三日月に白兎
念願の綿菓子は甘くてふわふわしてて美味しかったのに、ナルトは「べしゃべしゃしてるし食べにくい」と言う。見れば大口を開けて真ん中にかぶりつくからで鼻先にまるで蜘蛛の巣のようにくっつけてしまっていて、それをそっと摘まめばいいのに無造作にがつっと掴むからふわふわの綿菓子がたちまち固まって手がベトベトしてしまうのだ。
水風船は、螺旋丸の修業に使った!と得意気に説明してくれたはいいが、あっと言う間に割ってしまって水が辺りに飛び散って平謝りをしなくちゃいけなくなったし、射的や輪投げは「忍びはお断り!」と追い返されて、結構本気で気分を害しているようだ。
まるで子供みたい…ヒナタはナルトに気づかれないように密かに笑う。
「あ…」
むっつりしてすたすたと先を歩いていたナルトが、ヒナタの小さな呟きを聞いてすぐに戻ってきた。
「どれ?」
「あ…あの…」
ヒナタが見ているものを探そうと覗き込むように顔を並べてくれていて、その近さにヒナタはどぎまぎしたが、
「あ…あれ…」
と細い指先で示したのは、飴細工の店だった。
「へええ!」
ナルトもすぐに興味をひかれて眼を輝かせた。
鋏ひとつで巧みに様々な形をつくる雨細工を、二人は並んで眼を輝かせて見ていたが、つい、とナルトは前に進むと、
「おっちゃん!オレ、リクエストしていい?」
明るい声で細工師に声をかけた。
「おお、なにがいい?」
「んっと〜、えっと〜、」
「なんだよ、決まってないのかい?」
細工師の呆れ声に、次を待っている子供たちが焦れて足を踏み鳴らす。
「わ、わ、わァった!う、ウサギ!んと…月にウサギ!つ、月とウサギ?!」
ナルトの声に細工師はニヤリと笑うと、
「あいよ!」
透明な金色の三日月に、小さな白兎がちょこんと乗っかっている飴を、瞬く間に作ってくれた。
「わぁ…♪」
ナルトの手に渡された飴細工にヒナタが微笑んで可愛い声をあげる。ナルトはにこにこしながら、
「はい!」
とヒナタに差し出した。
「えっ…これ…」
「ん!ヒナタにって注文したんだから、受け取ってくれってばよ!」
そう言って手渡すと、いつの間に買ったのか自分は別の飴を舐めながら歩き出した。
「あっ…」
またヒナタの呟きに素早く寄ってくると、
「ん?」
ヒナタと一緒になって飴細工を眺めた。
「…眼…塗り忘れ…かな…?」
見るとウサギの眼が、本当なら食紅でちょちょいと赤く塗ってくれるはずなのにそのままになっていた。
「ますますヒナタみてェだな!」
ナルトは嬉しそうに笑う。
「わ…たし…?」
「ウン…そう…」
ナルトがそっと言って飴を眺めているのでヒナタもじっとそれに倣った。
透き通る金色の三日月の下に乗っかった白兎は、短い手をちょいと体の前につき出して、三日月の突端を見上げている。
「ホント…私みたい…」
ヒナタが小さく呟いた。
「この月は…ナルトくんで…私はいつも見上げてる…だけ…」
呟きがどんどん聞き取れなくなるほど小さくなる。
ナルトはちょっとだけ眉をひそめたが、ニカッ!と歯を見せ、
「オレが月ならさ!ヒナタはオレの膝に乗っかってるってとこ?だな!」
ニシシシシ!と嬉しそうに笑った。
「ひ、膝に?!」
「ウン!だってそーだろ?」
驚いてどぎまぎしているヒナタに、ナルトは明るく言い切ると、
「んー…じゃ、コレ…オレがヒナタを抱っこしてるってやつ…?」
ちょいちょい、と飴をつついてヒナタの眼をじっと正面から見据えた。
ヒナタの顔がどんどん赤くなる。ナルトはそれを少し眼を細めて嬉しそうに眺めていたが、
「あーあ!いーなー、飴のオレ!羨ましー!」
背をそらしながら頭の後ろで腕を組んでそう言うと、ニカッ!とヒナタを見下ろした。
「…ヒナタ…あのさ…このあと…」
ナルトが言いかけたところで、知らせの太鼓が鳴った。
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