
ぽつり、とナルトがこぼした。同時に手の動きも止まり、ヒナタはまた眼を開いた。
「あったけーキモチになる。…嬉しくて、なんでか泣きたくなる…だけど…」
鼻声になっていくナルトの声に、ヒナタは信じられなくて眼を見開いていく。
「なァ…な…んで…だよ……ど…して…どっか行っちまう…んだよ…ヒナタすぐに…すぐどっか行っちまう…!」
ナルトの身体が揺れている。さっきとは違い、泣いているんだ…!ヒナタは身を起こそうとした。だが、
「側に居てよ…勝手にどっか行くなよ…」
ナルトの腕に力が篭り、押さえつけられるように抱き締められてしまう。
「オレの気持ち…無視しないで…よ…」
「…無視…して…なんか…」
ぎゅう…と押さえつけられて、片頬を押しつけてしまったままヒナタは呟いた。無視なんかしてない。むしろ…
「好きって言ってんじゃんか…よォ…」
泣いている…!今度こそ腕から逃れなければ、とヒナタはもがくが、ナルトはますます腕に力を込め、濡れた頬をヒナタの頭に擦りつけた。
「ヒナタがいいって…ヒナタじゃなきゃダメだって…言ってんじゃんかヨォ!」
ナルトの頬を伝う涙は、ヒナタの髪から地肌へと到達する。
なんて冷たい涙…
ヒナタの眼にも涙が溢れてきた。
「好きなんだ…ヒナタ…側に居て…お願い…」
掠れた語尾はもう囁きで、本当は自分の空耳だったのかもしれない。ヒナタはそう思いながらゆっくりと眼を閉じながらナルトの胸に身を預けた。
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