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- ナノ -
収穫祭はもうすぐ

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里の目抜通りと言わずあちこちからも、軽快な工事の音がする。
収穫祭はもう間近。出店や屋台の準備が始まっているのだ。

「おっちゃーん!持ってきたってばよ!」
「おお!ありがとな!ナルトちゃん!」

ナルトは両手に提げたかさかさと音を立ててかさ張る包みを、ほい!と一楽のカウンターの上に乗せた。祭りの当日に使うミニラーメンのための使い捨て用の器だ。

「なぁなぁ、おっちゃん!ミニラーメンにも“なると”は入るのかってばよ!」
「あーあ、入れるさ!それがなきゃ木の葉の一楽ラーメンじゃねぇ!」

ニカッ!と笑うテウチの後ろで、ニシとマツも同じ顔で笑っているので、ナルトもお揃いの笑顔でニカッ!と返す。

「悪いねぇ、ナルトちゃんをお使いなんかに使っちまって」

すぐに出ていこうとするナルトへテウチが慌てて詫びる。
ナルトは再びニカッ!と笑うと、

「いやいやー!お役に立てて何よりだってばよ!」

振り返ったまま手を振って駆け出していった。
向こうから余所見をしたままふらふらと歩いてくる一般人が居たので、テウチがあっ!と声をあげそうになったが、ナルトは笑ったまま見事にするりと身をかわし、そのまますぐ見えなくなった。
余所見をしていた男は全く気づいていない。

「まったく。てーしたもんだ…」

誇らしそうに笑って呟くと、テウチは再び作業に戻った。


「あっ…!」
「おお!にーちゃん!」

養鶏家の夫婦が揃ってナルトに声をかけた。ナルトは走り去ろうとしていたのをすぐに足を止めて夫婦に寄った。
二人の真ん中になるように大切にだき抱えられているのは、先日産まれたばかりの赤ん坊だ。

「うわわ!もう外出してもいーのかってばよ?!」

ナルトは驚いて赤ん坊と母親を見比べる。

「練習だ、練習。祭り当日は無理でも、祭りの空気を味わわせてやりたくってさ」

父親になったばかりの彼が頬を緩め笑う。

「ほえー…」

ナルトはそぅっと距離をとりつつ赤ん坊を覗き込んだ。

「ちっちぇー…なんもかんも、めちゃくちゃちっちぇーんだなー…」

呆けたように小さな声でぼそぼそ呟くのを、夫婦は顔を見合わせて笑った。

「なぁに!にーちゃんだってすぐだろ!きっと」
「いい人はいらっしゃらないんですか?」

にこにこと穏やかに笑いながらからかわれ、ナルトはたちまち顔を真っ赤に染めた。

「なななな!す、すぐって!んなわけねーだろ!」
「どうして?」
「相手も居ねーのに!」

真っ赤になったナルトが顎をあげて叫ぶのを、二人はぽかんとして眺めていたが、すぐに盛大に吹き出した。

「なんなんだってばよ?!」
「なるほど…モテる男は違うねぇ」
「あんまり選り好みはなさらないことですよ」
「え、選り好みィ?!?」

ナルトが目を白黒させているので、夫婦はますます笑う。

「選り取りみどりで選びたい放題だからさ、迷うのはわかるけど、間違えないことだぜ!」

肩を叩かれるが、ナルトはまだぶすくれている。

「間違えない?」
「ああ!」

今度はナルトの肩に肘を置き、得意そうに笑うと、

「自分にとっての最高の女!ってのを、間違えないこった!」

今度は照れ隠しにばしばしとナルトの背を叩いた。

「やだもう…この人ったら…♪」

赤ん坊を抱きながら、妻もまんざらではなさそうだ。
二人に当てられて白けていたナルトだが、

「自分にとっての…か…」

ぽそりと呟いた。
男はにやりと笑うと、

「ああ。世間が褒めてるとか、みんな羨む、とかじゃねぇ。あんたがあんたらしく居られる、あんたが本当に求めてるもんを補ってくれんのが、あんたにとっての最高の女だ」

今度はなだめるようにぽんぽんと肩を叩いた。
うつ向いているナルトの表情に、妻がこっそり首を傾げたところで、ナルトはパッ!と明るく顔をあげると、

「うん!なんかよくわかんねーけど、ありがとだってばよ!」

夫婦を見て、それから赤ん坊に視線を落としてからニカッ!と笑った。

「ありがと!んじゃオレ行くな!」
「ああ、呼び止めて悪かったな!」
「いいや!赤ちゃん見れて嬉しかったってばよ!またなー!」

手を振って去っていくナルトを仲良く見送りながら、妻がそっと呟いた。

「英雄さまには…もう心に想う方がいらっしゃるんじゃないかしら…?」
「えええ?!ホントかよ?!」
「うん…たぶん」

妻は、うつ向いていたナルトの、何かを想うような表情を思い出していた。

「上手く背中を押してあげられていたらいいんだけど」

自分の愛しい夫を見て微笑んだ。

「ん?!?」

まだまごまごと慌てている夫に、妻は、

「あんたと一緒になれて幸せ…ってことよ」

そっと寄り添って肩に頬を当てた。

「英雄さまも…いい人と幸せになるといいわね」

愛し子を抱いた愛しい妻に寄り添われ頬を染めた男は、妻の肩にそっと手を回し、

「ならないわけがねぇよ。なんなきゃおかしいってくらいの人だしな…あの人は!」

ナルトが去った先をしばらく見つめていた。



準備と見学と冷やかしとで込み合う道を、ナルトは器用に駆け抜ける。予想外の人出に目をつけ、呼び込みや宣伝をしている店もある。

「んーと…テウチのおっちゃんへ届け物はしたしー…チョウジんとこに足りない部品も届けたしー…いのんとこのバケツ運び…の前に…なんだったっけ?!」

今日は一日御用聞きのお使い役を仰せつかっているのだ。ついでだからと突然舞い込む依頼もあり、繰り返しの確認が必要になる。
間に自分の用事も済ませるつもりだったナルトはそのための店に行こうとして、その手前の店から出てきた人影に思わず足を止めた。

大きな巻物みたいな包みを抱えたその人は、背は低いがよく似た面差しの女の子と共にいて、二人で楽しげにおしゃべりをしながらすぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。

じぃっとそれを見ているナルトを、何人かが怪訝な顔をして通りすぎてゆく。こんな人混みに立ち尽くしているなんて…という周囲からの気配にようやくハッとしたナルトは、口を引き結んで息をつくと、そこから跳躍して辺りの建物づたいで移動を再開した。

店から出てきたのはヒナタだった。そばにいたのは、

『妹が…居るとかじゃなかったっけ…』

才能があって、家督がどうとかで、姉であるヒナタを見下しているいう噂もあるが、

『仲…良さそうじゃん…良かった…』

知らぬ間に頬を緩めながら、ナルトは自分の用事を飛ばして次のお使いへと向かった。



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