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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -
サクラの涙

「…というわけで!楽しんでくれ!」

両手を広げてそう締めくくった綱手の言葉が終わるや、すさまじい歓声が上がった。里への出入り口である阿吽門も今厳かな音をたててゆっくりと閉められているだろう。

「さぁって〜♪まずはどっから攻めっかなァ〜♪」

邪魔にならないよう街から離れた場所の木の上に居たナルトは、袋を担いだまま木から飛び降りた。
そのまま木の上から目をつけていた辺りへのんびりと大股で歩き始めた。

*******
「あのう…お手洗いはどちらに…」
「お手洗いはこの地図の、このマークのところにですね、」
「すみませーん!手を洗いたいんですがそーゆー場所ってありますかぁ?!」
「少々お待ちくださーい」
「あのぉ、そこでぇ、落とし物ぉ、拾ったんですけどぉ」

開催宣言の後人が動き出したとたん、総合案内所のテントは大にぎわいになった。予想を遥かに上回る人数が木の葉の外からやって来てくれたらしい。地図の説明だけで案内所の当番の手はすぐに一杯になってしまい、サクラたち救護班も応対を手伝うことになった。

「アラ、アナタ看護師さん?悪いわねぇ?」
「はぁ…まぁ…」

白衣は着ているのに前を開けていてミニスカートがのぞいてしまっているせいなのか何人もの人に看護師と勘違いされて、サクラは苦笑いをしながら急いで白衣のボタンをとめた。

『ヒナタはしょーがねーって…どういう意味かしら…』
『さぁ…そのまんまじゃないの?』

対応に追われている頭の中で、先程のいのとの会話が甦っていた。

『だってほんとにしょうがないじゃないの』

いのはさっぱりとそう言って足を止めると、並んで歩いていたサクラへ、きゅっと顔を向けた。

『あたしとあんたは意地っ張りで、ヒナタは素直。キャラが違うんだもの、当然でしょ?』

何を悩んでいるの?!という強気な眼で、いのはサクラをじっと見詰めた。
サクラは必死に浮かべる笑顔が歪んでいってしまうのが止められなくて、そんな自分が情けなくてうつ向いてしまった。

『今更「可愛い女」になりたいだなんて本気で思ってるワケ?』
『!それ、どーゆう…!』

キッ!と顔をあげると、いのはぷっと吹き出した。

『…ホラね!あたしたちさ、しょーがないのよ、ついつい一言多く言っちゃいたい「可愛くない女」なのよ、ヒナタと違ってね!』

やれやれ、と両手を広げてみせる。

『ま、シカマルが言いたかったのは、「ヒナタはナルトが好きなんだから、ナルトを臆面もなく褒めもするでしょ?」程度だったと思うけど〜』

本当にそれだけの意味だろうか…サクラはいのから目をそらした。

『…あんたは昔から、欲しいものは欲しいって言ってきた』

いのの話が突然変わったので、サクラははっといのを見た。
いのは顎を引いてきゅっとサクラの目を覗き込んでいる。

『そしてそのための努力も積んできたし、ちゃんと手に入れてきたわ。そのことはあたし本当に尊敬してるのよ』

いのから正面切って褒められたのは始めてで、サクラは暖かいものがこみ上げてきてきゅっと唇を結んだ。

『でもね?』

いのの目が光る。

『こと、ナルトに関してのあんたはキライ。上手く言えないけど、…そうね、可愛くないわ』
『えっ…そ…』

いのの言葉にサクラが怯えたように瞳を揺らしたので、いのは言い過ぎたのか?!と少し慌てたが、顔には出さず、

『さ、もう始まるから。お互い自分の仕事しよ?』

優しい声でそっとサクラの肩を叩いた。

『交代制なんでしょ?うちの花束見に来てよ?もちろん、買ってくれたらもっと嬉しいけど!』

そういって顔をのぞきこむと、サクラは弱々しいが笑顔を返してくれたので、いのは少しホッとした。

『じゃあね!楽しい収穫祭にしようね!』

そう言って軽やかに去っていったのだった。


『可愛くない…アタシはナルトに対して可愛くない…』

そうなんだろう。優しい言葉ひとつかけてやれない自分が、ナルトにとって可愛い女なワケがない。

それでも、ナルトは変わらずに居てくれたから。素直になれない自分の照れ隠しだけの謝罪にも嬉しそうに笑顔を返してくれていたから。

『…アタシは…ナルトに……甘えて…た?』

ナルトの笑顔は救いだった。ナルトが笑ってくれることは喜びだったし、サクラにとって最大の肯定だった。
アタシは間違っていない、アタシはアタシで居ていいんだ、アタシはアタシの心のままでいい…アタシは…アタシは…

『褒めてあげて、サクラさん。ナルトくんはサクラさんに褒めて欲しいの』

ふいに、頭の中でヒナタの声が響いた。

『わかってあげて』

嗚呼…!

ヒナタ…!!アンタは…!アンタって子は……!


「…先生?」

転んで擦り傷を作ったとやってきた少年と付き添っている母親が不思議そうにサクラを見た。

「…ごめんなさい」

サクラは溢れてしまった涙をぐい、と拭った。

「…子供の頃からしょっちゅうケガばっかりしてた知り合いを思い出しちゃって…。軽いケガだと油断してちゃダメよ?お母さんやお友だちはその都度本当に心配するんだから。今度からちゃんと…ケガしないよう…注意するのよ?」

そう言って素早く治療を終えると、少年の頭を撫でた。泣きそうな顔で微笑みながら。



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