Ann Happy Birthday
事の始まりは、
「誕生日おめでと!」
「おーっ♪ありがとだってばよーっ♪」
そう、ナルトの誕生日だったのだ。
大戦が終結してからきっちり一年。まだまだまだまだ、復興に復旧に忙殺される日々。飲食店だけでなく生活用品店や雑貨屋などもぼちぼち揃い、ささやかに集まって食事をするくらいは可能になっていたのだが、
今年は10月末の里の収穫祭を派手にやろう!という早くからの綱手の提案の元、準備期間と考えると直前と言っていいナルトの誕生日は、一日家に居るナルトの部屋へ各自がプレゼントと祝辞を届ける、という実にささやかな開催となった。
大戦終結からの初めての収穫はやはり楽しみで、日々たわわになってゆく実りに心踊らせ、祭りを待ち望む気持ちに拍車をかける。
それでも最大の功労者の誕生日なのだからという綱手の温情で休暇にしてもらったナルトは、久しぶりに部屋の大掃除をすることにした。訪ねてきてくれるだろう友人たちのためのお茶の準備をかねて、台所から取りかかる。
今から任務だというシノとキバが戸口だけで慌ただしく去ってゆく。
土木工事を手伝っているチョウジが資材の搬入まで時間があるというので、プレゼントにもらったポテチのひとつを食べながら雑談していると、シカマルが呼びに来て入れ替わる。
シカマルから里の内外の状況を聞きながらお茶をしていると、山中花店から綱手とシズネ連名の配達品が届き、見事なグリーンの鉢植えに驚嘆する。
シカマルが帰ったあとは次々と他里からお祝いの品が届き、対応に追われながら、ナルトはしみじみと幸せを感じていた。
肝心の掃除は朝一番にした台所以外一向に進んでいないが、部屋の中に少しずつプレゼントがたまってゆくのが嬉しくて面映ゆくてたまらない。
朝からずっと笑うことしかしていないのだ、こんなに幸せな一日があっていいのだろうか…
もらったプレゼントを並べてひとつひとつを撫でながらナルトはますます微笑んだ。
「ナルトーっ!おめでとう!」
「おめでとう、君は不本意かもしれないけれど、『七班』からのプレゼントとお祝いだよ」
サクラとサイがやってきた。かれこれ一年も続くサイの嫌味にサクラがとうとう、
「もう!アンタも七班だって!何万回言わせたら気が済むのよ!」
と音を上げた。
「ほんとだよ…あんときはほんとにごめんってばよ」
ナルトも頭をかきながら二人を招き入れ、お茶をいれてサイへカップを差し出した。
お茶を飲み干しておろしたカップからあらわれたサイの無表情な頬がわずかに上気していたと思ったとたん、カップを置きながらいつもとは違う不器用な微笑みを浮かべたサイが、
「ありがとう…実は…今日もそう言ってくれたら…許そうって思ってたんだ…」
と、はにかんだ。
サクラの顔が安心したように輝き、ナルトはうるうると目を潤ませると、
「サイーっっっ!お前からのソレが、サイコーのプレゼントだってばよーっ!」
感激して、がば!とサイを抱き締めた。
もらい泣きしそう…と口元に手をやったサクラが、ん?と思うや、サイはいつもの整いすぎている笑顔になり、
「思ってただけでそうするかどうかはまだわからないけどね」
とさらりと続けて、ショックで真っ白になったナルトが床に転がった瞬間、サクラの鉄拳で秋空へと吹き飛ばされていった。
「ったく!サイのヤツ!」
「ま、まあ、アレがやつなりのジョーク?ってやつなの…かな?アハハ…」
玄関先で靴を履きながらぶつぶつと文句を言うサクラをなだめていたところへ、
「あっ…」
「アラ!」
「おお…」
ヒナタがやってきた。
「お、お邪魔かな…?」
玄関よりもだいぶ手前でおどおどと聞いて引き返そうとしたヒナタへ、
「アタシ帰るとこだから!大丈夫よ!ヒナタ!」
サクラが呼び止める。
ヒナタが振り返ると、靴を履き終えたサクラはグローブをつけながらナルトと談笑していたが、
「じゃあね」
と、立ち竦むヒナタの横をさらりと過ぎて行った。
サクラを見送っていたヒナタが振り向くと、同じくサクラを見やっていたナルトは、
「ん?」
サクラを見て微笑んていた表情のままヒナタへと視線を移した。
不安げなのか悲しげなのか、わずかに眉をひそめているヒナタがそっとナルトに近づき、
「お、お誕生日おめでとう、ナルトくん」
と、小さな小箱を差し出した。
「おお!ありがとな!ヒナタ!」
戸から手を離し両手で受け取り、嬉しそうにしているナルトを、ヒナタは眉をひそめてたままはにかんで眺めている。
「そだ!上がってけよ、お茶入れるからさ!」
笑いながら招き入れようと戸を大きく開けたが、
「わ、私、このあと用事があるから」
と、遠慮して後ずさる。
そうか?と首をかしげたときに、もっとよく見ておくべきだったのだ。
今思えば。
中身なんなんだろなー♪とにこにこしているナルトへ、ヒナタが意を決したように唇を引き結んだのに。
歩みより、
「わ、私!ナ、ナルトくんのこと、好きだよ!」
叫ぶように告げたのに。
「おう!俺もだってばよ!ありがとな、ヒナタ!」
朝からの勢いのまま答えてしまっていたのだ。
微笑み返してくれるはずだったヒナタの顔が、
「えっ…」
という小さな小さな呟きと共に、凍りついてしまっていたことに、気づいたときはもう手遅れだったのだ。
「あ…あ、ありがとう…!」
ヒナタは、精一杯そのもの、といった顔で、それでも可愛く小首をかしげてお礼を言ってくれて、
「じゃ、じゃあね、ナルトくんっ…」
駆け去ってしまったのだ…。
何が起きたか理解できぬまま、自分が何かやらかしたことだけは確かだと、わんわんと唸る頭を抱えてさっきまでのやりとりを反芻する。
なぜ?なぜヒナタは笑い返してくれなかったのか。
どうして?どうしてあんな表情をさせてしまったのか…
進まぬ思考に途方にくれて茫然としてきたところへ、
「あらなに?ご機嫌のハズなのに、暗〜いのはなぁぜ?」
いのが。最後の同期がやってきた。
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