忍びの里
「わーい!サンタさんだー!」
「おーよ!皆、いい子にしてっかー?」
ナルトはあっという間に子供たちに囲まれた。同僚たちには散々言われたが、真っ赤なダボダボ衣装にとんがり帽子に白いつけ髭、というこれ以上ないシンプルさと分かりやすさで、どこを歩いてもナルトが一番人気があった。
「とりっくおあとりーと!」
「おーし!よく言えましたっ!」
褒められて得意気な子供の頭をぐりぐりっと撫でると、ナルトはすぐにしゃがんで目線を合わせ、
「入り口でもらった袋持ってっか?」
と聞く。子供が不思議に思って首を傾げながら袋の口を広げると、
「もうすぐご飯だろ?まずは、ご飯をちゃあんと食べて、たくさん遊んで、お菓子はお腹が空いたらだぞ?」
言い聞かせながら入れてやる。
「えーっ!」
と不満げな子供には、
「ほーら、ちゃーんとここに入ってんだろ?だーいじょうぶ、お前が食べちゃわない限りここに入ってんだから!ご飯は、せっかくだからここで旨いもん食ってってくれってばよ?お菓子は持って帰ってもいーんだし!」
そう言ってやってニシシ!と笑う。
そうなればどんな子も眼を輝かせて次へと手を振って駆けてゆく。
「サンタさん、ありがとー!」
口々にお礼を言いいつつ飛んだり跳ねたりしながら。
「うしっ!次行くかァ♪」
袋を担いで歩き出せば、すぐにまた子供たちに囲まれる。
とうとう、「ナルトはどこに居るのかさっぱり見つからないが、子供たちが固まってるところがあればその真ん中に座っている」とすぐに知れ渡った。
「うおーい、ナルト」
「おー!なんだ?シカマル」
「んーと、食材の運搬の邪魔だからどっか子供たちごと移動して欲しいらしい。頼むわ」
「りょーかいッ♪んじゃ移動するぞー、こっち来ーい!」
袋を担いだサンタさんに先導されて子供たちの群れがわいわいと移動してゆく。
「…ったく。すげェな、アイツ。こんなとこでもカリスマなのかよ…」
シカマルはくくく、と喉の奥で笑ってしまった。
*****
「ようこそ…お越し下さいました…」
ヒナタは失せ物探しを担当した集落の人々が来ていると聞いて、広場の隅で彼らが休んでいるところへ顔を出した。
「あー!白眼のおねえちゃんだ!」
「ああ!こちらこそ、わざわざご挨拶になど…!」
ヒナタもナルト同様たちまち子供たちに囲まれる。
「白眼のおねえちゃんキレ〜♪」
「あ、あ、ありがと…」
「犬のおにいちゃんも虫のおにいちゃんも来たよ!」
「そ、そうらしいね、二人に教えてもらって来たんだよ?」
「でもさぁ、変なの!犬のおにいちゃんは犬のかっこしてて〜」
「虫のおにいちゃんは虫のかっこしてたよね!」
「まんま過ぎるよね!」
子供たちの率直な感想に、ヒナタはどうしたものやら?と苦笑しながら首を傾げた。
「こらこら、あんまり無理を言うんじゃないよ」
ヒナタが一緒にしゃがんでくれたのをいいことに、その腕や髪を引っ張ったり、膝や肩によじ登ろうとしたり、じゃれつく子供たちを大人たちが注意した。
「今、数人に飲み物を買いに行かせてまして、ご一緒に如何ですか?」
「もう!お忙しいのにと言いながら!ご無理を言うもんじゃないわよ!」
「でも、お茶の一杯くらい…」
大人もヒナタを引き留めようとしてくれている。
ヒナタは子供たちに囲まれながら嬉しさに頬を染めて微笑んだ。
「ほんとに…遠いところを…ありがとうございました…!」
子供たちを驚かせないようゆっくりと立ち上がり、長老に挨拶した。
「そんなそんな、こちらこそ!お招き頂いて!」
代表で挨拶を返す長老の背を、大人たちが押すな押すなと詰めかけている。
「ほんとに…どれほどお礼を申したらよいのやら…」
「…大したことは…していませんのに…」
困ったように首を傾げたヒナタに、そこに居た大人が全員、
「いいえ!とんでもない!!」
一斉に口を揃えて叫んだ。
「木の葉に着いてすぐ里長さまにご挨拶に伺いました。そうしたら…あの方はこともなげに笑い飛ばしておいでで…」
長老が言葉を詰まらせたところで大人たちも頷きあった。
集落の復興はまだまだおぼつかない。それは、再建計画がまだ定まらないからで、生活を立て直しつつ集落を建て直すことを両輪で慎重に行っているからでもあった。
この際だからと根本から見直そうとすすめている話もある。
だから、他もそうなのだと思い込んでいた。
彼らは公道へ出てびっくりしたのだ。
大戦前とほぼ変わらぬほど復興されていたことに。
それも忍びたちが率先して工事にあたってくれていたと聞いて。
橋は新しくかけ変えられ、地形が変わった所は逆に整備が進んでいたりもした。
なので道中は想像を遥かに上回る快適さだった。
だが。
木の葉隠れの阿吽門をくぐるや、大人たちは絶句してしまったのだ。
それはこの集落の人々だけではなかった。
木の葉隠れの復興はほとんどなされていなかったのだ。
住宅らしき建物はぽつぽつと見受けられたが、えぐりとられた山や森は無惨な姿を晒したまま。
仮店舗ばかりがやたら目立つ、広すぎる大通り。
「皆さん…ご自身の生活もありましょうに…我々のように…縁もゆかりもない者たちの…ために…」
長老は、綱手に告げたのと全く同じ言葉を涙声で伝えた。
すぐさま、大したことではないと天を仰ぐように呵々大笑した女傑とは対照的に、この乙女はふわりと…心が暖かくなる微笑みを浮かべた。
だが、しかし、
「我々は…忍びですから…雨露さえしのげればどんなところででも過ごせますから…心配なさらないで…」
同じことを言う!と、大人たちの目から涙がこぼれた。
「それよりも…お役にたてたなら嬉しい…です。お祭りも楽しんでらして下さい。美味しいものはたくさん用意致しましたし、また運んで頂きました…一緒に楽しみましょう?」
今日のために簡単ではあるが宿泊の用意もしてもらっている。
治安維持のためのパトロールもそこここに配置されている。
あちこちから美味しそうな匂いや湯気があがっている。
「…はい。是非…」
長老は胸が一杯になりすぎて、そう漏らすのが精一杯だった。
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