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開催宣言直前

まもなくお祭りが開始になろうという刻。ゆっくりゆっくりと日が傾きかけている。
簡易テントでの詰め所では、子供たちに配るためのお菓子の詰まった袋と名簿を世話しなく見比べていたいのが、

「もーっ!あと取りに来てないのは誰なのよ〜っ!」

ミニスカートを揺らしてイライラと踵を鳴らした。

「そろそろ戻ってお店開けなきゃなのに〜」
「おー!わりわりー」

のんびりと悪びれもせずやって来たのはキバだった。

「もーっ!はーやーく!」

いのは袋のひとつを掴むとキバへどっと投げつけた。

「あっれ?チョウジ!ここに居ていーのかよ?開催宣言そろそろじゃなかったっけ?阿吽門を閉じる役目だっつってなかったっけか?」

難なく受け取りながらキバはチョウジに声を掛けた。
門番をするチョウジは秋道一族の鎧を身に付けている。

「うーん、そうなんだけど…」

困ったように笑うチョウジを横目に、ぐるりと見回してみると。
様々な仮装をした連中で、詰め所はなんだか愉快なことになってしまっている。

「いののそれは何の仮装なんだよ?」

キバの問いに、

「は?しないわよ?山中花店で出るんだもん、売り子よ、花売り娘風だけど」

イライラと答えたいのは、白いパフスリーブのブラウスに小花模様のミニスカート姿で、お下げにした頭にはスカートと同じ生地のバンダナを被っている。

「…風、の仮装…かよ」

キバが呆れたように呟いた。

「そーゆうあんたのそれは何?」

怪訝そうな問いにキバはぐっと背をそらすと、

「ヘッ!狼男だぜ!」

得意そうだが、

「…身体中にテキトーに毛皮巻き付けただけじゃない」
「な、なんだと!?」

すげなく言われて、真っ赤になって反撃し始めた。

「あー、もう、うるさい…」

サクラは、キバとぎゃんぎゃん言い争いをはじめたいのの手からそっと名簿を取り上げた。
残っている袋はひとつ。
消し込みのされていない名前もひとつ。

「どこほっつき歩いてんのよ、ナルトったら!」

名簿の名前をぱちん!と弾いたその時、

「ッやー!ゴメンゴメン!オレ最後だよな!ホンットごめん!」

へこへこと頭を下げながらナルトが飛び込んできた。

「おー!来たか!」

詰め所に居た同期はもちろん、他の人たちも一斉にナルトに注目したのだが、一瞬の間があって全員がどっ!と笑いだした。

「?!?!?ナニナニ?どったの…みんな?」

笑われているナルトは訳がわからずきょろきょろと見回すばかり。

「さ、さ、さっすが!ナルト!やってくれるぜ」
「あんたねー、いくらなんでもねー、」

ひぃひぃと笑い転げながら言ってくれたシカマル、いのの言葉を継いで、他の同期たちが、

「なんでサンタクロース?!」

叫ぶや、またどっ!と笑いが起きた。

「気が早すぎだろー!」
「やっと涼しくなってきたけど、そのヒゲ、暑苦しいっつの!」
「クリスマスはまだまだ先だぞー!」

だの、みんな好き勝手に叫んでは笑うことを止めない。
そんなに笑われるとは思っていなかったナルトは思わずヒナタの姿を探した。笑い転げる人々のなかほとんど動かず肩を揺らすだけのシノの向こうから、ヒナタは首を傾げて驚いたようにこちらをじっと見たまま動かない。

『…んだよ…ヒナタまで…?』

ナルトは急に悲しい気持ちになってきたが、拳をぎゅっと握って懸命に堪え、

「そ、そんなに変かな?」

タハハ…と笑いながら頭を掻いた。

ひとしきり笑って満足したのか、それぞれがお菓子の袋を抱えたり担いだりして去りはじめ、代わりに同期たちがナルトのそばに寄ってきた。

「…はい。アンタの分」

サクラが素っ気ない態度と表情でナルトに袋を手渡した。それは「散々笑って悪かったわ」というサクラ流の謝罪でもあることを知っているナルトは、サクラにニカッと笑いかけた。

「…ちょっと…なんかないの?」
「ヘッ?なんかって、何が?」

もじもじしながらナルトに聞いたサクラはナルトの答えに目をむいた。

「だから!アタシの格好よ…!」

叫んだサクラは今日は救護班として本部に詰めているため白衣を着てはいるのだが、中は白いタイトなミニスカートのワンピースで、膝上までしかない白いストッキングには白いガーターベルトがついており、サクラの薄いピンク色の太股の、いわゆる「絶対領域」をほんのり強調していた。

「い、いつもより…スカート…短い…のよ?」

目をそらしながらもじもじするサクラがいつになく恥じらっていることに気がつかないナルトは、パチパチと瞬きをし、

「ウン…それはわかるけど…サクラちゃんはいつも足出してんじゃんか?」

それがなにか?ときょとんと聞き返したのでサクラは髪を逆立てた。

「人を露出狂みたいに言うなぁあああ!」

思い切り踏み込んで突き出した拳をナルトがさっと避けたことにサクラの顔が歪んだ。が、何気ない顔でそれを避けたナルトは、初めて避けたから失敗した、というようにバランスを崩すと、

「イテテテテ…」

どすん!と尻餅をついて頭を掻いた。

「へったくそー♪」

からかうキバの脇からするりと白い手が伸びてきて、

「…大丈夫?」

ナルトの腕にそっと手を添えたヒナタが、静かにナルトの前に膝をついた。

「アハハ!慣れねーことするもんじゃねーな!」

そのまま豪快に笑うナルトに、ヒナタはやさしく微笑み返した。
ヒナタの手を振りほどくことにならないよう注意しながらナルトがすうっと立ち上がった。つけヒゲが歪んで有らぬ方向についてしまっていて、みんなが笑う。

「ナルトくん…」
「ん?」

立ち上がったヒナタがさっきと同じように首を傾げながら声を掛けた。

「どうして…サンタさんにしたの…?」

その問いに、待ってました!と目を輝かせたナルトは、お菓子の袋を担ぐとえっへん!と胸を張り、

「サンタってのは子供にプレゼントくれる人じゃんか!」

ニッシッシ!と笑うと、今度は腰を折ってまるで子供に言い聞かせているようにぐっとヒナタに顔を寄せると、

「だからさ、今日オレは子供の味方なの!『この人はお菓子をくれる人ですよー♪』ってさ!このカッコしてっとわかりやすいだろ?」

そしてニカッ!と笑った。

「なるほど…」

シカマルがにやっと笑った。

「ナルト流の解釈、ね」

いのが呆れたように肩をすくめた。が、ヒナタは驚いて見開いた眼をゆっくりと輝かせると、

「とってもステキだね…ナルトくん…!」

そう言うと嬉しそうにふにゃんと笑った。
真正面から、誉められたことよりも笑顔を向けられたことに面喰らったナルトは、

「そ、そ、そか…?」

しどろもどろになって顔を赤くしたり青くしたりしていたが、ヒナタは、

「うん…とってもステキ…ナルトくんはみんなに、特に子供たちに楽しんでもらおうって…そういう気持ちでサンタさんを選んだんだね…!ナルトくんらしくてとってもステキ…だよ…?」

ヒナタは鈴のような声でそう言うと、また微笑んで首を傾げた。

「…あんがと…ヒナタ」

ナルトがほぐれたようにゆるりとした笑顔になるのを見て、サクラの胸がちくん、と傷んだ。

『まただ…』

じわっ…と、何かが込み上げてくる。

『だから…だから…ヒナタが…』

キライなのよ!そう続けそうになって、それだけは!とぐっと堪える。代わりのように涙が滲んできた。

意地っ張りで素直になれない自分の性格は、誰よりも自分が一番自覚している。だが、自分たちは忍びなのだ。強気で勝ち気なほうがより優秀で有能な忍びになれると信じてきた。そうやって結果も出してきた。ナルトだってそんな自分のことをちゃんと理解してくれているのだ。
それなのに。

『ヒナタを見てると…ヒナタと居ると…アタシ…嫌な子みたいじゃない…!』

さっきの自分に向けた笑顔と、今ヒナタに向けている笑顔。どちらも同じナルトなのに、どうして?

『どうして…どうしてヒナタを見てると…アタシ…惨めな気持ちにさせられちゃうの…!』

ぎゅっとスカートの裾を掴んで必死に堪える。
今だって、いつもならすぐに気づいてくれるはずのナルトは目の前のヒナタのせいで、こっちを向いてくれないのだ。

『こんなの…ヤダ…!』

気持ちがぐちゃぐちゃになって、取り繕うことが出来ているのかいないのかわからなくなってきてぎゅっと目をつぶってしまったサクラの背を、誰かがとん、と叩いた。

「?!」
「そんな思い詰めんなよ?」

振り返るとシカマルが、いつもの面白くもなさそうな顔で立っていた。

「ヒナタは…まぁしょーがねーよ、あんま気にすんな」

また軽く肩を叩いて、ふい、とどこかへ行ってしまった。
シカマルの言葉の意味がわからずぼーっと見送っていたサクラの視界の端にいのが写った。

「そろそろ行こっか?」

いのが声をかけてくれたその時に、

ドォオオオ…ン…

太鼓の音が響いた。まもなく開催宣言が始まるという報せだ。

「あっ!ボク行かなきゃ!」

チョウジが飛び上がった。ナルトの肩に手を置いて、

「ナルトがなんの仮装するか見たかったんだぁ。サンタさん、頑張ってね!」

にこっと笑うと慌ただしく去っていってしまった。

「あたしたちも行くわね。うちのお店には来て欲しいけど、サクラのとこには世話になっちゃダメよ〜?」

いのがサクラの肩を叩きながらそう言って、二人連れ立って出ていった。

「そんじゃーそろそろ行くかぁ」
「…うん!」
「…だな」

キバの言葉にヒナタとシノも従う。

「…お、おう!」

ナルトも慌てて袋を担ぎ直した。

「じゃな!」
「また後で」
「き、気を付けてね…!」
「ヒナタ…オメーもな」
「ど、どうして…かな?!」
「うむ…キバの言わんとするとこは…わかる」
「えっ?えっ?だ、だから…どうして?」

仲睦まじく去っていく八班を、ナルトは笑顔で見送った。

「あ。」

両脇の二人に交互にからかわれ首を左右に振る度に揺れるヒナタの長い髪を眺めながら、

「ヒナタの仮装…なんなのか聞くの忘れちった…」

小さな声で呟いた。

「ま、いっか」

もうまもなく、祭りが始まるのだ。待ちに待った収穫祭が。

「まずは…とにかく!」

お菓子の袋をぽんぽん、と叩く。早く子供たちを笑顔にしたい。

「コッチがゆーせんだってばよ!」

ナルトがニカッ!と笑った瞬間、今度は開催宣言のための集合を報せる太鼓が鳴り響いた。





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