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ほんとの気持ち

コツ…コツ…

「???」

あの後這いつくばってなんとかベッドまでたどり着いてよじ登り、うつ伏せになって完全に停止していたナルトは、聞き間違えかと思われるようなほんの小さなノックに、不審げに眉をつり上げてじっと聞き入った。

コツ…コツ…

確かに誰かが訪ねて来ているようだ。

「空いてますってばよ…」

ナルトは寝そべったまま顔だけ玄関に向けて、とりあえずむき出しのお尻だけでも隠そうかと手近なタオルか衣類かをずるずると引き寄せた。

「お…おじゃします…」

かちゃり…という控え目な音と共におずおずと顔を覗かせたのは、

「ヒッ!ヒナタッ?!」

ナルトは慌てて起き上がると、脱ぎ捨てられた服だの追いやった布団だのをかき集めて自分の裸を覆い隠した。

「きゃっ…!」
「ごごごめん!ヒナタ!!」
「や…あの…私のほうこそ…」

戸の向こうに隠れてしまったヒナタに謝りながらナルトは慌ててそこらの服をひっ掴んで着込んだ。早く早く!急がないとヒナタが帰ってしまう!そう思ってナルトはベッドから飛び降りると閉まりかけたドアに、がっ!と手をかけた。

「ごめ!んと!ほんっとゴメン!!」

慌てすぎて咳き込みながら謝るナルトにヒナタも焦ってそわそわし、

「う、ううん…わ、私がいけないの…っ…ごめんなさ…」
「ストーップ!!!」

ヒナタがどんどん小声になって後ずさって行くのを、ナルトが手のひらを突き出して制止した。

「あのさ、んとさ、用事あって来てくれたんだろ!?要件、聞きたいってばよ!」

勢い込んで顔をぐい!と突き出しているので、ヒナタがまた後ずさる。ナルトは益々身を乗り出した。と、

「…ソレ?」
「あっ…あの…そ、そうなの…」

ヒナタの足元に水を張った浅いケースがあった。売れ残りなのだろうか?小さな花束がいくつか浮かんでいる。

「い、いのちゃんが…ナルトくんなら…もらってくれるだろうからって…」
「…運んできてくれたのか?」
「う、うん…」
「…ありがと…」

恐らくそれは口実で、ヒナタがこちらに行くように仕向けてくれたに違いない。ナルトは心の中でそっといのを拝んだ。

「んじゃさ、それ運んでくれるか?ヒナタ。オレ、ドア支えてるし」
「あ、はい…じゃあ…」

本当なら片手でも充分運べるのに、ナルトはヒナタを部屋に招き入れたくてわざとお願いをした。

「お…お邪魔しまー…す…」

ケースの水が跳ねないようにヒナタが慎重な足取りで部屋にあがった。

「あ、あのさ、テーブルに置いてくれっかな?」
「い、いいのかな…?」
「うん!頼む!」

ヒナタに指示をするとナルトは素早く台所へ行き、やかんに水を汲んで火にかけた。それから自分の格好を見下ろし、こりゃいくらなんでもあんまりだと、違う服を引っ張り出すと着替えるために風呂場へと消えた。

「あっ…あっ…あの…お構い無……く…」

部屋で突っ立ったまままもじもじしていたヒナタは、窓辺に置かれた花を見て動きを止めた。

「やー、わり!お待たせ…ヒナタ?」
「…あ」

ナルトの声にびくん!と身体を揺らしてヒナタが振り返った。

「どした?」
「あ、あの…この花…」
「ウン?」

ヒナタはナルトを見ながら花をそっと指差した。

「あの…あの…あの…」
「???」

ヒナタは自分の指を絡めてもじもじとうつ向いてしまった。

「えっと………っ!」

気づかぬうちにかがんで覗きこんでいたナルトの顔が近くて、ヒナタはまたびくん!と身体を揺らして後ずさった。
やかんから勢いよく湯気があがる音がしたので、

「…ま、座れよ。お茶いれるから」

ナルトはくくく…と笑いながら台所へ向かった。

「あっ、あっ、お、お構い無く…って…さっき…」

いい損ねたんだった…最後の呟きはもうナルトには聞こえていない。
居心地が悪くて早く帰りたいのではない。自分が来るまでナルトがベッドに伏せていたのが気になる。

『私ったら…ほんと…間が悪いんだから…!』

居たたまれなくてぎゅっと眼を閉じたヒナタの耳に、

ことん…

小さな音が聞こえて、ふわん…と甘い香りが鼻をくすぐった。

目を開けてそれを見るや反射的にきゅうっと緩んだ笑顔になってしまって、ヒナタは慌てて自分の顔の前で手のひらをばたつかせた。

「良かった!大好きみてェで!ココア」
「あっ…あっ……うん…」

真っ赤になってうつ向いたヒナタは観念して席につくと、ココアの入ったカップに両手の指先をそっと添えた。

「あ、あの…大丈夫?」
「ん?何が?」
「あ…その…ね、寝てたから…」
「ああ!アレ?」

カップを引き寄せながらおずおずと聞くヒナタに、ナルトは頭を掻きながらアハハハハ…と笑った。

「頭打っちまってよ」
「あ…ポール?」

外での騒ぎを知っているらしい。

「うん。でさ、送ってもらったのはいんだけど、また自分で風呂場でぶつけちまって」
「だ、大丈夫なの…!」

かた…と立ち上がったかと思うともう座っているナルトの真後ろに立って自分の頭を調べているヒナタに、ナルトは驚いた。

『こーゆーときはめちゃくちゃ早ェんだよな…ヒナタってばよ…』

そっと髪の毛を掻き分けている手をくすぐったく感じながら、ナルトは頬が緩むのを止められなかった。

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