祭りの夜
「うわ!マジでイルカせんせーがコロッケ…」
「くぉらぁ!ナルトォ!」
「うわっとォ!」
話しかけようとした瞬間いきなり怒鳴り付けられ、ナルトはびくう!と飛び上がった。
菜箸でコロッケをひっくり返す手は止めないまま、イルカはナルトを睨んだ。
「へ?」
訳がわからずナルトが目を見開くと、イルカはふぅ、とため息をついてコロッケへ視線を戻した。
「…取りに来いと言っていたのに…!」
「???…ああ!」
ようやく思い当たったナルトは、へへへ…と頭を掻きながら、
「ごめんなさい…オレこれから警備の担当で…仮眠してたんだってばよ!」
「…これから?」
イルカは目だけをあげてナルトをじろりと睨んだ。
「ウン…今から」
「ふぅん…そうか…」
また不機嫌そうに視線を戻したので、ナルトは不安そうな顔をした。
「…せんせ…オレ…」
「ま、俺が勝手に期待してただけだしな…」
「えっ?」
「なんでもない!」
イルカは鍋の中に浮かぶコロッケの中からひときわ大きく色よく揚がったのを菜箸で取り上げると、よく油を切ってざるへ乗せた。
「ホラ、」
「へ?」
「持ってけ。あったかいぞ。…さすがに夜中は冷えるだろうからな」
「…ありがと…せんせ…」
素っ気ない態度でまたコロッケをひっくり返すイルカに、ナルトは小さな声で礼を言った。
「お前の分はヒナタに渡しておいたからな!」
「えっ…ヒナタに?」
「そうだ!」
ふん!と言い放ってそっと様子を見てみれば、少しうつ向いたナルトは困ったような照れたような複雑な表情をしていて、イルカはなぜだか少し安心した。
「いいのか?もう行かなくて」
ナルトに向かって怒っているふりなどムダだと観念したイルカが苦笑しながら明るい声で言ったので、ナルトはすぐに顔をぱあぁっと輝かせてイルカを見た。
「うん!行かなきゃ!あ、そだ!」
いそいそと財布を取り出そうとするナルトを押し留めながらイルカが首を傾げると、
「イルカ先生!コレ、も一個頂戴!これから一緒に警備なんだ!…ヒナタと」
嬉しそうにそう言い切ってニカッ!と笑った直後、何故だか急にナルトの顔が、ぼっ!と真っ赤に染まった。
イルカは驚きのあまり菜箸を持つ手が止めてしまったが、もっと驚いているのは当のナルトで、真っ赤になった自分の顔の色は見えていないが火照っているのはわかるのだろう、きょときょとと目を動かしてかなり動揺してしまっている。
「?!?!?はへっ!?あり?!?ありり??」
その様子にイルカはゆっくりと微笑んだ。
『うん…やっぱり…俺の勘はそう外れちゃいないようだ…』
嬉しくなって張り切って鍋の中からもうひとつコロッケを選び、慎重に油から引き揚げてまたざるへあげてやった。
「そら、『も一個』だぞ。そこの紙に包んで持ってけ」
イルカの弾んだ声に、まだ赤みのさしたままの頬でナルトが嬉しそうに微笑んだ。
いそいそとコロッケをそれぞれにくるむと、
「あんがと!イルカ先生!そんじゃー行ってくる!」
大事そうに胸に抱えて駆け出していった。
「今度こそ……いや、やめとくか…」
イルカは愉快そうに笑いながらナルトの背を見送った。
嬉しそうに駆けて行くその姿に、様々な想いを重ねながら。
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