三日月に白兎
ヒナタが落ち着いたのを感じとると、ナルトは腕をほどいてヒナタの手を引いて歩き出した。
夢見るような心地と足取りでついてゆくヒナタ。
繋がれた手からぬくもりと共にナルトの想いが伝わってくる。
『ナルトくん…ナルトくん…ナルトくん…』
ヒナタは涙をこぼす代わりのように、何度も何度もナルトの名前を胸の中で繰り返した。
ナルトも、ヒナタが自分の名を繰り返し呼んでいることに気づき…戸惑っていた。
『わ…わ…ど、どうしよ…どうしよ…』
嬉しい。嬉しいがまず話が先なはず。話が出来るとこに連れていこうとしているのだが、どこがいいか具体的にはまだ思いついていないのに、
『か…考えらんなくな…っちま…ふわわわわ!』
どうしても浮き足だってしまう。
嬉しい。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
嗚呼…伝わっちまってるだろう!だけど…!
『う、う、嬉しんだから…仕方ね…よ、なッ!』
ニッシシシ!恥ずかしくて振り向けないから、前を向いたまま笑う。
『ナルトくんが…笑ってる…嬉しそう…』
ヒナタはどんどん泣き顔になる。嬉しいのに、嬉しくてたまらないのに、
『泣いちゃダメ…ダメなのに…』
指先が震えて繋いだ手がほどけそうだと思ったその時、ナルトがくるりと振り返り、両手をそれぞれしっかりと握った。
「あ、あ、あのさ!あともうちょっとで祭り終っちまうだろ!せっかくだからさ!」
そこまで一息に言って、それからそっ…とヒナタの眼を覗き込んで、
「あのさ…まずさ…お祭り…一緒に…回らねェ?…ダメ…?」
最後の問いにわずかに首を傾げたナルトと、つられるように首を傾げているけど、ヒナタからは返事がない。不安げなナルトの眼をじっと見ていたヒナタがようやく、
「……わたがし…」
「ヘッ?」
「…たべたこと…ないの…」
首を傾げた悲しげな顔のままぽつりと告げたのへ、
「おっし!オレが買ったげるってばよ!行こうぜ!ヒナタ!」
ナルトは眩しい太陽の笑顔になると、勢いよくヒナタの手を引いて祭りの喧騒へと走り出した。
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