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サクラの決意

サクラがふと視線を落としかけた瞬間、ナルトが、

「…っ…」

小さく声をもらし、ほんのわずかに視線を動かしたのを感じた。息は空耳かと思うほど小さく、視線もごくごくわずかにしか動かしていなかったが、サクラだとて忍びなのだ。

ナルトの眼が追った先には…見慣れた濃い色の長い髪を翻して去っていく影があった。だが。

「そうだ!なァなァ、サクラちゃん!今非番なの?だったらさ、オレと回らねェ?」

何事もなかったかのようにニシシ!と笑って誘ってくれるナルトの顔を、サクラはじいっと見詰めた。

勤務明けに待ち伏せしていたかのように現れて誘われたこともあった。
約束していた相手がダメになり一人で過ごすのかぁと思っていた時に、どこからともなく現れて誘われたこともあった。
これからどんどん忙しくなるという時間にわざわざ現れ、「オレ今空いてるのにィ〜!」と駄々をこねて渋々帰っていったこともあった。

隙あらばデートに誘おうとしてくるウザい奴。
払っても払ってもなついてくる、まるで子犬のような奴。

そんな風にしか思っていなかった。

でも…
思い返してみると、いつもナルトはサクラの都合に合わせてやってきた。
サクラを一人にしないように、サクラにさみしい思いをさせないように。
勤務中に来たときだって忙しさのあまり最悪に邪険に追い返してしまったけれど、あの時は忙しすぎて誰とも遊べなくて、ぎゅっとさみしさを堪えている最中だった。

『いつも…こんな顔して誘ってくれてたんだっけ…?』

ナルトの笑顔を見詰める。

「な、な、何?サクラちゃん?サクラちゃんにご馳走出来るくらいはちゃーんと持ち合わせてるってばよ!?」

照れて慌てながら請け負ってみせるナルトに、サクラは泣き笑いをしたい気分になった。

自分の都合でナルトを呼びつけたりしたことはなかったが、やってきたナルトを都合よく利用したことならあった。
自分に惚れてて諦めない、厄介な奴。
どう距離を取ったものか悩んだことだって正直あった。

だけど…

「ホントに?」

サクラはナルトの眼をじいっと上目遣いで見ながら聞いた。

「へっ?」
「ホントに?ホントにアタシと回りたい?」
「そりゃもちろん!」

満面の笑みでもう飛び上がりそうになっている。

嗚呼!…でも、ダメダメ。こんなことくらいでコイツは自分の本音を現したりしない。

サクラはもう一度、今度はもっと目力を込めてナルトを見上げ、

「…アンタが誘いたいのは、ホントにアタシ?」

そう言ってきゅうっと眼の奥の奥を覗き込んだ。とたんにナルトの眼に動揺が走る。

『ホラ…やっぱり!』

サクラは自分の気持ちの揺れが出ないように注意しながらナルトを見続けた。
ナルトの眼に一度走った動揺は、サクラに悟られたと知るやどんどん広がっていき、

ついにサクラから視線をそらして沈黙してしまった。


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