サクラの決意
あれから部屋へ戻ってぐっすりと眠ったナルトは、目覚めるとすぐにシャワーを浴びて支度をしはじめた。
今日の当番は祭りの後片付けで、まだ時間はあるがそれまで空腹を満たすのも含めて屋台を巡ろうとあれこれ考えながらジャージを掴むと、ぽとり、と軽い音がして何かが床に落ちたので拾い上げた。
それはヒナタの額飾りだった。
「いっけね!勝手に持って帰ってきちまってた!」
自分の顔をペチン!と叩く。
両手にとってしげしげと眺めるとなかなか凝った作りになっていてナルトは改めて感心した。
『こーゆー…なんか作ったりすんの…好きなのかな?ヒナタ…』
ナルトは自分が微笑んでいることに気づかないまま指で額飾りを何度も撫でていたが、返さなければ!と思い立ち、さてどうやって持って出ようと首を捻った。
手に持ったままはおかしいし、わざわざ袋に入れるのも大袈裟な気がする。
散々悩んでふと額宛の鉢金の後ろに滑り込ませてみた。隠れるのを確認すると、額飾りのリボンを丁寧に巻き付け再び鉢金の後ろに入れ、ひとつため息をつきようやく支度を再開した。
靴を履く前に花瓶の花を眺める。
今朝戻ってきてすぐ水替えは済ませている。貰ったときからは随分と花が入れ替わっているが、まだあの雰囲気は残していると思う…ナルトは花にニカッ!と笑いかけてから玄関に向かった。
*****
朝と違い、街はすっかりお祭りの喧騒を取り戻していた。
「あ!サンタのお兄ちゃーん!」
「おー!」
子供たちが手を振ってくれる。
「今日はお菓子ねェんだ、ごめんな?」
寄ってきてくれた子の頭を撫でてやると、
「うううん、いいよ!昨日はありがとう!」
と健気なことを言ってくれるので、ナルトはますます微笑んだ。
「んーと…じゃあ、なんか買ってやろうか?!」
子供たちの前にしゃがんでニカッ!と笑いかけると、
ゴチッ!!
「イデェ!!!」
「安易な約束はやめたげなさい!」
サクラのゲンコツが降ってきた。
「だいじょうぶ?だいじょうぶ?サンタのお兄ちゃん!」
「んー、大丈夫だから!またな!」
心配してくれた子たちもナルトが大丈夫だとわかるとサクラの剣幕に驚いたのか駆け去って行ってしまった。
立ち上がったナルトはそろそろと自分の頭を撫でた後、大丈夫!と言うようにニシシ!とサクラに笑いかけた。
「ったく、もう!」
怒ったふりをしてナルトを見上げると、ナルトはますます嬉しそうに笑う、いつものやり取り。
「アンタ今日たっぷりお金持って来てるの?」
「へっ?」
「だから!財布は満タンなのか?って聞いてんの!」
「ナハハ…それはその…」
頭をかくナルトに大袈裟にため息をついてみせ、
「だったら!『何か買ってやる』なんて言うんじゃないのよ!」
サクラは捲し立てた。ナルトはきょとん?としている。
「ご馳走してもらった子がそうじゃない子たちにその話したらどうするの?『僕には?』って来てくれた子に、『君には無理』って言える?言えないでしょ?」
サクラの話にようやくナルトは、感心したように眼を見開いた。
「全員にしてあげられないなら不用意に誰かにしてあげちゃダメなこともあるの!覚えときなさい!」
嗚呼…なんでいつもこんな説教じみたカワイクナイ言い方しか出来ないんだろ…サクラがさみしく思った瞬間、
「そっか、そうだな!サクラちゃんやっぱアッタマいーなー!その通りだってばよ!ありがとな!」
ナルトはニカッ!と笑ってサクラを誉めつつお礼を言ってくれた。
…これもいつものやり取りだ。
『違う…』
ニコニコと笑うナルトを前にサクラは悲しくなってきた。
またナルトに肯定されてしまった…こんないつものやり取りをしたくてナルトに声を掛けたのではなかったのに…。
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