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「#幼馴染」のBL小説を読む
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オレもやんの?!

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「やぁ。お帰り」

帰宅したナルトが解錠し自分の部屋の戸を開けようとしたその時、サイが隣に降り立った。

「連日お疲れさま」
「ああ、サイも」

ナルトは久しぶりに会うサイに嬉しそうに笑いかけると、入っていけよ、と指し示した。
ナルトの後についてするりと部屋にあがったサイは、いつもそうするように今日も興味深げにナルトの部屋を見回していたが、台所へ向かったナルトの背へすぐに声をかけた。

「連絡があって来ただけだから。長居はしないのでお茶は不要だよ」

驚いて振り向いたナルトへ、サイはほんの少しだけ困ったような様子を滲ませて笑った。
それを見たナルトはニシシ!と笑うと、

「作りおきの麦茶だからよ、遠慮すんなってばよ!」

そう言って素早く麦茶の入ったポットとグラスを二つ持って戻って来ると、サイに座れ座れと促した。

「収穫祭についてだよ」
「おお!そっか、準備に全然関わってねェけど、ほんと悪りィな」

ナルトはサイへグラスを差し出しながら、済まなさそうに笑って頭をかいた。

「ま、その分当日色々やってもらうみたいだから」

そう言うと、サイは小さい巻物を取り出して紐を解くと、テーブルの上に広げた。

「大まかな予定だけだけど」

サイが書き留めたのだろう、繊細な文字が読みやすく並んでいる。
活字を並べたようなきちきちとした字しか書けなかったサイが、随分と伸びやかな字を書くようになったもんだな…ナルトの頬が緩む。

巻物に書かれていたのは、

・出店…商店街及び他里からの行商人など。本職のみ
・一般参加者…自由
・他里からの来客…祭り開催宣言までに入門。閉会宣言ののち退出してもらう。その間は一切の出入りを禁ずる。

ここまではナルトも聞き及んでいた。作物を納品してくれる商人や生産者の中には、当日までにもう一度来ると言う者や、このまま滞在して参加してから帰ると言う者も居た。

・アカデミーの生徒による南瓜灯篭行列
・子供たちへの菓子の無料配布(※一般人優先?)
・仮装(または仮装行列?)
・出し物(寸劇?)
・Trick or Treat

大きな字で書かれていたのはここまで。後は、本来のサイの几帳面な文字で細々と、警護や救急搬送等の取り決めについて綴られていた。

「コレ…ナニ?!」

目を細めて下唇をつき出してナルトが聞いた。一応一生懸命読んでみようとしたのだろう、無意識にかきむしっていた髪がいつもより激しくぐしゃぐしゃになっていて、サイは声をたてて笑った。

ナルトが指差したのは、「Trick or Treat」の部分。

「いや、他にも聞きてェことはあっけど、全くわかんねェのはコレだ…」

ふっしゅー…と頭から湯気が出そうなほど煮えあがった顔をしているナルトにサイはまたころころと笑った。

「ごめんごめん、あまりにも想像通りで…あはははは」

笑い転げるサイを憮然と眺めていたナルトが、ついに痺れを切らして、

「もー!いーから教えろってばよ!」

くすぐってやろうと両手を伸ばした。笑ったままそれを避けて身をよじりながらサイは、

「これはね、どこか遠くの国の言葉らしいんだけど」

と、前置きし、見事な発音で音読してくれた。

「…もっかい…」

細めた目、つき出した唇、眉間に寄せた眉毛まで、顔のパーツがどんどん顔の中央に集まってくるのがおかしくて、サイはまた声をたてて笑った。

「わかりやすく発音すると、『トリック オア トリート』かな?」
「と、とりっく、おあ?とりー…とりーと…?」
「そう」

笑いすぎて滲んできた涙を拭いながらサイが教えてくれた。巻物の文字を指しながら、

「『トリック』いたずら、でこっちが『トリート』お菓子、らしい。『オア』は、どちらか、って意味で」

ふんふん、と神妙な顔をして腕を組んでサイの指先を見つめているナルトの様子に、サイはこっそり笑みを漏らす。

「『イタズラかお菓子か』って意味になってしまうんだけど、『お菓子をくれなきゃイタズラするよ!』って言っているらしくて。まぁつまりは『お菓子ちょうだい!』というおねだりの言葉らしい」
「マジか?!」

ナルトの突然の大声にサイが驚いて固まった。

「なんだよ!オレってば、オレってば、もっと早くコレを知りたかったぜー!魔法の言葉じゃねーかよ!?」

おおはしゃぎするナルトへ、サイはすうっといつもの冷たい真顔に戻ってしまうと、

「ナルト、これは子供限定で、しかもハロウィン限定なんだよ」

冷静に言いはなった。

「えっ…」
「まさか、明日にでも使える!だなんて思ったわけじゃないよね」

無表情な顔で淡々と突っ込まれ、ナルトは冷や汗を流しながら、

「きゅ、急にそんな冷静になることねェだろ!」

恥ずかしさを誤魔化すように顎をつきだして怒鳴った。

「そんな歳になってもまだお菓子が欲しいのかい?」

呆れ顔で巻物を読みやすいようにするすると動かすサイに、

「お、お、おおぅ…悪りィか…」

体を横に向けて腕を組み、ちろりと横目をくれながら食い下がる。巻物から顔をあげたサイがじっと無表情のまま見詰めること3秒。

「…この前18歳になったばかりじゃなかったっけ?」
「うるせェーっ!お菓子は何歳になっても欲しいんだーっつの!」

ついに顔を真っ赤にさせて怒鳴ると、ぶい!と体ごと横を向いて拗ねてしまった。

「でさ、」
「無視かよ!!!」

そのまま続けたサイに思いきり突っ込んだが、

「他に質問は?」
「ん?んん…」

問われれば素直に巻物を覗き込む。

『びっくりするほど素直だよね、ほんと』

サイはこっそり心の中で笑う。

「…コレ…読めねェ…」

まだちょっと表情は憮然としていたが、

「ああ、これ?『なんきんとうろう』だけど、『なんきん』はカボチャのことだから、カボチャのランプってことかな?」
「アカデミーで作ってるやつか!」

たちまちナルトの機嫌が直った。サイが驚いて顔をあげると、ナルトは先程の弾んだ声からご機嫌全開かと思いきや、優しい顔になって穏やかに微笑んでいる。

『アカデミー…から、イルカ先生?を思い出しているのか…?それとも、ナルトは子供が好きだから、それで…?』

とても大切な大好きな何かを想っている顔だな…

サイは密かに胸の奥で今のナルトの表情を描き留めた。

「他には?」

ナルトの思考を遮るように声をかけることにちらりと罪悪感がよぎったが、ナルトははっと我に返るとすぐに、

「これ、これ!」

とととん!と指先で『お菓子の無料配布』の部分を叩いた。思わず吹き出すサイ。

「ほんとに…!どうしても欲しいみたいだね、ナルトは!お菓子が!」

またころころと笑うのを渋い顔をして眺めるナルト。
サイは短めに笑い納めると、

「仮装してね、さっきの呪文を言いに来てくれた子供たちに『じゃあお菓子をあげよう』と渡してもらうんだよ」
「仮装?!?!」
「そう、仮装」
「誰が?!?」
「君が」
「オレぇエエエエエ?!?!」

ナルトが目を白黒させて叫んだのを見て、またサイは声をたてて笑った。

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